アルテミスの矢
そういえば、エリナ、あのクリスタルでできる魔道具、楽しみにしてるんだろうな。うん、善は急げだ。
「エリナ、遅くなってしまったけど、道具屋、これからちょっと寄ってかない? 例のマーガレットクリスタル、今夜頼んでおけば、明日には使えるようにしてもらえるはずだから」
「ああ、次の一戦用ですね。では、行きましょう!」
「もぅ、クリティは、すぐ仕事モードに戻るんだから」
と姫に言われたが、オレはエリナと二人で、宮殿庭の結界からゼッドの店にワープした。
「おっ! 庭からの来客、クリティだな、こんばんは」
「こんばんは」
「あの、この魔石ですが、私の箙にセットしてもらいたくて」
元々、この世界の箙には魔石をセットするのが普通、魔石の魔力を使い、その属性に合った弓を作り出すためだ。通常は正副二つセットしておき、正の魔力が切れた際、バックアップするようになっている。
ということもあり、今回の道具屋作業は特に難しくはないらしい。三つ目をセットできるよう箙にソケットを取り付けれるだけでよい、とのことだ。
「ちょ、ちょっと待て、この魔石、マーガレットクリスタルだよな! またまた凄いものを持ってくるなぁ。噂には聞いていたが。初めて見るぞ」
「何か問題でも?」
「いや、問題というか……」
ゼッドによると、確かにこの魔石、箙に神器クラスの性能を齎すとのことだ。作られる矢は、厨二病のゼッド命名でアルテミスの矢、だってぇ〜
伝説では必ず当たるとされているようだが、実際には「真っ直ぐに飛ぶ」らしい。
「なるほど、少しコツがいるということですね」
「その通り、遠くへ飛ばすためアーチャーは弓をやや上向きに構えると思うが、そんなことは不要、ただ単純に的を狙えばいい」
「大丈夫ですわ、私、できるアーチャーですから!」
「それは心強い、作業自体はあっという間だから、今済ませてしまおう、少し待っていてくれるかな」
《お、おい! 何気に言ってるが、真っ直ぐって! よく考えてみれば、とんでもないことじゃね? この世界の物理学はどうなってる》
《魔法の存在、魔法素粒子に絡むことじゃ》
ディアによると、この魔石で作られる弓は特殊な魔法を帯び、光子のように質量が「ない」状態になる。さらに、水や空気、その他物質の影響を全く受けず、歪みのない空間なら、どこまでも直進するらしい。
《それでいて、目標物に当たると、普通の物質に戻るんだろ?》
《そういう反則をやるようじゃな》
《もし当たらなかったら、宇宙まで飛んでいくってこと?》
《それはないのぉ〜 魔力が切れて途中で落ちる》
「ところで、ゼッド、マーガレットクリスタルといえど、魔石であるには違いなく、生産できる矢の本数に限界はあるの?」
「あるには、あるが、ま、人族はおろかエルフ族やドワーフ族の寿命より長く使えると思うぞ」
この種の特殊な魔石は自然に満ちる魔力を吸収し補完するらしく、数万年というオーダーで「持つ」のだという。
普通の魔石が乾電池とすると、特殊魔石はリチュウムイオン電池と考えればいいだろう。宝珠も同様の仕組みで、有史以来「稼働」し続けているらしい。
さすがゼッド手が早い、もののクオーター(約30分)ほどでセッテイング作業を済ませた。
「ありがとうございます! お代は?」
「そうさな。銅貨三枚でいいや」
「いやいや、それでは」
「作業はわずかな時間だし、部品も特に高価なものじゃない。全てはあのクリスタルの力ということさ。一生かかっても拝めぬ物を見せてもらい本当に嬉しいよ、クリティが常連になってくれて、次々と希少な物を目の当たりにできている、眼福割引と思ってくれ」
「そうですか、でも、それはクリティさんのお力で、私は何も」
「あんた、クリティのパーティメンバー、仲間だろ? なら、扱いは同等さ」
お代を払い、二人で再度、礼を述べ、オレたちはステラに戻った。随分と遅くなってしまったが、皆、夕食を待っていてくれたようだ。エリナは新しい矢を試してみたくて仕方がないようだが、それは明日ということにして解散となった。
「姫、アルテミスの矢、うーーん、言えないのですが……」
「前世の何かね」
「ええ、そして、なにより、この世界には魔法というものが存在し、私の知る物理法則が通用しません」
「うーーん、そうなのかしら。貴女が前世で学んだ物理法則は法則としては正しい。でも、魔法というものが、それに被さって存在している、みたいな?」
「姫! それは、素晴らしい発想です。私たちは二重に重なりあった世界、物質世界と魔法世界とでも呼ぶものの中にいる。そうか! 私の前世にも実は魔法があった、ただ、我々は物質世界しか『見て』いなかっただけ」
「うん、そんな感じ」
《ディアの言う、魔法素粒子とも符合するな》
《よい発想じゃ! そう考えると、妾の知る魔法法則を説明するのが楽になる。ま、彼女はエルフ、発想が人レベルを超えているということかのぉ〜》
《いやいや、日本にも偉人がいたぜ、長岡半太郎の土星型原子モデルみたいな感じじゃね?》
《おお、長岡半太郎は、言い得て妙じゃのぉ、正確ではないが、物事を説明する比喩として秀逸、ということじゃ》
と、ディアと長話をしていたら、姫から不意打ちがきた。
「じゃ、全ての法則を無視してる、私の、しとしい人❤︎」
で、オレは、お決まりの記憶喪失状態へと誘われた。




