木の葉落とし
この状況を、一番、気にするのはエリナってことになるよな? 二つのベッドと仲間の顔色を順に見回した彼女は。
「大丈夫です。姫、クリティ、ドロシーは一つのベッドで、ジャン、しかたがないから、横で寝てあげるわ」
「いやいやいや、こう見えて俺、紳士でね。確か、荷物にシュラフがあったと思う。床で寝るよ」
《紳士? DTともいう》
《あのなぁ〜》
前世、DTを恥ずかしがらない若者が増えていた。男性の未経験者は半人前と見做されるのに、女性の処女は珍重される。変じゃね? 男女同権になったってことかもしれない。
「遠慮しなくていいのよ」
どこかホッとしたような表情でエリナが返した。
《彼女も? オイ! ディアが変なこと言うから、妄想が膨らむじゃないか》
《主様、それは、幻肢というヤツじゃな。失くしたアレが疼くのじゃろう》
《そこまで! 18禁じゃないからな》
ということもあって、一つのベッドで、姫、ドロシー、オレ、もう一つはエリナが使い、ジャンは床にシュラフを敷いて寝た。
翌、朝まだき、オレたちは暗い内に起き、ビスケットと水の軽食を食べ、ログハウスの外に出る。
表では長のヨナ、その子のヨブ、孫のエリフ、さらには十名ほどのハーピィ族が緊張した面持ちで迎えてくれた。瑠璃色、金糸雀色、萌葱色……、皆、光り輝く美しい翼を持っている。
「お待たせしました!」
「では、行きましょう!」
オレたちはカラマツの森を抜け、打ち合わせていた「迎撃拠点」に到着した。このあたりは高木が多く、すでにボーガンを抱えたハーピィたちが数十名、木の上で待機している。到着した一行も所定の位置についた。
「ああ、大丈夫、私につかまって」
飛べないジャン、エリナ、ドロシーは、立ち上がって空を狙えるよう、丈夫そうな枝を探し降ろした。
「わーー、こんな高い場所、ワクワクしますね」
「なんか、高いところ、気持ちいいね。あ、ジャン兄ちゃん、気をつけて」
「ちょっ、ええええ! 下見ちゃダメですね」
「ジャン、高いところは苦手?」
「あ、ま、少々、でも頑張ります!」
一旦、着陸したオレ、姫と長の二人は司令塔として地上に残っている。
「じゃ」
「気をつけてね、クリティ」
「くれぐれも、ご無理なさいませんように」
「ありがとうございます、では、いってきます!」
《あの石がいいかな?》
《じゃな》
オレは、そのあたりにあった差し渡し一メートルほどの大石をPKで持ち上げつつ空に飛び立った。何をするのか? だって、まぁ、お楽しみということで。
東の空に赤みが差してくる、そろそろ夜が明けるのだろう。オレは魔獣ザクルが寝ぐらとしている木々の上空に到達した。
このあたり、トネリコだろうか樹齢を経た立派な木が多い。よりによって魔獣のヤツ、ハーピィたちが神域としている場所に巣を作ったようなのだ。
だからさぁ〜 無闇にヨグソトースをぶっ放すわけにもいかない。オレはエプロンにいつも挿している、ミョルニルハンマー(改)を抜き、準備してきた大石を軽く叩いた。大石は粉々に砕け魔獣の巣に降り注ぐ。
さぁ! 戦闘開始だ!
アレ? 一気に一万羽の群れが襲いかかる、ということはなかった。彼らはなかなか賢い、いきなり上空から襲いくる敵、只者ではないと判断したようだ。
千羽ほど五グループに分けた一団が、右から左からオレを目指してきた、ひとまず逃げる。
飛行魔法は、時間と重力操作を同時に行なっている感じだ。なので空気抵抗はある、だが、体が焼き切れない程度までの加速ならできるはずだ。
スピードでは絶対に負けないが、攻撃を受けず敵が見失わない距離を保つのは、なかなか難しい。
三グループを引きつけながら、少しずつ、少しずつ、味方が待機する場所方向へ誘導していく。本来、敵に自分を追わせるというのは戦術として下策だ。魔法というものは詠唱するにせよ無詠唱にせよ、目標物を視認しなければならない。
機関砲が前に付いていたレシプロ戦闘機のようなもの、と考えればいいだろう。後方につかれたら一方的に攻撃を受けてしまう、ということだ。敵もそれを知って、追いかけて来るのだと思う。
残り、二グループは、どこ行った?
ええええええ!!!
ヤツらとんでもなく聡い。いつのまにか、二グループはオレの前方に回り込んでいる。囲まれた!!
ピィーーンチ! でもないのだな、むしろ、この展開を待っていた。
オレは瞬時に九十度機首を上げ急上昇に転じる。もし、オレがレシプロ機なら、あっという間に失速し、落下しているはずだ。コレ、木の葉落とし(マニューバ)という空戦技なんだよね。
敵機にバックを取られた時の起死回生技、故意に無理な急上昇をして失速、落下することで、突然、敵の視界から消えたように見せる。
そのまま落ちれば墜落ってことになるが、そこはパイロットの超絶テクニックで立て直し、今度は下から敵を襲い反撃に出る。
だけど、重力魔法で飛んでいるオレは失速しないんだよね。五グループが追って来るのを確認し、十分な高度、三千メートルくらいになったら。
フフフ、反則技のワープ!!!
敵集団の真下に転移したら、もう遠慮することはない! ヨグソトースを魔獣集団のど真ん中に作る。黒より黒い、真の闇、禍々しい球体が現れたと思ったら、瞬く間に肥大化、その直径は五百メートルに達し、敵を包み込んだ。
ブーーーン、キュン!
耳をつんざくような高周波を残し、五千羽の魔獣は跡形もなく消え去った。
ヨシ! これで半分。




