ハーピィの長
族長の住まいと思しき住居は、断崖に立つ瀟洒な建物だった。円筒形の尖塔も美しい、おとぎの国の妖精城といった風情だ。
《鳥の巣箱みたいなものを想像していたんだけどな》
《それは、彼らに失礼というものじゃろ》
しばらく道を行くと、オレたちの到着は事前に知らされていたのだろう、数名のハーピィが迎えに出てくれていた。
事前情報通り身長は低い、やはり一メートルくらいだ。顔は嘴などはなく人族のように見えるが、背中に大きな翼があり足は鳥状で靴は履いていない。足の指は三前趾足、一本が後ろ、残り三本が前を向く一般的な鳥類の形だ。
群青色に輝く翼を持った長らしき者が進み出てきた。
「はじめまして。私はハーピィ族の長を務める、ヨナと申します。かつて、孫のヨブがアミーナ学園長にお世話になった縁、はるばるお越しいただき、まことにありがとうございます」
「私、こちらのクリティとエリナは、メディス学園の卒業生です。ヨブさんと同じ学舎で、アミーナ学園長に薫陶を受けた私たちですから、お役に立てることであれば、なんなりと仰ってください」
「あまり大っぴらにはしたくないのですが、私は飛ぶことができます。さらには、神にいただいた、とてつもない力、極論すれば、破滅の力を持っております」
オレは自らの能力と今回の作戦について大まかに説明した。この世界の常識を覆すような力、ハーピィの長はじめ、一同、言葉を失くしてしまっている。
「ひとまず、ご挨拶を続けますね。私はエリナ、専門は弓ですので、今回は、お役に立てるのではないか、と思います」
「俺は、ジャンと申します。弓は専門ではないので、このボーガンで」
「私の名はドロシー、子供に見えますがオーガの血を引いておりますので、成人とお考えください。私もこちらで参戦いたします」
ドロシーは片方のお団子袋を外して、大人っぽい挨拶をした。さすが、場の雰囲気を察しているようだ。
「こ、これは、クリティ殿のお話が、我々の想像を超えておりましたので、しばしの沈黙、失礼いたしました」
「いえいえ、私の力は大き過ぎるが故、加減をせずに行使してしまえば、大きな副次被害を生みます。ですので、作戦内容は細かにお打合せくださいますよう、お願いします」
「かしこまりました、では、こちらへ」
ハーピィたちに案内され、少し道を行くと再び開けた場所に出た。木陰に隠れて見えなかったが、おとぎの世界には不釣り合いなログハウスが建っている。
長によると、住居の補修工事をするため人族の大工が使っていた設備らしいが、今では他種族の来客用に改造し、ゲストハウスになっている。
「妖精城」の中も見学したいと思ったのだが、なにぶん小過ぎるので諦めることにして、一行はログハウスに入りテーブルを囲んだ。
「申し訳ないことだらけですが、人族の皆様が入れる家屋はここだけで、ベッドは二つしかありません」
「まぁ、まぁ、お気遣いなく」
もう力のことは話してしまったし、皆を一旦、ステラに送って行ってもいいよな?
「我らの戦力については、徒歩でここまで来れる若者を集めましたが、やっと七十三名、それが全てです。さらに、木の上からボーガンで射るという戦術しか使えません」
「私たちのメンバーと一緒に、まとまって攻撃するようにしましょう。ああ、言い遅れましたが、私はヒーラーです。ある程度、皆が近くにいる方が、回復しやすいと思いますので」
「おおおお! 高い攻撃力と回復、まさに、皆様は我らが救世主です!」
《なんか、救世主という言葉、安易に使われているというより、妙に引っかかるんだよね?》
《そうじゃな、何かの伏線のようにも思えて来たのぅ》
「これを、みなさんでお使いください」
姫は準備して来た照準器について説明し、袋に詰めて手渡した。
「百あると思いますので、みなさんに配ってください。ただ、これは、エルフの大切な武具です。差し上げるわけにはいきません」
「滅相もない! 責任を持って返却いたします」
で、でだ、作戦なんだが、オレがザクルと呼ばれているハヤブサ型魔獣の寝ぐらを襲い高空に誘導する、ブラックホール魔法で倒せるだけ倒したら、今度は残りを低空に誘導しボーガン隊に任せるというような戦術だ。
《主様よ、ブラックホール魔法とか、ダサくないかのぉ〜 この際、何か名前を》
《なに、なに、ディアも厨二病かい。なら、うーーん、そうだ! ヨグ=ソトースなんてどう?》
《空虚の神か? うん、うん。よいな、クトゥルフはよい》
《OK、ヨグソトース、な》
「ああ、それから、少しではありますが、食料も運んで来ました故」
「何から何まで、ありがとうございます」
「では、我々は、こちらで手持ちの夕食といたします。明日は夜明けとともに、作戦開始ということで」
「了解です。私たちも早めに寝ることにしましょう」
空路を魔獣に妨害され、物資の流通もままならないハーピィ族、食事をごちそうになるわけにはいかない。オレたちは運んで来たパンと干し肉で、簡単な夕食を済ませた。
「さって、今夜も早めに寝ますか?」
「順番にステラまでお送りしますよ」
「いいじゃないですか、ヨナさんの折角のご厚意ですから、ここで泊まって行きましょうよ?」
「って、ベッドが二つ」




