照準器
ゼッドの作業中、今回の件を聞いてみると……。
「うーーん、鳥魔獣が、人を襲うなんて聞いたことないなぁ〜 なんだか、最近、物騒なことが多い」
「私がこちらに召喚されたのにも、なにか意味があるのでしょう」
「だなぁ、飛べる魔道士なんてのも、未だかつていなかったということは、そういうことだろう。じゃ、気を付けてクリティ、皆によろしくな」
「はい」
オレはボーガン代金の銀貨五枚、いつもの割引価格を払って、ステラに戻った。
「はい、こっちがドロシー、これがジャンのボーガンね」
「あ、クリティ、誰がどこを狙っているか問題、解決したわ」
と言って、姫が示したのは、スカウター? 片目眼鏡のような形をしたものを取り出した。どうやら、これ、エルフの軍事用らしい。
赤外線照準器のようなものだが、弓やボーガンの射出能力、風向を魔法で自動計算し、確実当たるよう角度調節までサポートしてくれる。さらに、他人が狙っているターゲットも、赤いマーカーで分かるという、とんでもない優れものだ。
いやはや、こんなすごい魔法技術を持ったエルフと、あの王様、一戦を交えるつもりだったんだよね? 無策にも程があるだろう。
「ハーピィさん用にも必要だろうと思って、百個ほど借りてきたわ」
「明日の準備はできましたが、俺とドロシー、ちょっとだけボーガンの練習してきますね」
「ああ、なら、庭の奥に弓の練習場があるから使って」
「あら、ジャン、私の指導はいらないと?」
「あ、失礼しました、お願いします」「エリナお姉ちゃん、よろしくね♪」
ハーフ(約1時間)ほどして三人が戻ってきた。
「ま、この照準器が優れているってことかしら。二人とも役には立つと思うわ」
「どうもありがとうございました、せ・ん・せ・い」
「あのね、ジャン、最敬礼とか、そういうの慇懃無礼って言いますのよ」
「二人とも仲良くね」
「子供に諭されましたねぇ〜」
「って、コイツ、子供じゃねぇし」
「はい、はい、夕食の準備ができてるから食べてくださいね、で、今夜は早めに寝てねぇ」
みんな、姫の忠告に従い、早めにベッドルームに引き上げた。オレも姫とベッドの中。
《どう表現すればいいかなぁ〜 こう、神に誘導されてる感じが、どうも引っ掛かるんだけどな。なんだか、自分で切り開いてないというか》
《クリティは真面目じゃのぉ》
「何をディアと話してるの?」
「え、分かるの?」
「なんとなくね、急に黙るから」
「いや、神が敷いたレールの上を私たちは走っているだけで、なんだか、あんまり努力してない気がして」
「クリティは真面目ね」
「ディアと同じことを言う」
「とはいえ、私たちには、いろいろ考えるべきことがあるじゃない、この世界の謎とか」
「ま、そうですね、って、あ!」
キスが来た。
「よく寝れるおまじない。おやすみなさい」
「おやすみ」
翌朝、今日も快晴、夏の日差しも若干緩んできたようだ。といっても、かつての日本のような、蒸し暑い夏ではないのだけれど。
早めの朝食を済ませた五人は宮殿敷地奥の倉庫へ向かう。2号に乗り込んで、いざ!
学園長の説明はとても的確、もののクオーター(約30分)でバルデン山の麓に到着した。麓といっても高原地帯の登山口で海抜千メートルくらいの標高がある。
さって、登山開始! この山の標高は二千メートルほどだが、すでに半分、五合目から登ることになる計算だ。アカマツ、トウヒ、など、この地方に多い針葉樹の森が続いている。
登山道は人族の行商人がハーピィの里を訪れるためのもので幅員一メートルほど、心配していたほど道は荒れておらず、比較的歩きやすかった。
エルフの森もそうだが、こういう緑の多い場所は空気が違う、とても気持ちがいい。
標高が上がるに連れ次第に道は険しくなった。倒木や大石はPKで除けながら進む。一番不安なのはエリナの体力だ。肩で息をしだしたが、ジャンの手前、弱みを見せたくないのだろう、頑張っている。
《PKで押してやろうか?》
《そういう無粋な真似をしてはならぬ》
「では、このあたりで休憩して、お昼を食べましょう」
さすが姫、絶妙のタイミング! 彼女もまさに「お姫様育ち」なわけだが、エルフの基礎体力は人族よりずいぶんと上のようだ。ドロシーもオーガの血のなせる技だろう、汗もかかずケロっとしている。
「クリティさん、荷物全部持たせたて、すいません」
「いえいえ、私『歩いて』ないですから。種族の基礎体力差というのはいかんともし難い、人族の方、どうかご無理をなさらないようにしてください。最悪、途中で休んでいただいておいて、私が迎えに来るという選択肢もありますし」
「いえ、それはダメです。私、誰かさんに言われたような軟弱者じゃないと、示したいですし」
「うっ……、いや、俺もかなりしんどいっすから」
「あら、私、全然、平気ですわ」
確かに、汗はかいているようだが、エリナ、サンドイッチもちゃんと食べれている。バテたということは、ないのだろう。
「お水だけは、ちゃんと飲んでくださいね」
「クリティ、引率の先生みたい」
「メイドですから。じゃぁ〜 午後の部、がんばりましょう!」
先を行く姫とドロシーは気を遣ってペースを落としてくれたものの、人族にとっては結構キツイ山登りだったと思う。
ジャン、エリナ、二人とも汗だくになりながら、日暮れ前、なんとかハーピィの長が住む頂上付近まで辿り着くことができた。
そこに広がった風景は……。なにコレ? すんごい立派じゃん!




