ボーガン
「では、早速、準備を整え、出発することにします!」
オレたちは立ち上がろうとした。
「あああ、お待ちなさい。こちらに地図があります。バルデン山は、こういうふうにワープすれば、すぐですよ。麓からは徒歩となりますが」
いやはや、学園長、オレたちの事を知り尽くしているようだ。ハーピィは学園長のいうバルデン山一体を住処としているが、その代表者が住む高山の邸宅までのルートを分かり易く説明してくれた。
ステラからバルデン山は比較的近く、三度ほど飛び石ワープすれば麓に到着できそうだ。そこからは唯一、人が通れる登山道がハーピィ代表者の住まいに続いているらしい。
道はあまり整備されてはいないようだが、朝から登り始めれば夕刻には辿りつけるだろう、とのことだ。ま、障害物があればPKで除けていけばいいし。
いや、オレが飛べるというのは、どうせバレるわけだし、飛んで行けば……。ああ、ダメか、魔獣は飛行する者を襲うということだから、準備もないまま、いきなりの交戦は避けたいよな?
「クリティさんと、ルルメリア姫のことですから、大丈夫と信じてお願いしているのですが、くれぐれも、お気をつけて」
「お気遣いありがとうございます。本件、できるだけ早い方がいいと思いますので、明日は早朝に出立するつもりです。冒険者ギルドへの報告、お願いしてもいいですか?」
《上司に『聞いてないヨォー』などと言われたくないという、ことかの?》
《まぁ、そういう配慮も必要だろ? オレ、リーマンじゃなかったけど……》
「その点はご心配なく、冒険者ギルドの頭越しに解決した、などとは決して言わせません。ああ、ネルヴェのギルドマスターへもちゃんと話を通しておきますから。ちなみに、こういうのは、報告ではなく根回しと言うそうですよ」
って、オイオイ、さすがというか、なんというか、学園長は日本文化にも通暁しているってこと?
「では、失礼します……。あ! 学園長、今度、お迎えにあがりますので、ステラでお食事でもいかがですか?」
「なるほど! いいですね。そういう発想、ありませんでした。何かこちらの美味しいものを持参いたしますので、是非! エリナさんやパーティのみなさんにもお会いしたいですし」
そうなんだよな。オンラインじゃなくて、リアルで全世界、どことも繋がってるって考えると、なんだか、いろんなことできるよな? なーーんて、思いつつ、オレと姫はステラに戻り、他のメンバーに事情を説明した。
「姉御の力は、まぁ、別格として、ここはエリナの腕の見せ所だな」
「あら、今更、お世辞?」
「私とジャンお兄ちゃんは、ボーガンを借りるのがいいかな。誰が、どの順番で獲物を狙うかを、決めておいた方がいいね」
「って、なに、ドロシーが一番しっかりしてるじゃない」
「だねぇ〜 バルデン山についたら、ハーピィの方々とも打ち合わせて決めるといいかな。仕切りは姫にお任せです」
「了解! 明日、早朝に出て、夕刻にバルデン山、夜、打ち合わせをして、次の早朝、決戦ね」
「そうですね、準備を済ませたら、今日は早めに寝ておきましょう」
「準備にレモンイエローのサマードレスはいらんからな」
「あら、ジャン、随分と、あのドレス、お気に召したのかしら? アレレ、もしかして、お気に召したのはドレスじゃなくて、わ・た・し?」
「ちょっ、そういう反撃は、反則」
「なんで、ジャンお兄ちゃん、顔を赤くしてるの? 風邪?」
「ドロシー、いつも言ってるだろ! 子供の振りをするのは、よせ」
《仲良きことは美しき哉》
《なんだよ。武者小路実篤かよ?》
《昭和の家には必ず一枚、野菜絵の色紙、あったのぉ〜》
《そのあたりから、人に関わり出したのか?》
《基礎教養として人の社会を眺め始めたのは1960年頃からじゃろうか。日本は高度成長期で、東京オリンピック、新幹線の開業、大阪万博、懐かしいのぉ〜 じゃが、主様が初めての人ということに嘘はないぞ》
《処女をあげたんだから、大事にしろと》
《イヤン! モロに言われると、恥い❤︎》
「さっ、さっ、冗談はそれくらいにして、準備を始めますよ」
《あ、コレ、オレたちの話も察した発言じゃね?》
《姫は鋭いのぉ〜 妾の声が聞こえておるようじゃ》
「あっ、ボーガンですが、借りるより道具屋で買ってきますよ。ドロシー用に小さめ、ああ、逆か、ジャン用に普通サイズも、必要でしょうから」
オレは早々ゼッドのところへワープして、ボーガン二丁を調達した。この世界のボーガンは、魔法の箙と同じく、魔石をセットしておくと、その魔力を利用して自動的に矢を供給してくれる。
うまく使えば、かなりのスピードで連射できる優れものだ。
「鳥の魔獣ということは、木属性ということだな。では、金の魔石、大きめのものをセットしておけばいいだろう」
ドロシー用にサイズ調整をしながら、ゼッドがそうアドバイスをくれた。
五つの宝珠が象徴する基本魔法属性は五つ。それぞれ旧地球の五行に似た相性があるようだ。今回は、金剋木、木に対して金は強属性となる。
ちなみに、残る光と闇の特殊魔法属性については、強弱はなく、互いに打ち消し合うことになる。




