学園長の依頼
で、まぁね、こうなってしまったら、記憶が残るのは最初の十分くらいだ。
気が付けば、朝、カッコウの鳴き声で目が覚めた。だけどオレ、メイドだからさ、ちゃんと役割を果たさないと!
姫より先に寝床から出てカーテンを開ける。朝の日差しに森の木の香りが芳しい、清々しい朝だ。
「じゃ、朝食が済んだら、案内するわ、みんなでゆっくり森林浴でもしましょう」
「姫、その案内は、他の誰かにお願いしてください。姫と私には急用ができたようです」
ま、フラグなんて言っちゃったけど、やっぱりなぁ〜 禍福は糾える縄の如しということかもしれないが。オレは真っ赤に輝いている卒業記念指輪を姫に見せた。
「もぅ、学園長った無粋ね。クリティの予感、コレのことだったのかな?」
「そんな気がします。学園長のお話が怖いですね……」
「クリティって、前世でも、そんなペシミストだったの?」
「多分」
《いや、付き合ってみて、よく分かるぞ、悲観的というより、考え過ぎの方じゃのぉ〜》
ディアのツッコミをスルーして、オレたちはメディス学園の温室近くにワープした。
「学園長自らお出迎えとは、恐れ入ります」
「火急の用ということでしょうか?」
「いえ、そこまでではありませんが……。ひとまず、座ってお話しましょう」
オレたちは学園長室に入り座り慣れたソファーに腰掛けた。いつものごとく、学園長自ら紅茶を淹れてくれる。
「申し訳ないですね。一ヶ月も待たず、呼び出したりしてしまって」
「ああ、まだ、それくらいしか経っていないのですね!」
「冒険者の暮らしは、姫にとって何もかも目新しく、充実しているってことでしょう」
「お二人とも元気そうで何よりですね。で、早々、本日の案件なのですが、実は本校の卒業生で唯一、ハーピィ族がおりまして」
《ああ、ここは異世界だったなぁ〜 まだまだ、定番種族いるよね?》
《そうじゃな》
人族、エルフ、ドワーフ、マーメイド、魔族というのが、この世界のメジャー五種族というのは、知ってるよな?
だが、この世界にはメジャー種族以外にも、多種多様な少数種族が暮らしている。
その中の鳥人族にあたるハーピィだが、人に翼を付けた天使スタイルの鳥翼人より、もっと鳥に近い。成人でも身長は一メートルくらいで、翼の先に手があるタイプだ。
「その卒業生からのSOS、ということですね。魔獣絡みですか?」
「ええ、その通りです。宝珠のバランスが崩れたことが原因と思われる異常現象でしょう。やっかいな魔獣がハーピィの里に大きな被害を与えています」
今回の件も先日のクエストで狩った一角狼と同じような現象らしい。小型の猛禽類型魔獣が、なぜか突然、集団で人を襲うようになった。この魔獣はハヤブサ程度の大きさで普段は鼠やリスを食している、というところも一角狼と同様だ。
ハーピィ族の生活は「飛べること」を前提に成り立っている。山の各所に住まいや施設が設けられているが、その間の道路は整備されていないという意味だ。
空が危険な領域になってしまえば、たちまち日々の暮らしに影響が出る。無理な飛行で魔獣に襲われ、命を落とした者もいるらしい。
「なぜ、冒険者ギルドが絡まないのですか?」
「姫の指摘、もっともですが、冒険者ギルドはハーピィ族からの依頼を断ったのです」
「え?」
「空を飛ぶ魔獣に対応できる冒険者など、たったお一方を除いて、いませんから」
「ア、アハハハ、ですが、ハーピィ族自身や鳥翼人の応援を依頼する、という方策は?」
「難しいでしょうね」
まず、ハーピィ族なのだが、翼の先に手があるため、飛行しながら武器を操ることができない。剣を振るおうとすれば、翼を畳むことになり落下してしまう。
じゃ、魔法で攻撃すれば? だが、これも難しい。普通、魔法を使うには詠唱が必要で、その照準合わせは、術者の視認によって行われる。
詠唱完了の瞬間、ターゲットが視界にいなければらない、ということだ。地上を走る物ならいざしらず、双方飛行しながらタゲるのは至難の業だ。
鳥翼人の冒険者、いないこともないようだが、全世界からかき集めても数名がいいところ。魔獣の数が多過ぎて、とても対処できないらしい。
結局、無詠唱で魔法が使えて飛べるオレ以外、対応不可能ってこと?
《コレ、ヤバくない? 嫌な予感しかしない》
《ま、狼の時のように数百などというお遊びではなかろうて》
「あのぉ〜 魔獣の数は、いかほど?」
「少しずつ数も増えているようですが、現段階で一万羽ほど」
《オレの魔法、「範囲」ってできるの? かつてディアが街一つとか豪語してたから可能なのだろうけど》
《可能じゃが、目標物が曖昧だと影響範囲の調整が難しいのぉ〜》
《副次被害が出る?》
《空中じゃと、球体をイメージして、その範囲を『消す』ということになるじゃろう》
《その球が大き過ぎれば、あたり一面、消してしまうと》
《そういうことじゃ》
「私が対処するしかない案件である点は理解しました。ですが、私の魔法は範囲で使う場合、その調整がとても難しいのです。森を丸ごと消すわけにはいきません。慎重に範囲を絞って使いますので、どうしても撃ち漏らしが出ると思います」
「何を言ってるの、クリティ、私たちがいるじゃない!」
「もちろん、そうだけど……」
「ハーピィ族も自分達の問題ですから、当然、参戦してくれると思いますよ」
彼ら、飛びながら攻撃するのは難しいが、木の上からボウガンを射るようなことは可能とのことだ。




