狼クエスト
一旦、割り振られた自室に引き上げた、エリナは、荷物を置いて着替えて来たようだ。チュニック、パンツ、ショートブーツの動きやすい格好、弓を持って箙も背負っている。
「じゃ、行きますか。この時間なら、ギルマスは在室していると思いますし」
二人はギルドの中庭にワープした。
コンコン
「あれ? 一日早くないですか? ひとまず、お掛けください」
「エリナ・ルメールと申します。クラスはアーチャーです。本日中にギルド登録だけでもと思いまして……」
念の為、また断っておくが「この世界はゲームではない」。だから、アーチャーでなければ弓を装備できない、などということはない。ここでのクラスとは「弓が得意です」「通常武器は弓を使います」という程度の意味だ。
「リムゲイムと申します。よろしくお願いします。では、まず、レベル測定から始めます、規則ですのでご勘弁を」
例の血圧測定器のような道具を持って来て、ギルマス自ら測定した。
「Lv.40ですか、とはいえDEX、AGIはカンスト近く、アーチャーとしてはかなりの上級者とお見受けしました」
「では、こちらを」
「え!」
ギルマスはシルバーランクの認識票を出した。
「いや、さすがにですねぇ〜 たった一週間ですが、みなさんの実績からして、コパーやブロンズが混じったパーティというのも、なんだか不自然だと思いまして。まぁ、クリティさんなら、ゴールドはもちろん、プラチナでもタンタルでも、全然いいのですが」
ほぉ〜 最高クラスはタンタルなのか。クレカのブラックカードってところかな?
「ああ、あまり目立つのは避けていただきたいと」
「でも、私、いきなりシルバーなんて!」
「いや、今のステータスを見ただけで、十分ですよ、それに」
「それに?」
「クリティさんの『弟子』なんでしょ?」
「ああ、アハハハ」
「アーチャーの方がいらっしゃるなら、ますます好都合、お願いしたきクエストがあります。明日朝のミーティングに参加させていただき、詳細を説明いたしますので」
どうやらギルマス、オレたちがいるのをいいことに、各ギルドで持て余している高難易度クエストを探し回って、請け負っているようだ。
「では、明朝、お迎えに上がります」
「じゃ、エリナ、帰りましょうか?」
「ええ、だけど、またこのことで、ジャンに何か言われないかしら?」
《なるほど! 知らず知らずの内に、エリナはジャンを意識してしまうってことか! 高等戦術というのは、よく分かった》
《じゃろぉ〜》
《って、ディア、なんで、ンな、ラブコメストリーに興味あるの?》
《言ったじゃろ? 素粒子の振る舞いに……》
《はい、はい、オレたちは、悪魔から見ればゲージ粒子ってことですね》
「言われるかもしれませんが、ジャンのアレは、一種の好意、親愛の証みたいなものですよ」
「本当かしら?」
戻って、みんなでエリナ歓迎会、こういう時はフォンジュなのね。さらに、こんな席にも、さりげなく王様、来てるし。
「皆様には期待しておりますが、『世界を救う』などと、あまり無理をなさらぬように」
「アハハ、『我ら救世主たらん』などと不遜な考えは持っておりませんが、この世界、前世の常識からすると、ずいぶんと違和感があります。まずは『世界の謎を解く』から始めます」
「なるほど、魔法のない異世界があるというお話、聞いたことはありますが、そういうことなのですね?」
「この違和感、明確に解説できないのは、隔靴掻痒の感がありますが……」
などと、オレは王様と話し込んでしまっている間、ドロシー、なんやかやとエリナに話しかけ、ジャンがツッコミタイミングを逸するよう、誘導していたように思う。さすがドロシー、中身は子供じゃないってことだよな。
「では、エリナ、来たばかりですが、明日朝、ギルマスがクエスト依頼を持っておいでになります。みんなも、早めに就寝を」
と、いつものごとく、姫が締めた。
「私は、全然大丈夫ですよ! ドロシーとクリティのお陰で移動がとっても楽でしたし」
「ああ、それからね、ジャン、全員、シルバーランクに昇格だって、ギルマスが明朝、認識票を持ってきてくれると思うけど」
「姉御、なんで全員の話なのに、俺を名指しするんすか? って、ああ、分かりましたよ。俺だって十分大人ですから」
あっ! ジャンの意地悪、ディアの言う高等戦術、恋の駆け引き、っていうのは考え過ぎかもしれない。小学校とかで、好きな女の子に、何彼とちょっかい出す男子いたよね? その程度のノリじゃない?
ということもあって、翌朝は早朝のお迎え、ギルマスを交えて六人でのパワーブレックファーストとすることにした。
「早々ですが、皆様にお願いしたきクエストについてお話しさせてください。ドルトニアからナルシュリアに向かうモルド街道なのですが、その近辺の森にやっかな魔獣が出没するようになりまして」
「え! モルド街道の通行が危ういとなれば、経済的なダメージが凄く大きいのでは?」
さすがルル姫、政には詳しい。ナルシュリアというのはドワーフが治める国だ。
「ゲームではない」と大見えを切った、舌の根の乾かぬうちに、この解説は面映いが、RPGの一般常識通り、この世界でもドワーフは工業技術に秀でている。
モルド街道というのは人族の国とドワーフの国を結ぶ基幹ルート、ここが魔獣出没で通れぬなると、双方の経済的な損失は相当大きいだろう。
《これも、宝珠盗難の影響?》
《その可能性が高いのぉ〜》




