シュンレイ
ま、さっさと、気絶させちまいますか? と思っていたら、三流冒険者を睨めつけたドロシー、オレを庇うように、スッと前に出た。
「お姉ちゃん、ここは、私に任せて」
「え! ドロシー、殺しちゃダメよ」
「大丈夫だから」
「フン! 余裕ぶっこいだ振り……」
と言いかけた正面の男だが。
グワッ、グゥーー
いきなり来たドロシーの金的、強烈なローキックに悶絶した。
「分かってるみたいね、じゃ任せた」
喧嘩の極意、前に言ったよな? 先々の先、相手が何かする前に攻撃してしまう。敵の隙を突くには、これが肝要だ。
「コノヤロー」
もう一人の男がナイフを抜いて、ドロシーに襲い掛かる。軽い身のこなしで、ナイフを避けたドロシーは、伸び切った相手の腕を両手で抱えるようにして、へし折った。
ついでにその腕を支点にした逆上がり、ジャンプするような蹴りを最後の男の鼻先に叩き込む。
グキ!! グチャ
「イテェェ!!」「グワワワ」
骨の折れる嫌な音と悲鳴が響く。
「ドロシー、こういう時のマナーは知ってる?」
オレは三人の上着ポケットを探りながら、可愛い妹に問うた。
「人に因縁付けて、タダで許してもらえるなんて、あり得ない」
「正解」
三人分の財布、ケッ、しけてやがる、銅貨や青銅貨ばっかじゃん。
「じゃぁね、お兄ちゃんたち、私たち、治癒魔法はないから、街まで行って誰かに治してもらってね」
「おやすみなさい。よい悪夢が見られますよに」
オレたちは、もう少し歩いて、ステラにワープした。戻ってみたら、ルル姫とジャン、まだ会議室で飲んでいるようだった。
「あ、はい、ジャン、貴方の分の指輪」
「おおお! ありがとうっす、姉御」
二人も飲み会に混じって、先ほどの武勇伝を話していると、姫が。
「ねぇ、ドロシー、指輪をした後、なんだか、体が軽くなったと思わない?」
「あっ! それは、そんな感じするかも」
「私も、このピアスをしてから、なんだか、素早く動けるような気がするの」
《ああ、それは、妾が、前世のマサヨシに掛けていた魔法のようなものじゃな》
《オレが何もしなくとも、少しは効力があるのか?》
《主様から漏れ出る魔力の影響ということじゃな》
「確かに、そんな気もする……。だけど、さっきのエイヤは、ジャン兄ちゃんと特訓した成果なんだから」
「うんうん、ドロシー、喧嘩の極意も心得てる、と思うよ」
「俺たち、頑張ったもんな!」
「あ、そうだ! 喧嘩で思い出した、ドロシーにこれを」
オレはベッドルームの箪笥から、初期装備の指抜きグローブを持ってきた。
《あげちゃっても、いいだろ?》
《うーーむ、主様がセクシーギャルをやらないというのは、残念じゃがな》
「姫、サイズ調整をお願いしていいですか」
「了解! って、なんでだろ? このグローブとドロシーを見た瞬間『シュンレイ』って言葉が浮かんだのだけど? 前世の何か、かな」
伝統格ゲーの「ストリ●トファイター」だね。言葉には出せないけど。
「わーー、カッコイイ!」
「気に入ってくれて何より、拳を保護する機能付きだから」
「ありがとう、お姉ちゃん、大好き❤︎」
「ちょっと、ドロシー、クリティへのキスは禁止」
「じゃ、今夜は、そろそろ寝ますかな?」
「おやすみなさい」「おやすみ」「おやすみっす」
そんな日々を過ごしつつなのだが、馬車の受け入れ準備ができたとの連絡が王様直々にあった。
「あっ、じゃ、私たち、取りに行ってきますね」
オレはギルド中庭からドロシーと一緒に溺れる人魚亭に向かった。街角には夏の終わりを告げる夾竹桃が赤とピンクの花を咲かせている。
なんか、この花、校庭に多くない? 夏休みが終わる花って感じがするんだよね、ああ、一万年前の話だけど。
「バデルおじさん、長い間、ありがとう」
「お世話になりました」
「二人やジャンに会えないと寂くなるなぁ、また時々、飲みに来てくれよ」
「はい、そうします、だけど、この前のような驕りはご勘弁を」
「アハハ、そうだな。そこは気を遣うからな」
「じゃあねぇ〜」
溺れる人魚亭の倉庫からドロシーの運転で馬車を街の外へ進める。
「この辺りで、大丈夫かな?」
秋には黄色に色づき、大量の銀杏を落とす銀杏の大木のあたりでオレたちは馬車を止めた。
「じゃ、念の為、ドロシーは中へ」
「ほんと、お姉ちゃん、慎重なのね」
オレは静かに馬車を離陸させ、ステラ王宮敷地の隅、山肌が迫る裏庭の上空にワープした。一方は崖、もう一方は高い木に囲まれた倉庫が下に見える。
なるほど! これなら目立たず離着陸できるだろう。だが、何の変哲もない三角屋根の倉庫、その上に降りることは、不可能だと思うのだが……。
「直接着陸可能」と聞いているから、何か細工があるんだろう。オレはゆっくりと馬車の高度を下げていった。
《ちょ、何、コレ!》
《旧地球のノリ、かのぉ〜》
いやいや、サンダ●バードじゃね? 馬車の接近を検知するセンサー魔法だろうか、倉庫の屋根が左右に開いたんですが! オレは、倉庫の中に馬車を着陸させた。
と、なんと、自動的に屋根が閉まって行くではないかっ。うーーん、このギミックの製作に一週間かかったってことね。
「王様の趣味かい? なんだか、すごいな、コレ」
「楽しいね! お姉ちゃん」




