お引っ越し
パーティを終え、姫と二人部屋に戻った。既に引っ越しの準備は整っている。といっても、荷造りされたものを、オレが順次、王宮の姫の部屋に運び込むだけなんだけどな。
エリナの荷物もついでに姫の部屋に収納しておくことにした。明日は朝からピストン輸送となる、念の為、学園長に頼んで温室付近を立ち入り禁止にしてもらった。
《お疲れ、ディア、ま、これからもよろしくな》
《こちらこそ、何故だかよく分からんが、主様といると楽しいのじゃ、こんな気持ち今まで経験したことがない、神との戦闘に勝利した時すら、感じなかった、何か? かのぉ、心がピョンピョンするのじゃぁ!》
《あ、ソレ、版権的にNGワードかも?》
《微妙に変えとるから、大丈夫じゃ》
「なに、なんかニヤニヤしちゃって」
「ああ、ディアと話していたんだけど、彼女もなんだか楽しかったと言ってるよ」
「私もよ、本当に素晴らしい時間をありがとう」
なんだろ、普通の「ありがとう」なのだけど、どこか特別に聞こえる。彼女が満足したかどうかは分からない。だけど、オレ、やれる限りはやったよね?
向日葵の「一緒に通学」はオレにとっても印象的な言葉、僅かかもしれないけれど借財を返せたのかな?
オレの自己満足というのは重々承知しているが、どこか満たされた気がした。ってさぁ、なんだよぉ〜 オレ、テメエを納得させたいだけじゃ、ねぇかっ!
《良かったことは素直に喜べばよい。主様の悪い癖じゃぞ》
《ああ、そうだったな。って、なんで聞こえてるんだよ? オレの心の声》
《な・い・しょ》
なんて、ディアとやっていて、油断してた、姫から不意打ちが来た。
「大好き、クリティ❤︎」
その先は覚えているような、いないような、なんだかフワフワした記憶しか残っていない。
翌日は早朝に起きて、姫の部屋への荷物運びを済ませてしまった。そう、今日はエリナを送って行く約束もしているのだ。
彼女の故郷、エルパニア地方は前世でいえば、フランス南東部ということになる。彼女の実家があるのは海に面した美しい街ニルスだが、その手前のマルベまで送り、馬車の迎えと合流する手筈になっていた。
オレの能力を可能な限り秘匿しておく配慮、ということだ。
「さぁ、行きますよ! しっかり掴まっていてくださいね」
いや、その、胸を押しつけろ、とは言ってないのですが……。
「なんだが、いつもワクワクするわ、空を飛ぶの」
「ああ、お願いですから。あんまり動かないで!」
「だってぇ〜 クリティと二人きりになれる得難いチャンスなのだから」
エリナは明るくて前向き、オレも姫も陰キャではないが、考え過ぎることが多い。それをうまく補完してくれている彼女、いいキャラだと思う。なんか、巡り合わせだよね?
ってか、オレ、友達、ほとんどいなかったから分からんけど、友人って、そもそも、こういうものか?
マルベまでは学園のあるメディスから約六百キロもあるが、姫と地図を見ながらの飛び石ワープで苦労した成果だろう、もう方向は完璧、昼前にはマルベ近くの森に着陸した。
南方で海も近いこの辺り、微かに潮の香りのする風が心地よい。植生も北部とは異なり松並木が広がっている。暑いとまでは感じないが、メディスに比べればずいぶん暖かいのだろう、シュロの木や大型のサボテンも時折目にする。
「なぁ〜んだ、つまんない、もう終わりかぁ、でも、ありがと」
「ちょっ!」
いや、口と口は、そのぉ〜 一瞬、意識が飛びそうになったよ!
「なによ、ただのご挨拶でしょ?」
クオーター(約30分)ほど歩いて、街の入り口に着いた。
「では、私はこのあたりで」
「はい、じゃ、一週間後また、よろしくね」
「お昼頃、お迎えに上がります。では、気を付けて」
「とっても楽しみにしているわ」
エリナは一旦実家に戻り、親戚などに一通り挨拶を済ませた後、合流することになっている。オレは来た道を戻り人気のないのを確認した後、離陸、学園に戻った。
「さて、姫、行きますか?」
「そうね。ああ、そうだ! いつでも来れるのだけど、やっぱり、学園長に挨拶しておきましょう」
学園長室に顔を出したら、学園長、わざわざ秘密の温室まで送りに出てくれた。温室前の花壇にも向日葵が咲いている。ま、こちらでは卒業の花ってことですな。
「お二人のますますのご活躍を祈念しております」
「ありがとうございます」「お世話になりました」
「距離を無にするクリティさんの能力、とても素晴らしいと思います。こうやってお送りしても、寂しくはありませんもの」
「はい、また、時々、お邪魔します」
「待っていますよ」
「では」「いってきます」
オレはいつものように真っ直ぐ高空に舞い上がった、夏の空は晴れ遠くに入道雲が見える。いやいや、やっぱり、変んじゃね? こっち、雨ってなぜか夜にだけ降るよな。昼間、風雨で難儀した覚えがないのだけど。




