次期女王
で、エリナに演奏会出演を誘ってみたのだが、ま、当然といえば当然、二つ返事で了承された。
以降、夜のお茶会はお休みにして、毎日、姫、オレ、エリナで姫の自室へワープし練習を重ねた。さすがにね、姫様の自室なわけで、アップライトピアノがあって防音完備だからさ。
一応、一グループ、一曲ずつの決まりだけど、アンコールがないわけではない、その時は讃美歌312番、だよね? 文化祭の劇に因んだ曲だが言葉に出すことはできない、だから察してくれ。
そんなある夜。
トントン
「あら、お父様」
なに、この気楽さ、リーマンの親父じゃないのだよ、彼は一国の王であらせられるのだぞ。しかも、手になにやら服のような布を持ってるし。
「練習になかなかな熱が入っているようだが、今夜は休みにしてもらっていいかな?」
「はい、なにか?」
「卒業を前にしたルルメリアに言っておきたいことがある。謁見などという形式をとるのは、どうも性に合わないのでね」
父と娘が進路について相談する感じ? ごくごくフランクな物言いの王様だが。
「では、お茶を入れます」
「ご挨拶が遅れ、大変失礼いたしました。エルパニア辺境伯が娘、エリナ・ルメールと申します。あの、私は遠慮いたしましょうか?」
「いやいや、ワープなどという、特殊な移動方法をとっている訳ですから、そう気になさらずに。それに、これからの件は、ルルメリアと冒険者仲間になる二人にも、聞いておいてほしい話だから、むしろ好都合」
オレがお茶を入れ、四人は来客用テーブルに腰掛けた。
「ルルメリア、なぜ、私がお前の冒険者志望に異を唱えなかったか、分かるか?」
「エルフ族一般、人族ほど権威主義ではないからでしょうか?」
「まぁ、それもある、が、長いエルフの寿命を考えるに、冒険者をして見聞を広める時間を持つのは、とても良いことだと思ったのだよ」
「いずれは、冒険者を卒業せよと?」
「ま、私の引退までは、続けてもらって問題ない」
「仰ることの意味が、よく分かりませんが」
「私は、お前に、次期王となるための研鑽を積めと言っているのだが」
「そ、そんな、私などが、王ですって? お兄様やお姉様を差し置いて」
「エルフは権威主義ではないと、先ほど自ら言ったではないか?」
「王となるべき人物を決するのは、その器、その能力のみ、当然だろ?」
いやいや、この王様、いろいろな意味でかなりの傑物だ。ルル姫の類まれなる才を見抜いていた、ということなのだろう。完全に論破された形で、姫は次期女王となることを内諾するしかなかった。
アグスチヌス王も、もちろん、オレたちに宝珠盗難事件解決への期待は持っている。だが、娘に無理はさせたくない、むしろ、次期女王として経験値を貯めて欲しい、という想いの方が強いようだ。
「お二人さん、娘のことを頼みましたよ」
「この魂に代えて」
「どれだけお役に立てるかは分かりませんが、命に代えても」
「いやいや、そこまで大層に考えずとも、ああ、そうでした、クリティ殿にプレゼントが」
王が手にしていたのは、メイド服、話が終わった頃合いを見計らって、メイドが、靴、ニーソ、ヘッドドレスなどを追加で持ってきた。服を手にしてみる。今着ている英国風メイド服とデザインは同じだが、マジか! コレは!
《コレ、見た目とは全然、違くない? ま、王様がくれるってんだから当然か》
《主様も分かるようになってきたのぉ》
このメイド服、とんでもない魔導の品だ。物理魔法防御はもちろんのこと、耐熱耐冷効果もあるようで、これ一着で水星から海王星まで旅行できるくらいの代物と見た。
全ての小物にも同様の魔法効果があり、一式でかなり高価なものだと思う。手袋も新調されていたが、ちゃんとピオニークリスタルが付いている。
「こんな高価なものをいただいて、いいのでしょうか?」
「もちろん。娘がいろいろお世話になっているお礼も含めてです」
「ありがとうございます。耐熱、耐冷というのが、素晴らしいですね」
「ほぅ、さすが、クリティ殿、見ただけで分かるのですね!」
ああ、まぁ、ディアの能力だけどね。
「ま、金貨で買える装備ですが、メイド服というのがミソでして」
「と、いいますと?」
なに、王様、メイド好きとか、そういう性癖?
「クリティ殿、メイド服がお似合いですし、何より気に入っておられるようです。それに、何といいますか、クリティ殿の凄み、畏怖をも感じさせるオーラは、さりげなさ、だと思うのです」
「いかにも高レベルな賢者服より、メイド服を着た少女が空を飛んだ方が、インパクトが強いと?」
「ですな。一国を相手にしても、引けを取らぬ大魔道士が、さりげなくお茶を入れている、そういうクリティ殿、とても好ましく思えるのですよ」
性癖じゃないのね? 何となく分かるけどな。オレ自身もメイド服は着慣れてしまって落ち着くし、ま、これで冒険者やりますか。うん、なんか、この、世の中舐めてる感、とってもいい感じ。
ということで、他の人の装備は普通にお金出して買え、ってことなんだろう。
オレは王様が引き上げた後、早々に新しいメイド服に袖を通した。今までのものより、裏地や縫合がしっかりしている気がするし、とても軽い着心地、もう汗ばむ季節だが、全然、暑さも感じない。いやいや、これは、いいものもらった!
《妾は、あの、セクシー装備がいいと思うがのぉ》
《ま、いいじゃん、いいじゃん》
《主様が気に入っているのなら、まぁ、よかろうて》




