ギター
学園生活最後の大イベントも終わり、卒論があるって訳でもないし、いよいよ卒業式を待つばかり、しばらくは、授業と実技、お茶会の日々となることだろう。そんな、ある日のこと。
「ねぇ、クリティって、楽器なにかできる?」
「うーーん、ギターくらいなら」
アレ?「ギター」と言えた、ということは、この世界にもギター相当の楽器があるということなのか?
姫は、バイオリン相当の楽器が、できるという。どうやらエルフの伝統的楽器らしいのだが、この世界ではフルシュ・スイキアと呼ぶ。
ギターの方はドワーフが得意な楽器で、パフ・スイキアという名で知られている。いずれも前世のものとほとんど同じ形をしているらしい。
「ふーん、クリティの前世では、パフ・スイキアのこと、ギターって言うんだ。で、でさぁ、卒業式後の演奏会、二人でやらない? あ、そうだ! エリナは、ザハブ・スイキアができるみたいだし、三人がいいわ!」
ザハブ・スイキアはピアノのことだ。
演劇とか、セリフを喋るのは、少々恥ずかしいが、演奏くらいならいいんじゃないか?
「よい思い出になりそうですね!」
姫によると、この世界の貴族は楽器の一つや二つできて当たり前、卒業式後の謝恩会パーティ会場で卒業生有志が演奏を披露する慣習があるらしい。
《オレ、コードくらいしか弾けない気がするが》
《問題ない、妾に任せよ!》
《て、え?》
《悪魔は万能の天才なのじゃよ》
「では、今度のお休み、街に行って『ギター』を探してきますね」
オレは次の休み、街に出かけた。メディスタウンは小さい町で、楽器専門店などないのだが、リサイクルショップの片隅に、埃を被ったアコースティックギターと思しき楽器が置かれていた。
お手軽に見つかって、助かった、最悪は王都にワープするか、とも思っていたのだが……。
「おじさん、このパフ・スイキア、おいくらです?」
「ほぅ、珍しいね、コレを弾ける人がいるなんて。売れ残り品だし、銅貨五枚でいいよ」
安っす! 埃を払って手にしてみる。ボディーやネックに歪みはないようだが、アレ?
「おじさん、この弦、錆びてるんだけど……」
「ああ、新しい弦、弦ね……。あった、あった、あげるから、張り替えは自分でやってくれるかい?」
一緒に出してよ! ギターを売った人、こういうことも見越して、新しい弦も付けてたと思われ。ディアの能力、絶対音感まであるみたいだし、張り替えは自分でやれるけどね。
「ありがとう、ここで張り替えて、ちょっと弾いてもいいかな?」
「おお、そこの椅子使って」
オレは椅子に座って、弦を張り替え調律を始めた。って、絶対音感があるとはいえ、スマホもないのに、なんで、こうも簡単にできちゃうわけ? あっという間に、音が合ってしまうのですが。
《言ったじゃろ》
《はい、はい、ジミヘン様》
《妾は、ジミー・ペイジ派じゃ! こちらに、エレキギターがないのは残念じゃな》
《魔道具で作れるんじゃね? アンプとか》
《うむ、今度やってみるか?》
で、一曲、なんか弾いてみるか? 「奏」とか? あら、これは無理、頭にメロディもコードが浮かぶが、弾くことができない。
しっかし、神の判断基準は意味不、文明はNGだけど文化はいいんじゃないのかい!
著作権の関係? 「Amazing Grace」って行ける?
あ、弾けた、オレ、この曲、メロディしか知らんと思ってたけど、ちゃんとメロディラインとコードを同時に弾けちゃってるんですが。
《うむ、これはお買い得、よいギターじゃ、この音はマホガニー、Harmony Sovereignのようじゃのぉ〜》
《そこまで、聴けるんかっ!》
《むふふ》
「おおお!! お嬢さん上手いねぇ〜」
「ありがと、じゃ、もう一曲」
《ジミー・ペイジっちゃぁ、この曲だよな?》
「Stairway to Heaven」のイントロだけ。これもOK。
《うむ、ツェッペリンは、よい》
《ふーーん、悪魔のくせに、この曲「天国へ……」だぜ?》
なんとなく分かったよ。神は、転生者による地球の文化の流入は大目に見ているのだろう。だが、少々、タイムラグがある? だけど、ここは、旧地球の未来なわけで、ああ、頭がぐるぐる回る。
《じゃから言ったじゃろう、時間を過去から未来への一本線で考えれてはならぬと》
《それは聞いたけどさ。どうも時空連続体ってピンとこないんだよね》
「お嬢さん、すごいね! いい曲をありがとう」
「こちらこそ、じゃ」
で、早々、部屋に戻って、姫にギターを見せた。
「ねぇ、クリティ、前世絡みで、面白い曲ないの?」
「うーーん、卒業と言えばコレだけど、多分、この世界で弾くことはできないと思います」
こっちは秋入学だから夏に卒業式があるわけで、季節外れな気がするし、本来は結婚祝いの曲なんだけど、卒業式って言えばさ、オレが思いついたのは、やっぱ、日本の曲「3月9日」。「奏」と同じ理由で弾けないはず?
「あ゛、弾けた、なぜに??」
神様が粋なお目溢しをしてくれたんだろか? って、ここまで細かくやってくれるということは、オレたち、めっちゃ見られてる?
「すっごく不思議な曲なのに、なぜだか懐かしい、でもいい曲だから、これで行きましょう!」
こういう感じの曲だと、バイオリンが主旋律を弾いて、ギターとピアノが伴奏するパターンかな?
なんで、こうも簡単にできるのかは不思議だったが、オレは主旋律を頭に浮かべるだけで、コードを付けることができた。




