不自然な歴史
ひとまず、喋るだけ喋らされたし、退室しようとしたのだが。
「そういえば、情報は等価交換でしたね」
「あ、はい、何か、私に耳寄りな情報をお教えいただけるのですか?」
「耳寄りではありません、むしろ、逆でしょう。なぜに、ドルトニア王がエルフの宝珠に拘るのか? です」
「エルフの軍事力を過小評価していた?」
「その前段のお話です。人族の宝珠、黄水晶は何者かの手によって奪われていたことが判明しました」
「え!」
学園長によると、ドルトニア王、「人族の宝珠窃盗の犯人はエルフだ!」と考えたわけでもないようだ。
もっと短絡的な話、誰に奪われたか分からないので、手近で弱そうなエルフのを貰っておこう、みたいな? もう、空いた口が塞がらないアホさ加減だが。
「しかし、ということは、この一連の事件、黒幕がいるということですね? 何か、大きな策略があるのかもしれません」
「そうだと考えるのが筋でしょう、その黒幕の意図は類推するしかありませんが、人族とエルフの間に争いが起きて、漁夫の利を得る者でしょうか?」
うーーん、とうとう策謀渦巻く国際紛争ってことかな。日本の無策な太平洋戦争開戦、嵌められた説とか、それなりに理屈は通ってるけど、前世と違い平和なこの世界で、そこまでやるやつ、いる?
「宝珠がなくなれば、その国に環境異変が起きると聞きます。漁夫の利というより、もう少し単純に、人族を滅亡に追い込みたい者? いやいや、違うか、環境破壊が起き、荒野になった人族の領地を併呑しても、意味ないですよね?」
「いいえ、そうともいえないでしょう。クリティさんは論理的に物事を考えられる人ですが、であるが故に、見落とすことがあると思います。人、全知的生命体という意味ですが、往々にして理に適わぬ行動をしてしまうものです」
「なるほど! 私への忠告としても、貴重なお話です」
「本当にクリティさんと話していると楽しいです。貴女ほど、キレる学生、今までに会ったことないですから」
いやいや、そのキレるって、プッツンのことかい? 王宮の破壊、今思えば、ちょっとやり過ぎた気もする。
「では、明日はサボらないでくださいね」
「あああ! 失礼いたしました」
ハーフ(約1時間)くらい話していたと思うが、オレが部屋に戻ってもエリナは待っていてくれた。
「なに、なに? 講義をサボったお小言じゃぁ、ないわよね?」
「この二人なら、話しても大丈夫でしょう」
オレは人族の宝珠が奪われた件について説明した。
「これ、なんだか、ワクワクしてきませんか?」
「そうね、黒幕を見つけ、世界を正す」
エリナは分かる気もするが姫まで!
「あのぉ〜 私は、昨日、刺客に襲われているのです。このことに、一旦、首を突っ込めば、その身に危険が迫る事件が起きても不思議ではないのですよ」
「なに、もう、突っ込んでるってことじゃない? それに、思うの、クリティの力、私を守るだけなら、こんなに強大である必要もないと」
「姫! 学園長にも同じ事を言われましたが、買い被りです、か・い・か・ぶ・り」
「難しい話はこれくらいにして、そろそろ寝ましょうか?」
「そうね、この続きは明後日のお休み、三人で街に出てゆっくりと」
例の劇以来、姫とお茶会をしたいという、女子親衛隊が四つもできてしまった。それぞれローテンションして、部屋に来てもらっているのだが。
どうなんだろ? 姫、楽しんでいるのかな。地下アイドルとファンくらいの距離だから、微妙なんだろな。少なくとも彼女の望む、本当の友人になってくれたのは、やっぱり、エリナ一人かもしれない。
ひとまず翌日は大人しく講義を受けた。午前は例のマルティナ教師、歴史の授業だった。あれ以来、彼女は絶対に視線を合わせては来ない。嫌われてるのかな? いや、怖がられてるのかもしれない。
ちなみに、授業内容については、ここが人族の国で人族中心の学園ということもあって、その歴史も概ね人族のものとなる。他種族の歴史も多少は触れられることはあるが、マーメイド族、魔族は、ほぼスルーされているようだ。
今まで、人族と他種族の間に大きな争いがなかったからかもしれない。人族同士については、前世の歴史標準からすれば小競り合い程度の戦争ではあるが、何度かはあったようなので、国々の栄枯盛衰はこの世界でも存在する。
いずれにせよ、歴史の授業で語られるのは、やはり、この二千年のスパンで、それ以前の話は皆無だ。
ああ、さらに、そういえば、そうだ……。
ダーウィンの進化論的な話も全くない気がする。各種族は二千年前、いきなり神が創ったってことになっているが、これに異を唱えるような論をオレは口にできるだろうか?
いや待てよ、彼らがどのような進化を遂げたのかは分からないが、「たった」一万年の突然変異と淘汰の結果と考えるには無理がある。
こうも多様性のある種族が進化によって存在するためには、淘汰されてしまった知的生命体、ネアンデルタールのような種族が、その数倍いたはずだ。ボコボコ知的生命が生まれるなんて都合のいい突然変異が、起きるはずもない。
むしろ「神が創った」もしくは「神が進化に干渉した」と考える方が合理性が高い気がする。進化論を持ち出しても意味はないか。ならば、何を試せばいい? やっぱり、地図の外の世界について、かな?
「クリティ、心ここに在らず、みたいな顔してるけど、授業中よ」
姫に囁かれた。あ、いけね。
「あ、ま、明日、ゆっくり話します」




