神の贈り物
ドルトニア王、ベルガリオ・ラクティマイオス十四世は、誓書にサインし、左手の人差し指を噛み、その血を魔法陣に垂らした。
「ぎゃやぁぁ! 手、手が!!」
王の手の甲に呪いの刻印が刻まれる。
「大仰ですね、王様、今、貴方は呪われた。さっさと兵を引かないと、貴方、死にますよ? ああ、それから、私と、貴方が差し向けた殺し屋リッコにも、手を出さぬように。そう書いてありますからね」
オレは王に呪いのなんたるかを説明した。
「お、お前、なんということを!」
ま、霊感商法みたいなもんよ、サインの後に詳しく説明したってこと、テヘペロ。
「死ぬよりマシでしょ? ねぇ、そんなことより、なんだか熱っぽくありせんか? この呪いは遅効性のもの、今、貴方は不治の病に侵された。誓約を守らなければ、貴方の命は持って一ヶ月。どんな薬石も魔法も効なしですよ? 治す術はただ一つ、いいですね?」
「わ、分かった、余の負けじゃ、早々に兵を引く、今後、一切、フルシュ王国には手を出さぬ」
「別に手を出してもいいのですよ? その時は、貴方をこの街ごと消し去ってご覧にいれましょう」
そう言ったオレは、改めて王に瞳を据えた。
「いいか、今度こそ、脅しでは終わらないからな」
ゴクリ
ローリーボイスは、そのままだが、ドスを効かせることができたようだ。呪いの熱で火照っていた、王の顔から血の気が引いた。
「じゃあな」
ドーーーン
大人気ないとは思うが、どうも腹の虫が治らない。オレは寝室の天井を破壊して、夜空に舞い上がった。
早々に、学園寮の窓辺にワープする。
コンコン
いつものごとく、姫が窓を開けてくれた。
「ミッション、コンプリート、リッコ、貴女にも手出しできぬよう、王を呪っておいたから、安心してね」
「ねぇ、クリティ、何度もお使い立てして悪いのだけど、私の部屋から持って来てほしいものがあるの」
「はい、はい、いいですが、なんですか、それ?」
オレは姫に言われるがまま彼女の私室にワープし、衣類などを持ち帰った。姫はサイズ調整の魔法で、オレが持って来たドレスをリッコの体型に合わせている。
いや、この魔法、基本中の基本みたいなものなんだけど、オレが詠唱しても発動しないんだよね。
「ねぇ、リッコ、一応、王からは手出しできないようだけど、念には念を入れた方がいいと思うの」
「は、はい」
まず、姫がリッコに渡したのは、化粧ができる手鏡。彼女が覗くと、前世でいえば東洋風のお化粧が施された。
シャドーはターコイズブルーで涼しげに、チークは薄めだがラメ入りにして艶のある感じを出す、アイライナーは長めに引いて切長の目を演出、これだけでもずいぶん見た目の印象が変わる。
次に姫が取り出したのは、菫色でサテン地のいわゆるお団子カバー、角を隠すよう髪につけるとロングヘアーが二つのお団子に纏められ、しかも髪色まで変わる。真紅の髪が、黒、烏の濡れ羽色に変じた。
「ああ、これね、私が変装して街に出る時に使っていたのよ。目立っちゃうでしょ、エルフって」
続いて、これも、絹かな? カバーと同色でサテン地のチャイナ風、さっきサイズ調整していたミニドレスとショートパンツを。
「靴は、今のショートブーツでいいかな?」
オレが王を恫喝している間、いろいろ話をして二人随分親しくなったようだが、即断即決の姫様、リッコは少々戸惑っているようだ。
「ね、いいこと、これで、貴女は生まれ変わったの、貴女は、これから、私たちの仲間、そして友達、いいわね?」
「あ、あの、僕、殺し屋なんですよ? 今までにも沢山の人を殺してきました。そんな僕を、こうも簡単に信用していいのですか?」
「無謬の人など存在しない、人は誰しも間違うものだと思うわ。だけど神は寛大で挽回のチャンスをくれる。目を見れば分かるの、更生できる人と、果てしない闇に飲み込まれて行く人の違いが、貴女は間違いなく前者よ」
ああ、なんだか、同じ事を向日葵に言われたっけ。リッコ、まだ、子供だよな? 王立社会福祉事業団っていったっけ、ヤバイ組織に拾われて、艱難辛苦を舐めてきたに違いない。
君の罪はバカな大人の責任、大丈夫、君は魂まで穢れてなんかいないはずだ。
「ですが、でも、でも、でも、なぜにお二人は、咎人である僕にこんなにも優しい? 納得がいきません」
突然、姫の耳打ちが来た。イヤン、耳ぃぃ、ああ、なるほど!
「では、こうしましょう。ここに王に使った呪いの魔法陣、その予備があります。これで貴女に呪いをかけます。姫と私の命に、一生、抗わぬと誓ってもらう。で、いいでしょ?」
「望むところです」
「では、ここに、サインと血を」
「はい」
リッコは魔法陣に血を一滴落とし、彼女の左手の甲には呪いの紋章が浮かび上がった。あの王様、まじ臆病だったんだな、リッコは声一つ上げないじゃん。
「さって、これで、いいですね。では、姫、どうぞ」
「じゃ、最後に、フルシュ王国王女、ルルメリア・アクティーヌ・ヘリオーティスより、あなたに、新たな名前を与えます。リッコは死にました、あなたは、これから、ドロシーと名乗りなさい」
「姫、その名前、『神からの贈り物』という意味ですか?」
「ええ、あなたは神より新たなる命を賜ったのです」
「ありがとうございます! 拝領いたしました我が命、その全てを賭して、このご恩に報いると誓約いたします」
いやいや、この子、オレと同じじゃん? なんか堅苦しいところ。




