ドルトニア王の愚挙
ディアの指摘は、この子の心に刺さったのだろう。彼女自身も、利用されている、自分は使い捨ての道具と見做されている、と知っている。
「悪魔と魔族は固い縁で結ばれた、永遠の主従、そうじゃな? これより、お前、あ、名はなんと言う?」
「は、リッコと申します」
て、おいいいい! これ、日本語の律子、じゃねぇぞ、旧地球のイタリアっぽいと思うが、RiccoはEric、Richardなどのニックネームに当たる。って、男の名前じゃん!
どゆこと? 思いっきり粗略に命名されたんじゃね? これだけとっても、この子の扱われ方が、分かるというものだ。
「リッコ、悪魔の王、ディアボロスの名において命ずる。これより、お前は、妾の軍門に下り、配下となれ」
「いや、ですが、しかし」
「何を申しておる。我らは魔の者ぞ、裏切り、造反なぞ、日常茶飯事じゃろ?」
「かしこまりました。御心のままに、閣下」
ええええ! 納得しちまったの? マジ!!! 恐るべし、悪魔と魔族の絆。
「ではな」
《どうじゃ、妾を見直したじゃろ》
《すごいな、魔族との絆》
《いやいや、それは違うぞ、妾が偉大な存在ということじゃ!》
《ま、そういうことにしておこう》
「それじゃぁ、リッコ、あなたの依頼主を教えてくれるかな?」
「『閣下』であらせられるクリティ様のお言葉に、もはや抗うことなどできません。分かりました、お話します。僕の依頼主、それは、ドルトニア王ベルガリオ、その人です」
「あなたは、彼の私的な刺客だったということ?」
「はい」
「で、彼は、私を殺してなんとする?」
「ドルトニア王は宝珠奪還と称して、フルシュ王国への侵攻を企てております」
「なるほど、侵攻があからさまになると、私が自分を暗殺に来ると読んだ、殺られる前に殺れということ?」
「まったく! あれだけ、痛い目を見たのに懲りないわけ? 頭のネジが飛んでいるとしか思えない。クリティ、もはや、彼を誅するしかないのでは?」
《困った時の、ディア頼みで悪いが、よい手はないか?》
《うーーむ、あ、そうじゃ、呪いというのはどうじゃ?》
悪魔に古より伝わる呪いの魔法陣、というものがあるらしい。誓書、誓いの言葉による呪いなのだという。
《やり方は簡単じゃ、誓いの言葉を紙に書き、その上に魔法陣を描く、血を一滴垂らせば契約成立、その者は呪われ、誓いに背けば、死ぬ》
《て、なぁ〜 まぁ、いつでも便利に使っているので、強くは言えんが、なぜ、早く、それを言わん!》
《思いつかなんだだけじゃ、うん? もし、妾がこのことを先に教えておれば、リッコとの出会いはなかったのではないか?》
《え? また、神様の何か? か……》
「ルル姫、ディアが妙案を出してくれました」
オレは呪いの誓書について解説した。
「本件でも一年使わせてもらうことになるようです。この間のご命令合わせて三年ということに……」
「大丈夫、大丈夫、千分の三ってことでしかないわ」
うーーん、姫の言うように、オレの寿命も縮めていると思うと自身への言い訳はできるのだが、あのバカ王のせいで一年使うと考えると、癪に障って仕方がない。
「じゃ、ちょっくら、行って来ますので、姫はリッコと少しお話をしていてください」
オレはそんな思いを振り払うように、努めて明るい調子で言った。
「そんじゃ、リッコ、いい子にしてるんだよ」
オレは窓から夜空に飛び立った。いきなり、ドルトニアの王宮、王の謁見室にワープする。ああ、天井は修理したようだな。
って、あっ! そうか、当たり前じゃん、九時五時かどうかは知らんが、こんな夜に仕事してるわけないよな。夜番の兵士が一人いて誰何してきた、ちょうどいい、槍を消し裸に剥いて尋問する。
「オイ! 頭を吹っ飛ばされたくなくば、王の居場所を言え」
「こ、この廊下の先の寝所におられます」
「ありがと」
オレは兵士にKO魔法をかけて王の寝所に向かった。ドアの前に立つと、なにやら艶かしい女の声、って、二人いる気するのだが?
そうでなくとも、くだらぬことで、姫の天寿を一年使うなど噴飯ものだ。で、その張本人がお楽しみ中だと!!
ドカン!!
頭に血が上ったオレは容赦ない、ドアを消し去り、ずかずかと寝所に入る。
「お楽しみ中、申し訳ないが、王様、ちょっとお話したきことがっ、て、ゴラ! あれだけ、痛い目に合って、まだ懲りぬと? 今夜は貴様の首を斬り、尖塔に晒すつもりで来た。さあ、斬首してやるから、そこへ直れ」
「キャァァァ!!」
娼婦かなんか知らんが命が惜しいのは当然だろう、二人の女は王を捨て置いて裸のまま部屋の外に逃げ去った。
「ど、どうか、この通りでございます」
この表情、コイツ、オレの「殺す」がブラフだと知ってるな? クソクソクソ! 妥協案など出したくはないが。
「アン? 仏の顔の三度までとは言う。どうだ? 命を失う代わりに契約書にサインする、呪われる、というのは?」
オレはエプロンのポケットから誓書、呪いの書を取り出した。ディアから書く言葉のアドバイスを受け、このように記してある。
下記の者に、今後、一切の敵対行動をしないと誓う。
・フルシュ王国、王室の者、および、その民
・クリティ
・リッコ
あの子供刺客が粛清に合わない配慮もしておいた。
「さぁ! 血の誓約を!!!」
「はい、かしこまりました」




