ラブレター
無事に終わった文化祭、だけど思わぬ余波があった。迷惑といえばそうかもしれないが、ルル姫にとってはどこか嬉しい出来事でもあるんじゃないかな?
この学園に靴箱はないので、居室の扉に知らないうちに差してあるパターン、毎日のように姫へのラブレターが届くようになった。ある日のお茶会の時。
「ルル、今まで何通くらいラブレター来たの?」
「数えてないけど、二十通くらい?」
「す、すごい! 私なんか二通よ、二通、それも男子から」
「普通、その方がよくないの? 私のは、全部、女子からだし」
「うーーん、そうかなぁ〜 私、もう、十九歳ですし、男性とお付き合いをしたら、卒業、即、結婚になってしまいますわ。そうなったら、冒険者の夢が壊れてしまう」
この世界の人族女性は、十五、六歳で結婚するのが普通だ。この学園に通う女性は、どうしても勉強をしたい、と親に無理を言って、モラトリアムをもらっている、ということになる。
とはいえ、二十歳近くまでの猶予期間となるわけで、エリナが自らを評するように、親から見放されている娘なのかもしれない。
いや、逆もあるんじゃないか? 「目に入れても痛くない愛娘」を嫁にやりたくない、とか? うーーん、それは日本人発想だろか。
「ま、男性を断るのは簡単、許嫁います作戦! でも、女の子には通じないわよね?」
「そうでもないわよ。私、実はクリティ、恋人でもある、って言って断ってるもの」
チョッ! マジ??
「そ、それは……」
「クリティ、前世の話を聞かなくとも、二人と一緒にいると、もうミエミエですから、今更、隠しても意味がないと思いますわ」
「あ、アハハハ」
そんな日々、もはや、それが日常になった? 安らげる日々が過ぎていった。夕食を終え部屋に戻った二人。
「アレ? こんな時間にお手紙が挟んである? え! これ、クリティ宛よ、おめでとう!」
「姫ぇ、何言ってるんですか?」
花言葉は「私の想いを受けとってください」、ハナミズキの花があしらわれた薄紅色の封筒、同じデザインの便箋にはワンワードのみ記されていた。
〜♪
居明かして 君をば待たむ ぬばたまの 我が黒髪に 霜は降るとも
♪〜
え! 万葉集じゃん、いろいろ策を弄しても流れ込んでますよ神様、旧地球の文化。ああ、文化はいいのか? 文明がダメなのか?
文化OKなら、泣きゲーまんまでもいけるはずだし、うーーん、統一性がないというか法則が見えんけど。
で、ラブレターなのだが「夜明けまで待ってる」って、どこで?
「告白って、だいたい、裏庭の温室のところだから、そのあたりじゃない?」
ああ、温室ね。聖さまと栞さんとか? いや、オレ、あの付近、人気が少ないと思って、離陸場所に使ってたんですけど。
「折角のラブレターだし、ちゃんと、ごめんなさい、してきますね」
「あら、受ける、という選択肢はないの? もしかして、クリティってヘテロ?」
「あのぉ〜 私、元男ですがっ、でも、正直に言うと、男性に興味がないといえば嘘になります。ただ、私には、悪魔の本性が残っていて、男性と致すと殺してしまうのです」
《あ、元男と言えた》
《明らかになってしまった事実は、問題ないということじゃろ》
「お友達から始める、いきなりセックスまで考えなくても、いいのでは?」
「それはどうでしょう? 恋愛関係にあるパートナー同士が、体を合わせないというのは、むしろ不自然な気もします」
いやぁ〜 思ってんたんだよ? ラブコメとかさ、双方の合意があるにも関わらず、同じ部屋に泊まって何もしないとか。それ、美談でもなんでもないと思うよ?
逆説的に見てのセックス至上主義、Hを神棚に祀りあげてないか?
再度、言う! 「合意」は絶対条件であり、避妊もちゃんとすべきだが、その上でなら、セックスってもっと自然な行為なのでは?
うん? 合意はどうやって得ればいいのかだって? 「セックスしたいが、いいですか?」と聞けばよくね? 何か問題でも??
口頭ではなくメッセージアプリで、やり取りしておけば、証左も残るので、なおよし。
ンなところで、「ムードぶち壊し」とかいうヤツは、物事の優先順位を履き違えてる。
後悔があるのだよ、悔やんでも悔やみきれない悔恨。前世のオレ、あそこまで向日葵と致すことを躊躇わなくてもよかったよな? って思うわけ。つまらぬオレの意地で、本当に申し訳ないことをした。
結果、彼女とはたった一回しか致せなかった。もちろん、あそこで死ぬとは夢にも思わなかったのだけど。
「いずれにせよ。私たちって同性愛者ともいえないわよね? 愛する人の性別にこだわっていないだけ」
「それは同意です。って、ああ、早く行かないと、では、すぐ戻りますから!」
オレは急いで、裏庭の端、温室があるあたりに走った。あっ! 人影が見える。
暗がりでよく分からないが、女性のように思う、でも、え? 小さい、オレより身長低いんじゃない? 子供?? いぶかるオレ。
《主様、後!!》
どこに潜んでいた? 温室の近くには高い木もなく、隠れる場所などないはずだ。しかも鋭敏なオレの気配探知網を潜り抜けるとは!
どこからともなく二つの人影が湧いて、オレに向かって走ってきた、その手には、ナイフ!
ふぅ、自動反撃寸前、間に合ってよかった。一つ間違えば、二人まとめてあの世行きだったと思う。
加速モードに入ったオレ。
パチン、パチン
二つのナイフを消し去った。それでも、怯むことなく、襲いかかってくる黒い影、こいつらプロだな!




