冒険者の未来
秋も深まってきたある日の夜、お茶会の時エリナが、事もな気に大胆な発言をした。
「私ね、卒業後は冒険者になろうと思うのだけど、どうしてかしら? 全然、レベルが上がらなくて」
エリナは軽く枕にしたが「冒険者になる」だと! さすがの姫も驚いたようだ。
周知のように冒険者は、基本、魔獣ハンターを生業としている。オレのように護衛などを請け負うこともあるが、やること全てが暴力装置としての振る舞い、荒事であるには違いない。
どう考えても、貴族令嬢が選択するような仕事ではない、というのがこの世界の常識だ。
「それはさすがに、ご両親がお許しにならないのでは?」
「大丈夫よ。私、いらない子だから。ね、クリティ、一緒にやらない?」
「わ、私には姫の護衛という責務が、ございます」
「じゃ、ルルも一緒に! あのね、私、実家に戻ったら、政略結婚の相手を充てがわれて、一生、お屋敷の中で幽閉生活を送るに決まってる。そんなの、耐えられないと思わない?」
「エリナが冒険者になりたいというのは、魔獣を求めて旅をしたい、ということでもあるわよね? 私もこの広い世界をゆっくり見てみたいとは、予々思っていたのだけど」
オイオイ、姫まで影響受けてどうすんだ! って、アレ? 姫のいう「世界」って、どの範囲を指してるんだ? 授業で習う「世界地図」、前世でいうヨーロッパの一部という意味かな?
この世界の人は、おそらく、地球が丸くて、一周四万キロあることを知らない。アジア、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリアの存在も知らない。
たった一万年で、大陸がなくなったりはしないだろう、地形だって大きく変わるとは思えない。あの地図の外はどうなっている? どんな国があって、どんな人が、動物が、住んでいる?
「あの、まだ卒業まで、一年近くございます。ゆっくりお考えになられては?」
「あら、クリティには珍しい先送り? そもそも、貴女自身の考えはどうなの?」
いやいやいや、姫もツッコミキャラといえばそうだが、エリナ嬢、輪を掛けて切り込んでくる。
「あああ、皆様は、まだお若い。特にルル姫、エルフの寿命は千年もあるようです。ですから、冒険者をやると決めても、一生、続けなくともよいと考えます」
「今度は玉虫色ってヤツ?」
姫!!! もう!!!
「私にも、知りたい何か? はあるのです、『世界』を見て回りたいとは思います」
オレが今イメージした世界とは、丸い地球、あの地図の外も含んでいるのだが、姫には伝わってないよな?
「やっと本音を言ったかクリティ。冒険者、悪くないわね、エリナ、どうやって親を説得するのか? 考えておきましょう」
《姫の言う世界と、オレのそれとは、非なるもの、それを擦り合わせることで、神から出された課題の端緒を開けるんじゃないかな?》
《この世界の成り立ちを知る、ということかのぉ。うーーん、そのあたりの情報がない、消されておるのじゃろう、逆に考えて、だからこそアタリ、といえるやも知れぬ》
《「冒険者になる」というエリナ発言から、すでに神の誘導かもしれないが、乗ってみる、ってことかな》
《じゃのぉ〜》
そんな流れになった関係上、オレは放課後、二人に剣術と体術を教えることになってしまった。道具屋のゼッドに頼み、ピオニークリスタルの余りを使って、今度は衝撃緩衝用ペンダントを三つ作ってもらった。
これを装備しておけば、木刀や素手で直接打たれても怪我をすることはない。まぁ、防御魔法としてはそこまで完璧でもなく、真剣で斬られたりしたら全然無理なんだけど、練習用には十分使える。
ちなみにこの世界で、格闘技などの訓練の際は、長袖Tシャツ風の上着に膝までのスパッツというのがオーソドックスなスタイルだ。
オレの分も用意してもらったんだけどね。なんだ、コレ? 上はTシャツっちゃぁ、そうだけど、何故に半袖、しかも襟口と半袖の赤いラインは何?
さらに、さらにだ、濃紺の小さなパンツを直接履くとか! いや、さぁ〜 痩せっぽちのオレなのに、小さすぎて食い込んで、お尻のお肉がはみ出すんですが。前世では絶滅危惧種になってたブルマってやつなのでは?
「だって、クリティ、見た目だけは、可愛いんだもん」
あのなぁ〜 まぁ、見た目だけですよぉ〜 そもそも、コレは姫の趣味なわけ? いや、向日葵の記憶なのか? うーーん。
ま、それはそれとして、オレ、実技は見学していただけなわけで、ちゃんと教えられるのか不安はあったけど、やっぱ、オレの運動神経、まともじゃないわ、そもそも人じゃないもんね。
ちゃんと彼女らの練習相手が務まるし、コーチングすらできてしまう。特に体術は、前世テレビで観た記憶しかないのに、ボクシング、空手、柔道なんかの技ができちゃうんだよね、何気に。
ああ、そもそも、二人、鍛錬してどうなるのか? だって。あれでしょ、HbA1cとか、運動すれば下げることができるじゃん、そういう感じかな?
技の上達に比例するかどうかは分からないけれど、二人の物理攻撃系ステータス、STR、VIT、DEX、AGIは順調に上がっているようだ。
この分でいけば、春を迎える頃なれば、彼女らのレベルはLv.30を超え、冒険者になるための条件を満たすことができるだろう。




