真の友人
翌日、教室を見回すと、なに食わぬ顔でアードルフ君は授業に出ていた。って、オレ、あの事件があって初めて、彼の顔覚えたんだけどね。
よく観察してみると、今日は例の取り巻き連中が傍におらず、なんとなく孤立しているようにも見える。以前との比較ができないので何ともいえないが。
授業が終わり夕食を済ませた後の消灯までの時間、オレたちのいる女子寮では、仲のよい友人同士で、お茶会を開くのが常のようだ。夜、廊下を通ると、女子会をやっているような笑い声が聞こえてくる。
だけど、オレの部屋、姫のところに誰かが訪ねてくることなど、オレがこちらに来てから、一度もなかった。
ところが、その夜のこと……。
コンコン
遠慮がちにドアをノックする音が聞こえた。
「はい!」
これはメイドのお仕事、オレがドアを開けると。そこには、この世界の人族スタンダード、コーカソイド系の少女が立っていた。
確か、姫と同じクラスの子だったと思う、ブロンドのロングヘアーをハーフアップにまとめ、瞳は海の色アクアマリンに輝く。白くなめらかな肌を持つ彼女は、人標準で考えれば大変な美少女ということになるだろう。
だが、姫の神がかり的な美しさを見慣れているオレには、凡庸に見えてしまう。
「このような夜分に失礼いたします。あの、私、エルパニア辺境伯の娘、エリナ・ルメールと申します。一言、ルルメリア姫様とクリティ様に、お礼を申し上げたく参上いたしました」
微妙に声が震えている。姫があえて学友に声を掛けない理由を再認識してしまった。こんな状態ではお茶の味も分からないだろう。
「そんなところにお立ちになっていないで、まずは中へ、こちらにお座り下さい」
「私、お茶を入れて参ります。あ、この間のクッキー、お出ししますね」
「は、はい!」
オレがお茶を入れている間、二人は何やら話しているようだが、予想もしなかった姫のフランクな物言いに、エリナ嬢、少し落ち着いてきたんじゃないかな。ざっくばらんな一言がでた。
「私、あのピス殿下に、随分と嫌がらせを受けておりました」
「まぁ、レディーが、そのような下品なお言葉、でも、可笑しい、アハハ」
《なんか、いい感じじゃん》
《じゃのぉ〜》
《ところで、エルバニアって?》
《それはのぉ〜》
ディアはこの数百年の歴史については特に詳しいようだ。エルパニア地方というのは二百年ほど前までは独立国だったが、領土拡大を目論むドルトニア王国より侵略を受けた。
戦いは一進一退、次第に泥沼化していく。双方、これ以上の犠牲は払えぬ局面となり、玉虫色の停戦協定がなされた。
すなわち、エルパニアという国は消滅するが、エルパニア王は変わらず辺境伯としてその領地を治めるというものだ。ドルトニアは名を、エルパニアは実をとったということのようだ。
エリナ、世が世なれば姫君なわけだが、今は辺境伯の娘、貴族の序列からいけば、ピス侯爵家のやや下ということになってしまう。微妙にポジショニングが近いのも、何かと嫌がらせを受ける要因だったのかもしれない。
「今回の件、溜飲が下がりました。お二人には、どんなに感謝してもし尽くせるものではありません」
もしかして、コレ、あの学園長の策略? どうやら、オレたちの決闘は虚実綯い交ぜたストーリーに書き換えられ、噂となっているようだ。
アードルフは、その横暴を諌めたルル姫に逆ギレし、刃傷沙汰に及んだ挙句、護衛にボコボコにされた、というものだ。お漏らしをしたシーンも、実しやかなサブエピソードとなり、リアリティーのあるフィクションに仕上がっている。
「ああ、長々と失礼いたしました。では……」
「お待ちください」
「クリティ様、何か?」
「私のお出しした、お茶、タダではありませんよ?」
「え? お金を?」
「いいえ。その対価は……」
「なんでしょう?」
言え、言うんだ!
「私などが、差し出がましいとは存じますが、エリナ様、どうか、姫のお友達になっていただけませんでしょうか?」
「もぅ、クリティ、何を言い出すのかと思えば」
「この部屋にお越しになった時、貴女はとても緊張しておられました。ですが、その後のご様子を見て、貴女様ならと」
「あああああ! 私としたことが、どうして、気付かなかったのでしょう! なぜに、ルルメリア姫様は、わざわざ学園に通い、私たちのような者と机を並べられるのか?」
エリナ、この子、なかなか聡い、オレの一言で全てを見抜いたようだ。
「姫様は、真の友人を求めて、ここにおられる。なのに、皆、私が来た時のような態度でしか接しない。そういうことですね?」
「エリナ様が、ご迷惑でなければ、是非」
「め、迷惑だなんて! ああ、そういうふうな喋りは、NGってことよね、ルル。私の名も呼び捨てで」
「ええ、エリナ、今回ばかりは、クリティに一本取られたかも」
「素晴らしい『ご友人』をお持ちで。って、あら、クリティって、冒険者でもあるの? しかもシルバーランク」
「アハハ」




