学園の秘密
「分かりました。貴女の魔法について知るだけでも、大きな情報となり得るでしょう。して、私が支払う対価とは?」
「なぜに、学園長は、かくも多種多様な情報をお持ちなのですか? という問いです。もしや、この学園、スパイ養成所なのでは? と疑っております」
「鋭いですね。ですが、この学園がスパイを養成しているというのは被害妄想です」
アミーナ学園長が語る、この学園の正体とは? 妙な絵を描いているイケメン教師がいるスパイの学校、ではない。
実は、現学園長が赴任するまで、当学園、赤字続きで経営の危機に瀕していた。貴族を中心とした良家の子女が通う学園、授業料は相当高いが、王族、貴族の子弟を収容するのだ、設備もそれなりでなくてはならない。
多額の設備投資をせざるを得ず、その減価償却費が大きく膨らみ経営を圧迫していた。就任後、アミーナは授業料以外の収入をどう増やすかについて腐心していたところ、ふと、素晴らしいアイデアを思いついた。
ここは学校であり、多数の卒業生を出している。しかもその大半は社会的地位の高い人物だ。この卒業生ネットワークを活かす手立てはないか?
もちろん、各国の機密文書を盗み見るなどということではない。実は一部で、そういうこともやっているようなのだが……。
情報通信については、オレの前世より遥かに遅れているこの世界、ある国で今年はリンゴの収穫量が激減しそうだ、などというニュースは他国の農家や卸売業者にとって、とてもありがたい情報となるはずだ。
彼女のさらに賢いところは、単発情報を右から左に流すのではなく、いわゆるサブスクリプションモデルを考案したことだ。
月に一度、各国のリンゴ生育情報を届ける、などというものだ。情報を必要と思う顧客は、毎年一定額を学園に寄付する仕組みになっている。
彼女がこの学園に来てからたった一年で、学園への寄付は二倍になった。二年目には五倍、三年目にはなんと十倍になり、今に至っている。
「では、お約束通り私の能力についてです。『重力を操る力』ただそれだけなのです。ですが、重力操作はある意味万能です。私は空を飛び、時間の流れを変え、あらゆる物体を消し去ることができます」
「な、なんと! 消し去れる物体の大きさに制約はあるのですか?」
「実はこの力、悪魔由来のものです。でもご心配なく、神のお取り計らいによって、この力は完全に私の制御下に置かれ、かつ制限されています」
「なるほど」
「本来のフルパワーであれば、世界すらも消滅させることができるようですが、私の場合は街一つ程度」
この世界の人々の考える星という概念を、いまひとつ理解していないので、ちょっと曖昧に世界と言い換えたが、通じたかな?
「私、魔法については、長く学んでおり、それなりの知識を持っているつもりでした。ですが、今のお話、想像の域を超え、恐れすら感じます。いや、クリティさんを信用しないという意味ではありませんよ」
「そうお考えになられるのは当然のことです。ですので、このお話はご内密に」
「もちろんです。ですが、一つ、クリティさんにご忠言申し上げたいことがあります」
「なんでしょう?」
「貴女は姫の護衛、ルルメリア姫を守ることを自身の使命とお考えですよね?」
「それは、前世の縁にも絡んだ誓約、責務と考えております」
「その使命を否定するものではありません。ですが、そのような大きな力、一個人を守るくらいで収まるスケールでしょうか? 貴女が守るべきはもっと大きな物、例えば人類全体なのでは?」
「少々、私を過大評価されているように思いますが、お言葉、肝に銘じておきます」
「貴女は私のことを食わせ物のババアとお考えかもしれません。ですが、私は貴女のこと、とっても好きですよ。好意の証として、常に貴女の側に立つと、今、約しましょう。ここにも貴女の味方がいることをお忘れなきように」
「ありがたきお言葉です」
「では、長々お引き止めして申し訳ありません。もう、お昼を随分と過ぎてしまいましたね」
「部屋に戻って、早めの夕食といたします。では」
「また、いつでも遊びに来てください」
部屋に戻ると姫が待っていてくれた。
「随分と長く話していたようだけど、学園長に何を言われたの?」
心配顔で聞いてきた。オレはアミーナとのやり取りを手短に解説した。
「ああ、よかったわ、貴女を異物として排除するような話にならないかと、気が気ではなかったの。だって、あのマルティナの話っぷり、まさに、そういう感じだったし」
ああ、あの女教師、そういう名前なんだ。なんかイヤなヤツだから、覚える気にもならなかったよ。
「マルティナ先生の話、論旨が曖昧どころか、支離滅裂で理解できなかったのだけど、そんな事、言ってたんだ」
「もぅ! 貴女を退学にしろ、とか言ってたわよ」
「あれま、実は訳わかんないから、途中から聞いてなかった」
「ま、学園長が貴女の味方と分かって、ホッとしたわ」
「じゃ、待ってていただいたらしいし、早めの夕食としますか?」
「そうね、今日は色々あり過ぎて疲れたわ。さっさと食べて、さっさと寝ましょう」
「なら、今日はナシですね」
「あら、クリティ、すぐに意識が飛ぶようだし、致すと、よく眠れるんじゃなくって?」
「いやいやいや」
今日はとても疲れたけれど、なんだか充実した一日だったのかもしれない。とにかくオレは、なんらかの形で姫の役に立てれば、それでいい、それだけだから。




