女教師
「クッサ! 姫、早く行きましょう!」
「そうね」
「待ちなさい! その決闘、そこまでです」
って、終わってるだろ? ああ、嫌なヤツが来てしまった。歴史を教えている女教師、オレの最も苦手なタイプだ。思い込みが激しく思考パターンに融通性がない、人の言うことはまともに聞かず、自身の価値観に縋り付くヤツ。
「な、なんですか? 学生が決闘ゴッコですって? そんなこと許されるはずもありません。きつく叱ってもらいますから、六人とも学園長室に来なさい」
いや、決闘に身分、年齢、性別による制約なんてないはずだが? 学生規則にも「決闘をしてはならない」とは書かれていない、多分だけど。
「あの、アードルフ君は、まずシャワーを浴びてから、学園長室に行った方がよいかと」
姫が皮肉を込めた表情で助言した。
「そ、そうですね」
五人と女教師は学園に戻り、学園長室に入った。女教師は、脈絡のない持論を延々と述べている。まったく要領を得ないのだが、どうやら、オレたちを停学処分にせよ、と言っているらしい。
しばらくして、アードルフが入って来た。ちゃんと着替えているようで、もう臭わない。ふぅ、ヤバイよ、ションベンと男の汗の臭いをブレンドされたら、今のオレ、卒倒するぜ。
「では、アードルフ君、何が起きたのかを説明してください」
うん? 学園長、まず、そっちに聞くの?
「こ、このクリティ、卑怯にも決闘の際、魔法を使ったのです」
へ?
「君、何を言ってるのかしら? クリティは、決闘の決着後、貴方が背後から斬りつけたから、自己防衛したまで」
あら? これ? 弁護士っぽくね? 妙なところで涙腺を刺激されたのですが……。なんか言葉が出ない。
「そんなことはありません。私の剣も鎧も手品のように消えてしまったのですから、魔法を使ったのです」
「いや、それは、決闘後のこと」
「アードルフさん、魔法というものは詠唱しないと発動しないですよね? マウスピースをしている決闘の場で、唱えられるとは思えませんが? それは魔法ではなく手品なのでは?」
「手品ですか??」
学園長、オレたちの味方をしてくれているようだ。コレ、落語の「鹿政談」っぽいな? 奈良奉行が鹿を犬だと強弁し、過失で神獣である鹿を殺した豆腐屋を庇う話。
「いずれにしても、ルルメリアさん、今回の件、貴女に大きな落ち度があります。猛省していただかなくてはなりません」
お、なぜに、姫を叱る? ああ、なるほど! 論点のすり替えだな、さすが学園長、根岸肥前守かもしれない。
「は、はい」
「分かっていないようですね? 決闘をするのなら、なぜ、中立の立会人を呼ばなかったのですか? 将来、多くの臣民の上に立つ貴女にとって、それは、浅慮の謗りを免れ得ぬことではないですか?」
「はい! 学園長のお言葉を、神機妙算などと言ってはならぬ、ということですね? 深く反省し、生涯の戒めといたします」
「では、こうしましょう。中立の立ち会い人がいない以上、双方の主張の真偽を明らかにすることはできません。ですが、どちらが正しかろうと、このような事態、学園にとっては醜聞と言わざるを得ません、そうですよね?」
皆、学園長の意図が読めず、腑に落ちない顔をしながらも、首を縦に振った。
「ここにいる七人に命じます! 決闘、及び、それに至る経緯の全てを忘れなさい。これは学園長命令です、反論は許しません」
「え?」
続いての虚を衝く一言に全員が顔を見合わせた。「三方一両損」のような、洒落っ気はなく、メッチャ強引と言えばそう。だけど、この学園長、いい意味で曲者だ。
《うむ、妾もそう思うぞ》
「決闘などなかった、そうですよね? では、何もなかったのですから、これ以上、私から言い渡すことなどありません。もちろん処分もありません。さ、クリティさんを残して、他の方は部屋にお帰りなさい」
え゛、なんで、オレだけ残されるの? オレ以外の六人が部屋に引き上げた後。
「ま、お座りなさい」
「は、はい」
「クリティさん、お疲れ様です。よくやってくれました。あのアードルフ、随分と陰湿な悪さを繰り返していたようですし、よい薬になったでしょう」
「私はただ、姫様への侮辱が我慢ならなかっただけ、学園長の仰るような深謀遠慮があったわけではございません。ですが、恐れながら一言、苦言を呈してよろしいでしょうか?」
「なんです?」
「貴女様は、姫様に、高い見地での配慮をお求めになりました」
「当然です。それは、私が彼女を高く評価するが故」
「ならば、貴女様ご自身はどうです? そこまでアードルフのことを知っていながら、なぜ、自ら注意なさらなかったのですか?」
「そ、それは」
「大人の事情というヤツですよね? 彼の実家、ヨハンソン公爵家は、随分と高額の寄付をなさっている」
「フッ、フハハハハ、貴女、本当は何者ですか? まったく、その幼い容姿に騙される能天気は多いかもしれませんが、私の目は節穴ではありませんよ? 貴女の力の根源について、少し、お聞かせいただけませんか?」
「学園長、機密情報の開示というものは、等価交換でなければなりません。私だけが一方的に自身の秘密を打ち明けるなど、片手落ちもいいところです」
「ならば、その交換条件とは?」
「まず、私が提示できる対価は、私の魔法についてのみです。貴女様がお知りになりたい私の正体、それは、私の前世に深く関わっています。ですが、私、前世について語ることを、神により禁じられております」




