木槌
オレはゼッドから直径五ミリほどの闇の魔石を受け取り、準備してきた魔法陣の上に置いた。これ、もちろん、ディアに教えてもらった魔法だ。さすが悪魔、この辺りのノウハウには通暁している。
この魔法陣は、オレの魔法、その魔力のサブセットを魔石に転移する役割を果たす。本来なら大量の魔力を注ぎ込み、かつ、それをブーストする大きな魔石を魔道具に埋め込むのだが、今回はその逆だ。
できるだけ微細に、慎重に、小さな小さな魔力を注いだ。
「ゼッドさん」
「呼び捨てでいいよ、クリティ、なんだい?」
「木槌を一本、売っていただきたいのですが?」
「木槌? 道具屋としての売り物はないから、道具作り用の物になるが、そうだなぁ〜 これでどうだ?」
ゼッドは長さ三十センチほどの木槌を持って来た。
「では、恐れ入りますが……、こういうふうに、加工してください」
道具屋は木槌の柄を外し、端の方に小さな穴を穿った。オレが魔法を込めた魔石をその中に入れ、木屑を詰める。最後に円形の蓋を接着剤で貼り付け、柄を元に戻し、楔を打ち込んだ。
続いて、木槌の頭にオレがメモしてきた、テーベ文字を刻んでもらう。
「ただの木槌に見えるが、これに漂う魔力、なんだか、とんでもない物を作らされた気がするな」
「庭で試してみましょう」
庭の地面を見渡したオレ。
「この石がいいかな?」
オレは直径十センチほどの丸い石を指差した。軽く木槌で石を叩く。ちょっと力を込めただけで、花崗岩と思しきその石は木っ端微塵に砕け散った。
「やっぱりなぁ〜 これで、打たれたら、下手すりゃ死ぬんじゃないか?」
「そんなことしないよう、力加減を考えますから」
この魔道具は叩いて振動が伝わった物体に、オレの魔法を作用させるように作った。魔石にエンチャントされたオレの魔法が、微妙な空間のズレを引き起こし剛体を破壊する、というものだ。
魔力の調整は、かなり慎重に行ったつもりだが、やっぱり強過ぎといえば、そう。人の頭をまともに叩いてしまえば、頭蓋骨が粉々に砕け、即死ということになるだろう。
軽く、軽く、なでる程度にするのがコツだ。オレは、道具屋の庭に落ちていた石を、片っ端から破壊しながら、その力加減を試した。
「いやいや、さすが、クリティだな、面白いものを見せてもった。お代は、この間の借りもあるし、いらないよ」
「本当にいいの? じゃ、お言葉に甘えて。ありがと、ゼッド」
もう、バレている、彼に隠すこともないだろう。オレは木槌をエプロンの腰紐に挿して、道具屋の庭から飛びたった。
コンコン
薄暗くなってきたので、学生宿舎二階にホバリングし居室の窓を叩いた。ルル姫が窓を開けてくれて、そのまま部屋に入る。
「おかえりなさい。どんな、魔道具を作って来たの?」
「コレ」
「え?」
オレは木槌の性能について解説した。
「なるほど! アードルフのヤツ、重装備で来るんでしょうし、ちょうどいいわね」
「鎧に腹パンでは、さすがに効かないと思いましたので……」
力加減を間違えなければ、皮膚や筋肉には影響を及ぼさず、鎧の装甲と骨だけ砕けると思う。
その翌々日、ついに決闘の日が訪れた。オレは姫を同行し町外れの丘に向かった。秋も深まり、丘一面に群生するクローバー、秋咲の白い花が、そこかしこに見える。
オレたちが約束の場所に着いたら、すでにアードルフはいつもの取り巻き三人を連れて待っていた。なに? アレ? プレートアーマーってヤツ?
いや、秋とはいえ、温暖なこの地域の気温は二十度を超える、暑くない? ムレムレ? ゲッ! なんか、金臭い鎧の臭いに混じって、男の汗? 臭っさ! ゲ! オレ女になったから敏感なんだよね。気持ち悪い、ゲロ吐きそう。
あのバカ、大剣を手挟んでるんだけど、剣の重さに体のバランスが付いて行ってない気がする、大丈夫か?
「ほぅ、よく逃げずに来たな。それだけは、褒めてやる」
「いやぁ〜 クソ野郎に褒められても、全然、嬉しくないんですが、それに、貴方、なんか臭う、臭いよ、D●mp君」
「な、なんだとぉ! ひ、ひとまず、立会人、ボディーチェックを!」
て、オイ! 魔道具使用可だから、そんなもの不要だろ?
《魔法をブーストする、魔道具がないか? ってことかな?》
《いやいや、そもそも魔法禁止じゃからのぉ〜》
有無を言わせず、取り巻きの一人がオレの体をチェックし始めた。
チェックだろ? なんで、胸触る必要あるんだよ? スカートに手を突っ込むって、どうなってるの? そもそも、普通、女のボディーチェックは女がするもんだろ?
ま、女になってみて分かること、その発見は多い。前世「痴漢は犯罪です」という標語があった。今、分かったよ、あの標語、クソだよな?
「痴漢は悪戯だと思っているかもしれませんが、実は軽犯罪なのですよ」ってニュアンスじゃね? だってそうだろ? 痴漢の罪は、基本、刑法ではなく迷惑防止条例で裁かれるわけで。
はぁ? 条例、何言ってるの? 痴漢に会う、電車に乗るのが怖くなって、学校や職場に行けなくなる、心を病んで自殺ってケースだってあるだろ?
被害者が死ぬかもしれないと思って犯す犯罪なら、放火や上水道に毒を入れる、「現住建造物等放火罪」「水道毒物等混入致死罪」と同じじゃない? そう、痴漢の最高刑は死刑でいい!
クッソ! マジ、思ったよ、確信した、痴漢、性犯罪者には死を!!




