アードルフ
芽生えてきた違和感、このことを、どうやって姫と共有すればいい? ディアの言う通り、急いでもどうにもならないとは思う。姫との出会いのように、時が来るのを待つべきなのだろう、神を信じて……。
うーーん、どうも神というのは、妙な秘密主義を持っているようだ。推理小説じゃないんだから、ネタバレしたっていいだろ!
あああ、そうか。前世、戦争や飢餓、人類が苦しんでいるのに、神は手出ししなかった。彼には彼なりの倫理観があって、過度な干渉はしないということか?
親が子に何もかも手取り足取り教えてしまっては、子供が成長しない、みたいな? であるが故の試練、ま、オレ的には、ミッションはまだ道半ば、すなわち、姫との目標があるってことだよな。
《そうそう、主様、前向きに考えることじゃ》
《だな》
ま、それはそれとして……。
ある日のこと、授業が終わって教室を移動する際、オレはメイドという体面もあり、いつもは姫の後を一歩遅れ、俯き加減に歩くようにしている。
だから、誰とも視線を合わせることはないわけで、前世のように面を切られた、などあり得ないはず、はず、なんだけどね。
うーーん、絡まれ体質ってあるのかな? 喧嘩したくなくとも、なぜか、オレ、暴力を磁石のように引きつけてしまうようなのだ。
「ああ、お前が、噂の平民か? ここは貴族の学校、貴様のような下賎な輩が生意気に教えを乞うだと! 不遜極まりない、不愉快だ、余の視界に入るでないぞ」
なに? コイツ? うん? ルル姫から耳打ちが来た。イヤン❤︎ 耳フー。
「ドルトニア国、侯爵家の跡取り息子、アードルフよ、ちょっとやっかいなヤツだから穏便にね」
心得ておりますとも。オレは、その場に正座した。
「恐れ入ります。私のような賤陋な者が視界に入り、貴方様の高貴なお目を汚してしまこと、心よりお詫び申し上げます。ですが、私は、ルルメリア姫を警護せよと、フルシュ国王より勅命を受けた身、不愉快ではございましょうが、どうか、お目溢しのほど、お願いいたします」
三つ指をついて頭を下げる。
「フン、警護だと? フルシュ王も、じゃじゃ馬のバカ姫には手を焼いておるようだな」
プッツン! オレの頭の中で何かがキレた。
「オイ……」
ドスの利いたアルトが響く。
「どうした? 愚民」
「ゴラァ! 今、我が姫に対し、なんと言った?」
「バカ姫と言ったが?」
「いいか!! 私は『姫をお守りせよ』と命じられた。それは我が全てを賭した誓約、当然だが『守るもの』の中には『姫の名誉』が含まれていると知れ、このクソガキがっ!」
「ならば、なんとする、平民」
「姫への侮辱は万死に値する! 貴様に決闘を申し込む」
《あれ、なんで、オレ、この世界の決闘システム知ってるの?》
《なにを寝ぼけたことを言っておる。この間、一般教養として教えたじゃろ?》
《そうだったかな?》
「お前、正気か?」
決闘というのは、前世の言葉と同じ、当事者同士で雌雄を決する戦いだ。この世界では、身分に関係なく、何らかの軋轢が生また場合の解決手段ともなっている。
だから、平民から貴族に決闘を申し込むことも可能ではある。建前の上では、一揆や暴動に至り多数の人死を出すくらいなら、決闘で決着せよ、ということだ。
決闘のルールは、基本、剣対剣の果たし合い、使用できる魔法は自己強化のみ、ということになっている。「建前」という言い方をしたのは、この方式には裏がある。
攻撃、回復魔法は使用禁止だが、魔道具の使用についての制限はない。高位の魔法がエンチャントされた剣や防具を準備できれば、大変有利だ。
すなわち決闘は、強い魔道具を揃えることができる「金持ちが勝つ」ということだ。
「アードルフ君、さすがの私も今の物言、看過できないわ。このクリティ、こう見えて、とても強いのよ。十分な準備をして、明後日、丘の上の広場で、いいわね?」
「ルルメリア、お前、魔道具を臣下に貸すなど、騎士道に反する行為だと知っているな?」
「もちろん、そんなことはしないわ。もう一度言っておく、本当に彼女強いのよ。せいぜい、殺されないよう、防具を揃えて来なさい」
「バカな! 話は逆だろう。メイドを殺されても、文句を言うなよ」
授業を終えオレたちは部屋に戻った。
「申し訳ありません。つい、カッとなってしまって」
「いいのよ、アイツ、親の権力を笠に着て、ずいぶんと卑劣な虐めをやってるって聞くわ。いい機会だから、痛い目に合わせてやりなさい。なんだかね、私、虐めに対して異常な嫌悪感があるのよ」
コレも前世の微かな記憶かもしれない……。
「ねぇ、どうやって、アイツにお仕置きするの? クリティの魔法、無詠唱だし、こっそり使って裸に剥いちゃう?」
「加速は強化魔法ですからルールに反しませんよね? だから、正々堂々とやりますよ。魔道具を作る必要がありますので、今からちょっと道具屋に行って来ます。夕食までには戻りますから」
まだ明るいので窓から出るのは目立ち過ぎるだろう。こういうケースに学園から飛び立つ時のため、人気のない場所をちゃんと見つけてある。オレは学園中庭の奥の方、温室のあるあたりに歩いて行った。
周りに人影がないのを確認し、サッと上昇して道具屋の裏庭に降りる。
コンコン
「うん? 庭から来るなど、クリティ以外いないな。いらっしゃい」
「また一つ、魔道具をお願いしたいのですが、闇の魔石って在庫あります?」
「ああ、あるが、小さな欠片だぞ」
「それ、むしろ好都合です」




