ここは……
うーーむ、いつも、快刀乱麻を断つディアの論理、今回ばかりは、どうも言い訳じみている。
《じゃ、天界で勉強したが、さすがに一万年分の歴史を詰め込んでいる余裕はなかったってことか?》
《そうじゃ!》
《いや、だとしたら、一万年の歴史が、歯抜けになって記憶されてるんじゃないか? 二千年より前だけが、すっぽり抜けてるのは、不自然だろ?》
《うん? 言われてみれば……。待てよ、妾としたことが、とんだ見落としがあったやも知れぬ》
《どういうことだ?》
《主様が指摘した通りじゃよ、欠落自体が問題ではない、どう抜けているか? が問題じゃ。今の今まで、妾は「ここが地球だ」という当たり前の事実すら忘れておった》
《だな、とても不可解だ》
《その不可解を解く鍵は一つ、意図的な記憶操作が行われた、ということじゃ》
《意図的? 「意図した」の、主語は神か?》
《そうじゃ、神は妾の記憶に干渉し、有史以前の記憶を消した》
《一応、筋は通ってるな。だが、ならば、神の目的はなんだ? なぜ、先史時代を秘した?》
《それを知られてしまえば、何か不都合がある、ということかのぉ。ということは……。妾が神より与えれられたミッションには、まだ続きがある?》
《ディアのいうミッションとは、○○せよという明確なものではなく、神より与えられた試練の類か?》
《うむ、先史時代を明らかにしてしまえば、ネタバレする、答えを教えることになる、ということじゃろうか》
《神のミッション、その本来は、まだ秘されていて、この世界の謎を解け、ということになるのか?》
《主様、すまなかった。妾は神を見くびっておったようじゃ。実に、短慮による自死、思いとどまってよかったのぉ》
《ディアの言う通りだな。おっし! なんかスッキリしたぜ。だが、ひとまず、猪だな》
ブッシュクローバー山近辺の適当なところに着陸した。このあたりの森は、クヌギ、カシ、ブナなど広葉樹が多い。今は秋、黄色く紅葉している木もところどころに見られる。
オレは、ゼッドから買った香料、四センチほどの透明な小瓶をスクリューキャップで密閉した物、を取り出した。かなり効果が高いと聞いているので、蓋を開け、すぐに閉じる。
《お、来たな、十一頭も》
《主様、教えもせぬのに、気配を感じれるようになったか!》
一角猪も兎と同じ、額の真ん中にユニコーンのような角がある以外、その大きさも野生の猪と大差ない。ただ、兎と違って気性が荒く、人と見れば襲ってくるようだ。
オレは加速モードになり、例によって猪の心臓、前足付け根のやや上を消失の魔法で射抜いていった。コイツらは、正面からより横に回った方が心臓の位置を把握しやすい。
《なぁ、ディア》
《なんじゃ?》
《別に心臓でなくとも、銃撃のように、額の真ん中を射抜けばよくない?》
《魔獣の生命力はとても強い、脳に穴を開けるくらいでは死なぬのじゃ》
《頭ごと潰すよりは、的確に心臓を射抜いた方がいいのか?》
《その通り》
などと、話しながらの片手間で、オレは、一クールおおむね十頭、場所を変えつつ五クールほどこなした時だ。
おおお! きたきた。ノーマルドロップである土の魔石に混じって、白く輝く一際大きな魔石がドロップした。オレはピオニークリスタルを取り上げ、他の魔石と一緒にゼッドから借りてきた麻袋に入れる。
って、この魔石、めっちゃいい香りがするんですが。え゛? 魔獣寄せ香料と同じ香りのような……。
ワワワワ、その数、計測不能な猪が寄ってきちゃってるんだけど!!
オレは慌てて離陸し、森の上空五百メートルにホバリングした。オッサン、このことも事前に言っとけよ!
ま、ひとまず戻らないとな。オレは道具屋裏庭の上空にワープ、裏庭に着陸した。
「ただいまぁ〜 取ってきましたよ。クリスタル」
「おかえり、早かったわね」
「何年も道具屋を営んでおるが、飛空魔法なんて初めて見た。アンタ、何者だ?」
「みぃたぁなぁぁぁ!!」
「いやいや、そう、睨まんでくれ。確かに、あんな凄い魔法、広く知られたら大騒ぎになる。隠したアンタに悪意がないことは信じる、信じるから」
「ま、このことは内緒でね」
「クリティは私の護衛なのよ。だから、その力の全て、彼女が何者か? なんて、軽々にお教えできないわ」
「分かったよ、深くは聞くまい。だが、あんた程の強者、作る防具もそれなりでないとな。頑張って、手袋のエンチャントをするから、食事でもして待っててくれ。それはそうと、残りの魔石はどうする?」
「あげるわ」
「って、こんなに沢山! ピオニークリスタルの方も、使うのはカケラで十分、その残りだけでも、加工賃をもらって、お釣りがくるが?」
「じゃ、残りは口止め料で、どう?」
「なるほど! 俺は一生、貝になると誓うよ。二人とも、ありがとな、また、夕刻に」
姫、なかなか機転がきく。うまくオッサンの気持ちを掴んだようだ。こんなところ、向日葵に通じる気もするんだが……。なのに、何故、友達ができない?
姫という立場かな、まぁ、そうなんだろ。よくよく考えてみれば、さ、誰かが彼女から「友達になって」と言われたとする。その人は姫からのご命令と心得て、一応、仲良くする振りはするだろう。
だが、それは、見せかけの友情であるのはもちろん、気を遣いながら姫様とご一緒するなんて、相手も心休まることはないだろう。姫は、そこまで考えているのだ、だから、いつも一人を選ぶ。




