道具屋
翌日、オレと姫は連れ立って、学園都市メディスタウンに向かった。学園の正門から、少し歩くともう街の中心街に到着、小さな街ということもあり、魔道具屋は一軒しかない。
店に入ると、ずらり、剣やら弓やら鎧やらの武具、何に使うのかよく分からない不思議な形の魔道具が並んでいる。奥に座っているゴーティ髭を生やし短く頭を刈り込んだ人族の男が店主のようだ。
「へい、いらっしゃい。なんだか、可愛いお客さんだね。て、そちら、エルフさん? いやはや、ここは人族の国、あんまりお目にはかからないけど、美人なんて言い方は不敬にあたるな。眼福眼福」
オイ! オッサン、妙なセクハラやってんじゃねぇぞ!
《落ち着け、クリティ》
《ああ、どうも、姫のこととなると我を忘れる》
「実は、この指貫手袋にエンチャントされている拳保護の魔法を、こちらの白手袋にも施したいのですが」
「うん? アンタ、メイド? じゃねぇな。こちらの方の護衛かな?」
早速、オッサンもオレの認識票に目を止めたようだ。
「はい」
「うーーん、なかなかの保護魔法だなぁ〜 同等となると、今は必要アイテムが手元にない」
オッサンによると、この指貫グローブの保護魔法はかなり高度なもので、同等となると、一角猪という魔獣のレアドロップである守りの魔石、ピオニークリスタルが必要なのだという。
ちなみに、この世界の魔獣は、倒されると、木,火,土,金,水、もしくは、光、闇、七属性の魔石に変じるのが普通だが、一定確率で特殊な魔石になることがある。これをレアドロップといい、魔道具用の貴重な素材となる。
てか、ピオニー、ボタンだから猪って、牡丹鍋かよ! 花札は萩だがな。
「猪さんって、どこにいるんですか?」
「ここから、最も近い非禁猟区ということなら、二万メルグほど離れた山麓の森だな。だが、今から徒歩で行けば、二日がかりになるぞ?」
ま、一応ね。この世界にも利権というものがあり、冒険者ギルドは魔石を独占している。ギルド管理下にあるエリアでクエストを受注せず、魔獣を狩ると、密猟になって法律で罰せられてしまう。
「あーー、その点は大丈夫なのですが、どの程度の確率で落とすんですか?」
「そうだな、アンタが心配するように、問題はそのドロップ率だ。シルバーランクの冒険者なら、一頭倒すのは造作もないだろうが、百頭近くを倒すとなるとなぁ〜」
「なにか、獣寄せみたいな、アイテムはないのですか?」
「ああ、ピオニー香というものはあるが、とんでもない数寄って来てしまうぞ! 一頭なら楽勝でも、十頭を相手にしたら、いくらあんたでも命はない」
「ああ、それも大丈夫なのです、その香料、売っていただけますか?」
「確か、一つ在庫はあったと思ったが、なにかい、仲間を募って行くってことかい?」
「あ、ああ、あまり深く聞かないでください。ハーフ(約1時間)もしたら戻りますから」
「では、私、こちらで待たせてもらっていいでしょうか?」
「もちろん、構わんが、ハーフ(約1時間)で戻る? お前さんは、何をする?」
「私は、ルルメリア、あちらは、クリティですわ」
「そういえば、自己紹介が遅れたな、俺はゼッドという」
「ゼッドさん、よろしく、ちょっと裏庭をお借りしますが、決して覗いてはいけませんよ」
オレは魔道具屋の裏庭に出て、一気にその上空五百メートルに上昇した。加速モード状態で上昇、下降しているので、多分、離着陸の瞬間さえ見られなければ、問題ない、って思ってるんだけどね。
この高度から遠くに見える猪山、ブッシュクローバー山の麓近辺の森に、目指す魔獣が生息しているらしい。
《なぁ、ディア、この距離、ゼッドが二万メルグといったけど……》
《なんじゃ、ちょうど、二十キロくらいだと言いたいのか?》
《その通り、距離だけじゃない、星の自転公転時間、言語、文化、植生、季節などなど、地球との共通点を数え上げたらきりがない。似過ぎなんだよ、偶然の一致とは思えなくなってきた》
《それはそうじゃろ、この世界は、主様がいた地球そのもの、その一万年後の姿じゃからな》
《な、なんだってぇ!!! 聞いてないよ!! ン、なこと》
《うん? 妾は、今、なんと言った?》
《ここは、地球だと!!》
《アリャ?》
《って、ならば、オレ、一万年も時間旅行したってことか?》
《主様の頭にある「時間旅行」という概念は間違いじゃと思うぞ。前に時空連続体の話をしたじゃろ。時間というものは、川を下る船のように過去から未来に流れていくものではないのじゃ。時の始まりから終わり、その全ては既に「存在」する。時空の特定地点、主様が「今」と感じている場所に、我らは「置かれた」というのが正解じゃな》
《なるほど、時間旅行のことは、なんとなく分かった。だが、オレがディアから聞いたり、学園で学んだのは、有史以降二千年の歴史だ。その前の八千年に何があった?》
《知らん! この余白はそれを書くには狭すぎるのじゃ》
《て、ナニ、ドヤ顔で言ってんだよ? 知らないって、どゆこと?》
《あのなぁ〜 主様、お前様は、アリの生態について、その詳細を知っておるか?》
《悪魔は人の歴史などという、瑣末なことに興味はないと?》
《今、妾が主様に提供している情報は、天界で俄か勉強した知識に過ぎぬのじゃ》
なんだか、ディアらしくない、ちぐはぐな物言い、不自然な言い訳に聞こえるのだが、ハテ……。




