初めての……
オレたちは挨拶を済ませ、ギルドの中庭に出た。
「姫、恐れ入りますが、リュックを背負って、おぶさるように私の首に手を回し、摑まってください」
ジャンを実験台に十分練習は積んだ。PKだけで彼女の体を固定できると思うが、念には念を入れ、摑まってもらうことにした。
「アレ、アレレェェ! なんで、クリティ、耳まで真っ赤なの?」
ジャンの時は、全然、平気だったのに、なんでだよ?
《ま、それこそが、女が惚れた証というものじゃ、しょうがないにゃぁ〜 大目にみてしんぜよう》
「行きます!」
一瞬で、オレは、上空五百メートルまで上昇した。
オレが地図を持ち、後ろから姫がそれを覗き込みながら方角を指示するのだが、やってみると意外に面倒だ。
この世界の地図が厳密な測量を元に作られていない、という点が大きい。地図にある山麓や町村にワープした、と思ったら別の場所だった、などということもしばし。
何度も引き返すのはさらに効率を下げるため、いちいち、正しい地点にワープできたかを確認することにした。しばらく歩いて道標を探す必要が生じてしまった、ということだ。
さらに、この世界で、飛行魔法を使える者はオレ以外存在しない。翼のない人が空から降りてきたら、大騒ぎとなってしまうだろう。町村を目標とする場合、その近辺の目立たない場所を探して降りる手間もあった。
結局、王都ヴィスワルド近くの森に着陸した頃には、日が西に傾いていた。しばらく王都に向かい歩く、カラマツの森を抜けると、夕日に照らされた王都が見えてきた。
いやいや、立派、立派! この世界屈指の強国ドルトニアの首都は、高さ約十メートルの城壁に囲まれた円形の城塞都市だ。人族の街の中でも有数の大都市と言われており、人口は十万を数えるそうだ。
二人でさらにクオーター(約30分)ほど歩くと城門に着いた。衛兵が立っていたが、オレがギルドの認識票を見せただけで、何も言わずに通してくれた。
《随分、警備が甘くない?》
《この世界の住人は、かつて地球を支配した人類ほど、戦争好きではないということじゃ》
《ああ、なるほど、分かる気がするよ》
城門を入ると、おお! ちょっとテンション上がる気がする。お決まりといえばそうだが、いわゆる指輪物語ワールドが開けていた。
ネルヴェのような田舎町とは規模が違う。ゴシック風の建物が中央にある王宮目指して放射状に並び、街路にはオークの木が規則正しく植えられていた。
民家の庭も綺麗にガーディングされている。どの家にも好んで植えられているエリカが、濃いピンク色の花を咲かせていた。ってことは、今、季節は秋なのか?
街のどこからでも視認できる白亜の建造物が王宮だろう。高く聳える青い屋根の尖塔、写真でしか見たことはないが、まるでノイシュヴァンシュタイン城のようだ。
さしもの姫も巨大な王都に圧倒されているのだろう、お上りさんよろしく、キョロキョロと周りを見渡している。
「姫もヴィスワルドは初めてで? 今日は遅くなりましたから、どこかの宿に逗留し、明日朝、早々、ということで」
「そうね」
オレたちはメインストリートを外れ裏通りに出た。少し探すと、溺れる人魚亭によく似た造りの安宿があった。月に吠える白い狼を模した看板がかかっている。白い? まさか萩原朔太郎記すところの、白い子犬をイメージしてる?
《考え過ぎじゃ、じゃが、転生者により、旧地球の文化が流れ込んでいるのは、その通り》
オレたちは、山犬亭という宿の暖簾を押した。
「お二人様ですね? お一人、銀貨一枚になります」
おいおい、高いな! ああ、さすが王都ということか。だが、超美麗のエルフと正体不明の幼女、不審者と思われても不思議はないが、宿の主人はごく普通に応対してくれる。
オレのこの認識票、マジ、重宝している。全国どこでも身分を示してくれる、免許証というより、マイナンバーカードみたいだ。
オレたちは、早めの夕食、この国の名物ということらしいが、ソーセージ、黒パン、ザワークラウト、アイントプフの夕食をいただいた。
「姫、ビールは?」
「少し、いただこうかな?」
ここは異世界、お酒は二十歳になってからとかないからな! って、そもそも姫、何歳よ?
「そういえば、クリティ、今更だけど、貴女がトイレに行くのを見たことないのだけど」
「ああ、私の体は魔に属するもの、排泄器はありません」
「なに、なに、なに! 後で確認してもいい?」
「いや、あの、ソレは……」
《妾は問題ないぞ、いろいろ考えたが、いたしかたない、成り行きじゃ》
そんな流れで、シャワーを浴びた後、ああ、もう、断れないよな? ま、姫が望むことは、オレの本懐? って、妙な言い訳してないか? オレ。
ベッドに座る二人。姫の香り、魔法のシャワーで薫るラベンダーとは、また違う、心の焔を投影したよう、どこか官能的な馨香が、ゆっくりと近づいてくる。
もうダメー、なぜか目を閉じてしまった。なに? この、処女みたいな条件反射? すっと、姫の息が顔にかかり、柔らかい唇を感じる。甘い、なぜだか、とても甘い。
頭フワフワする。真っ白になって思考が枯れ野を駆け巡る。あああああ!! なんだろう、このモフモフした感覚は? そうだ、綿菓子、砂糖のように甘美で、扇情的な気体、期待が胸を満たしていく。
白、ただただ、何もない白い世界、でも、触ると、ちょっと、ネチャネチャする。フワ、ネチャ、フワワワワ、ネチャネチャネチャャャ❤︎❤︎❤︎




