天使が舞い降りた
なんとなく、本当になんとなくなんだ。今、考えても明確な動機が浮かばない。ただ、ただ「世の中が気に入らない」という漫然とした想いでグレてしまったオレ。学校へも行かず、喧嘩はもちろん数々のヤンチャな行為をして十代を過ごした。
そんなオレを社会が受け入れてくれるはずもない、ろくに働きもせず無為な生活を続け、とうとう三十路を超えてしまった。
だけど、何故だろう? 喧嘩だけはやたらに強かったオレ。
ボクシングの元ランカーとやった時「とても貴方には勝てません。ごめんなさい」と頭を下げる振り、頭突きで鼻をへし折ってやった。
元極真会の有段者は相手が構える前、一瞬の隙をついて膝蹴りをしたら、金的を射止めてしまい瞬殺だった。
そうなのだ、オレが強いのは格闘技ではなく喧嘩、スポーツの達人であればあるほど、競技のルールに縛られるということもあるのだろう。
だが、オレの強さは異常だった。古のアニメに出てくるサイボーグじゃないの? 格闘モードに入ると、脳に埋め込まれた加速装置が動き出すような気がするんだ。
おそらく、オレの超常能力は神が何らかの干渉をした結果なのだろう。なぜなら、神の計略としか思えない出来事、オレの強さがモロ裏目に出る事件が起きたのだから。
ある日のこと、オレは街のチンピラに絡まれてしまった。五対一、普通、ボコボコにやられて終わるよな? だが、オレは、五人を完膚なきまでに叩きのめした。売られた喧嘩という思いが強過ぎたのだろう、正当防衛の域をはるかに超えた惨状だった。
五人全てが病院送り、集まって来る救急車のサイレン音がハウリングするように響く。騒ぎを聞き、駆けつけてきた警官にオレは現行犯逮捕、勾留された。
さらに悪いことに、五人の内一人は殴られ転倒した際、打ちどころが悪かったらしく意識不明の重体、なんとか一命を取り止めたものの、後遺症が残る可能性もあるとのことだった。
ここでやってしまっては仕方がないだろう、オレは傷害罪で送検、起訴された。今まで警察のご厄介にならなかったのは、運が良かっただけなのだ、生きることを舐めていた愚か者に相応しい末路、臭い飯を食うことも覚悟していたオレ。
でも、どうして? 神はこんなクズ同然のオレを見捨てない? いや、彼の計画通りなのか? オレの目の前に、突然、天使が舞い降りた。
「国選弁護人を務めさせていただきます、岡野向日葵、と申します。マー君! お久しぶり」
「って、誰?」
「もぅ〜 中学の時、同じクラスだったじゃない! 忘れるなんて、失礼しちゃうわ」
「ごめん、記憶にないや、オレ、中学、まともに行ってないから」
「ま、そうかもね。私、目立つ子でもなかったし」
「いろいろ、すまないが、よろしく頼む」
「大丈夫よ。さすがに無罪は無理だけど、できるだけ軽い罪になるよう頑張るから。いずれにせよ、君は人を殺してはいない。傷害致死じゃないしね」
「ああ、刑事罰以前の問題として、人を殺すというのは、いかなる理由があっても、許されざることだと思う」
「じゃ、トロッコ問題は?」
「スーパーマンに変身して、トロッコを止める!」
「いやいや、それ、思考実験のルール違反だから。でも、そんなマー君に、私、憧れてたんだ」
「どういう意味?」
「それは、また、おいおい。まずは事務的な話を済ませないと」
彼女は、所属する弁護士事務所に無理を言って、専属でオレの弁護に当たってくれていたようだ。毎日、決まった時間、接見に来る。そして弁護士の接見時間には制限がないのをいいことに、半分は世間話をして帰っていく彼女、なんだが妙に嬉しそうだ。
「すまない、弁護士先生に一つお願いがあるのだが」
「なに? 改まって」
「オレのアパートの荷物、どうせゴミクズだし、売り払って大家に滞納している家賃を払ってやって欲しいのだが」
「ソレ、弁護士の仕事じゃないと思うけど……、でも、いいわ、マー君の頼みだし。だけど、帰る場所がなくなってもいいの?」
「いいさ、どうせ、しばらく刑務所だろ? ああ、バイクも売ってくれ、アレは、それなりの値が付くと思うから」
「分かったわ」
裁判が始まった。彼女はオレが初犯であること、なんだとぉ!! いやいや、捕まらなかっただけで、さんざん悪さはしているが、を強調し、売られた喧嘩であり、重傷者についてはオレの故意ではなく、たまたま打ちどころが悪かった事故だと主張した。
オレも彼女の勧めに従い、被害者五人全てとの示談を成立させた。
そして、判決の日。
「主文、被告人を懲役二年に処する。この裁判が確定してから三年間その執行を猶予する」
アレ? 執行猶予? どこか非現実感が漂うフワフワした感覚、呆けた顔をしているオレに裁判官は。
「被告人、何かありますか?」
ヤ、ヤバイ、何か言わないと……。
「今、私は判決を受けました。ですが、それは、人が人を裁いたに過ぎません。まだ私には、神の審判が残っております。死後、神の御前で再び執行猶予をいただけるよう、悔い改め正道を歩むと、ここに誓います。ご迷惑をおかけしました。にもかかわらず、こんな私に温情をかけていただき、誠にありがとうございました」
と言ってオレは深々と頭を下げた。
お読みいただきありがとうございます。
去年は18禁を書くのが面白く、全年齢向け長編は出していませんでしたので、一年ぶりの全年齢第四作となります。いつものごとくですが、下書きを最後まで書き上げた後にアップロードしています。本作品も毎日21時リリース、最終回は7月2日予定です。
内容については私のデフォであるTS転生モノで、かつ、最近アニメで流行ってる? バ美肉モノです。2021年作品は二人称などというチャレンジングなのを出しましたが、今回は原点回帰、処女作や去年出した18禁に近い形となっています。
ひとまず、本日を合わせ四夜は前世のリアルワールド、14日からいよいよ異世界で、いつものサイエンスファンタジー、魔法素粒子なんてのが出て来ます。
では、まだ寒い日々から暑くなっているであろう夏まで、気長にお付き合いいただければ幸いです。
*「シュガーアップル・フェアリーテイル」を観ながら




