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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第一章 剣と魔法の世界
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シリウス


 生き残った。

 シオンはそのことを強く実感し、大きく息を吐きだしてその場に座り込む。

 だが、それを見たアイナは心配そうに声をかける。


「……大丈夫ですか? 何処か身体に大きな怪我を負いましたか……? 」

「いや、擦り傷が多少あるだけで、大した怪我は負ってない。けど……流石に疲れたかな」


 大きな怪我が存在しないのは不幸中の幸いであるが、疲労は確かにシオンの身体に蓄積していた。

 それが安堵と共に押しかけてきたのである。


「それなら良いのですが…………」

「ああ、だからそんなに心配そうな顔するな。少し休んだら動けるようになるよ」


 本当ならシオンは、再会の喜びではしゃぎ回るのだが、今はそのような気力すら残っていなかった。

 だから、代わりに感謝の言葉を口にする。


「…………ありがとう。アイナが来てくれなかったら、きっと――諦めてた」


 もしあの時、アイナが間に入ってこなかったら。

 シオンはきっと生きるのを諦めていただろう。そうなれば、こうやってまた会うこともなかったのだ。

 こうして再会できたのは、斯様な奇跡の上に成り立っていると言える。


「間に合って良かったです。あなたが窮地にあるのなら、私はいつでも駆けつけますよ、シオンさん」

「それは――頼りになるな」


 そう言って、アイナは微笑んだ。

 それがあまりにも綺麗で、シオンは少し照れてしまった。


 そして、遂にシオンの意識は限界を迎える。

 想像以上に疲労が身体を占めていたらしい。


「……ごめん、アイナ。少しだけ寝かせてくれ」

「わかりました。睡眠中の護衛は、私に任せてください! 」


 そうして、シオンは意識を手放した。






 暫くして、シオンはゆったりとした感触のなか目が覚める。

 ここが戦場であることを忘れそうな程の安心感がそこにはあり、シオンにはそれが不思議だった。


「あっ……目が覚めましたか? 」


 そのような声と共にシオンが目を開けると、アイナが間近まで顔を覗き込ませているところだった。

 そして、起きたばかりで頭が働かず状況を掴めないまま、シオンはアイナと目を合わせる。


 しかし、段々と頭が冴えてくると、シオンは自身の置かれている状態を理解した。自身の頭部がアイナの膝上に置かれているのである。

 シオンは顔が段々と赤くなるのがわかった。

 そして、恥ずかしさに耐えきれなくなり、勢いよく立ち上がった。 


「…………あっ……」


 そんな愛しむような声が漏れ、ドキッとする。

 そして、アイナが注意するような口調で話し出す。


「急に動き出すのは危ないですよ、シオンさん」

「ああ……そうだな。悪かった」


 先程の光景が頭を過り、シオンは空返事じみたことをしてしまったが、アイナは特に気にする様子もなく座っていた。

 暫くして、アイナが立ち上がる。


「時間にして三十分程の短い睡眠でしたが、疲れは充分に取れましたか? 」

「三十分も寝てしまったか。その間一人にして悪いな。おかげで調子も回復したよ」

「それなら良かったです」


 アイナは嬉しそうに微笑む。

 それは懐かしさを覚えるほど変わりなく、シオンにはそれこそが嬉しかった。

 小さな違和感など簡単に無視できるほどには。


「今度は何処まで行けるかな……」


 シオンが呟く。

 今頭を占めるのは、今は無き世界での思い出であり、二人で旅した冒険の記憶だ。

 何処までも行けると信じた果てがこの場所であり、あの世界の到達地点。

 ならばこの世界は。

 既に決められたストーリーもなければ、明確なゴールなど一切ないこの世界ならば。一体何処まで進んで行けるのだろうか。


「きっと――何処までも」


 独り言のつもりが、アイナに聞こえていたらしく、そのような言葉が返ってくる。

 シオンはそれを聞き、本当に何処までも行けるのだろうなあ、という漠然とした予感がして、期待に胸を膨らませる。


「……そうだな。きっと何処までも行ける! それじゃあ進むか――――まだ見ぬ世界へ! 」

「はい! 何処までもお供しますよ、シオンさん」


 二人の再会はこのように。


「チーム・シリウス――――再始動だ! 」


 その名は全天で最も煌めく連星。

 今は無き世界における最高のチームが、この世界においても産声を上げた。


 シオンとアイナの冒険は世界を越えて。

 この場所からもう一度始まったのであった。






 だが、二人の門出を嘲笑うかのようにその災いはやってくる。

 この部屋の入口からヒールの高い靴の音が鳴り響く。

 現れたのは少女の形。

 光も吞み込むような漆黒のドレス。腰まで伸びた長い黒髪。胸に当てられた深紅の宝石。そして、それと同じく輝く紅玉のような瞳。

 その全てが浮世離れした様子をしていて。


 そうして、少女は二人に目を合わせ、不思議そうに口を開いた。




 「あらあら……どうしてこんな所に人間がいるのかしら? 確かに私は命令したはずなのに――――皆殺しにしなさい、って」






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