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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第一章 剣と魔法の世界
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二人なら


 もしかしたら、とシオンは、この世界に来てからずっと考えていた。

 自分がこの世界に転生したのなら、彼女もこの世界の何処かに居るのではないか。

 そのような根拠のない希望が、常に頭の片隅に存在していたのだ。

 だからと言って、眼前の少女と、このような場所で出会うとは思いもしなかったが。


「……また会えて本当に、本当に良かった――アイナ」

「私もとても嬉しいですよ、シオンさん」


 そう言って、白銀の少女は少しだけ頬を赤らめて、にっこりと笑う。

 その笑顔は、戦場に咲く一輪の花のようで。

 疲労困憊、満身創痍のシオンも釣られて笑顔になる。


 だが、それも長くは続かず、アイナは真剣な面持ちへと変化する。


「再会の喜びは、また後程に。今は目の前の敵に集中しましょう」


 そうして、アイナは剣を構え臨戦態勢に移る。

 だが、シオンは既に体力を使い果たしており、立つことすら厳しかった。

 その様子を見てアイナは、背を向けたまま声をかける。


「……その様子では厳しそうですね。少しの間、私が時間を稼ぎますので、あなたは体力を回復してください」

「すまない、アイナ。そうしてくれると助かる」


 そうして、白銀の騎士と影なる狼が相対することになった。





 アイナと狼は、暫くの間、互いの出方を探っていた。

 そして、狼が動き出す。

 出方は突進。しかし、その速度は尋常ではない。

 瞬きの間に、騎士と狼の距離はゼロになる。


「――はっ! 解放――デュランダル! 」


 狼の突進を、大剣で受け止めたアイナは、その聖剣の名を口にする。

 それにより、聖剣の力が解放される。

 その剣の名は、デュランダル。不滅の祝福を与えられた絶世の剣。

 それは、透き通る程薄い剣身が水晶のように輝き、見る人を魅了する両手剣。


 狼の牙と騎士の聖剣がぶつかり合う。

 解放された聖剣は、使用者の身体能力を大幅に向上させる。

 それにより、狼と騎士とでは、膂力が完全に拮抗していた。


「強い!それでも――絶対に負けません! 」


 白騎士は聖剣の加護を、その白銀の鎧へと流し込んでいく。

 流し込まれたそれは、白銀と共振してその効果を増幅させる。

 故に均衡は崩され、その巨体が大きく宙を舞う。


 だが、それでも騎士は止まらない。

 大剣を正眼に構え、その大きな影へと向かうために地面を蹴り飛ばした。


 しかし、突き出した聖剣は空を切り裂く。

 必中のはずの一撃は、眼前の敵には必中足り得なかったのだ。


「……空中で跳躍して回避しましたか。まさにデタラメですね…………」


 白騎士と影狼は、互いに距離を取り一度仕切り直す。

 そこに、戦線を離脱していた黒の剣士が合流する。


「……待たせた、アイナ。おかげで少し楽になったよ」

「それなら良かったです。ですが、まだ万全ではないでしょう。無理はしないでくださいね」

「ああ、勿論だ。……それと見ていて気付いたことがある」


 シオンはアイナの計らいによって休んでいたが、ただ休憩していたわけではなかった。

 何か突破口は無いか、何処か弱点は無いのか。戦闘の外にいるからこそ見えるものがあるかもしれない、と観察していたのだ。

 そして、気付いたのは、あの狼の動きに最初のようなキレがない事である。

 戦闘中は気迫が強すぎて気が付かなかったが、狼の覇気が強まるほどにその動きが鈍くなっているのだ。

 シオンはそのことをアイナへと伝え、共に作戦を考える。


「…………つまり、アイツは見た目以上に弱っているんだと思う。だから、今こそチャンスだ。二人で大きめの一撃を当てれば、アイツを倒せるはずだ」

「なるほど、では私が正面を請け負います。シオンさんはその隙に側面から攻撃してください」

「わかった。バッチリと決めてやる! 」


 作戦はこのように決まり、互いに行動を開始する。

 白騎士は、怒り狂う獣を正面に捉えて走り出し、黒い影が側面を回るように飛び出した。

 そして、獣は視界に映る敵を排除せんと襲い掛かる。


 聖剣と爪牙がぶつかり合う。

――カキン、カン

 その音はまるで剣戟のように、幾度となく鳴り響く。


「やはり――重い。私一人では、こうやって抑えるのが限界ですね。でも、私は一人じゃない! 」


 狼の視界の外には、もう一人の男。

 詠唱は既に完成して、切っ先は獣へと向けられる。


「その通りだ。俺達なら何処までだって進んで行ける。だから、こんなところで足止めされるわけにはいかないんだ! いくぞ――――――〝魔女の雷撃ウィッチ・マジック″」


 剣身から放たれる紫電。

 その神秘的なまでの雷の奔流が、狼を貫いていく。

 切り裂かれた空気が、衝撃波のように周囲に広がる。


 魔術の域では最大級の一撃。

 それを二度も受けてなお、その獣は立ち上がり、シオンのことを睨みつけている。

 その形相は烈火のごとく。まさに怒りは最高潮といった具合である。

 だが、シオンはその視線に怯みはしなかった。


「その眼はもう慣れた。それに最高の仲間がいるんだ、何も怯える必要はない! 行け――――アイナ」

「はい! 任せてください! 」


 そうして、シオンは相棒にバトンを渡す。

 それを受け取った少女は、既に攻撃の準備を終えていた。

 獣は視界の端でそれを捉え、回避しようとするが、もうそんな時間は残されていない。


「聖剣最大解放! 敵を穿て――――デュランダル! 」


 それは、眩い程の聖剣の煌めき。

 視界を埋め尽くす圧倒的な熱量。

 聖剣から放たれた極光の奔流。

 それが、今まさに眼前に立ち塞がる獣の身体を貫いていく。


 これこそ聖剣の担い手であるアイナが、持てる最大の一撃。

 自身に移した加護を聖剣に戻し、聖剣が持てる全ての力をエネルギーとして撃ち出す奥義だ。

 正しく絶世の聖剣と謳われるほどの一撃である。


 そして、それをほぼゼロ距離で放たれた狼は、身体に大きな風穴を開け、ぐったりとその場に倒れ込んだ。


「…………やったのか? 」


 シオンはそう呟いてから、自分がフラグを立てたことに気づいたが、それが顕在化することはなかった。

 狼が完全に影となり地面に溶けていったのである。


「……敵、消滅しました。これは私達の勝利、なのでしょうか? 」

「ああ、何か起きる気配はなさそうだな。取り敢えずは――――俺達の勝ちみたいだ」


――パチン

 生き残った二人は歩み寄り、その喜びのままお互いの掌を打ち合わせたのだった。






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