表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第一章 剣と魔法の世界
6/40

怪物達の宴


 このダンジョンで下層から中層、中層から上層に上るには、その階層の守護者を攻略しなければならない。

 次の階層に上るための階段が、守護者の攻略によって解放されるためである。

 本来は中層から上層の守護者も攻略しなければならない可能性があった。

 だが床や壁の崩落によって抜け道が出来ていたため、挑戦することはなかったのである。

 もしかしたら、その守護者すら既に存在しなかったかもしれないが。


 そして、今俺が辿り着いたのも、その守護者部屋だった。

 この部屋が、下層から中層に上るための部屋ならば、この部屋の主は武者を模したゴーレムである。

 このゴーレムは、インチキに近い性能で、攻略が難航したのを覚えている。

 見上げるほどの巨体であるにも関わらず、反則染みた速度で此方に迫ってくるのだ。

 正直一人では戦いたくない、というのが本音である。


 ならば、今戦闘しているのは、相当な怪物である。

 既に開かれた扉の向こうは、怪物同士の壮絶な戦いだ。

 覚悟を決めて、扉から中を覗く。


「――っ! そんな!?」


 目に写り込む光景に驚愕する。

 もはや怪物同士の戦いですらなかったのだ。

 それは、一方的な狩りだ。


――――ガン、カキン


 狼の形をした何かが仕掛け、武者が応える。

 刀と爪。

 お互いが衝突する度に、火花が舞い散る。


――――カキン、ドン


 武者が受けきれず、脇腹を抉られる。

 一合、また一合

 打ち合う毎に、武者の鎧が削られていく。


――――キン、バコン


 武者は、大きく後退する。

 だが、それを上回る速度で、影のような狼が追いかける。




 まるで、戦闘機が衝突したかのような衝撃

 目にも止まらぬ速度で続く激突。

 その全てが異次元の領域で。


「………………凄い」


 そのような感想しか言葉にできない。

 いつの間にか、この戦闘自体に魅了されていたのである。

 こうなれば、最早逃げるという思考すら頭に存在しなかった。

 俺にできるのは、ただこの光景を眺めることだけ。




――――ガコン


 そして、遂に武者が最期の時を迎える。

 狼が襲い掛かる。武者が迎え撃つ。

 牙と刀、互いの武器が激突する。

 だが、狼の武器は牙だけではなかった。


――――バキ、パリン


 その鋭利な爪が、武者の片腕を破壊する。

 負けじと刀で押し切ろうとするが、片腕だけではそれも儘ならない。

 

 やがて、均衡が破綻すると狼が、刀を嚙み砕く。

 そして、得物を失った武者の胴体に風穴を開け、核石ごと破壊したのだった。






 静寂が訪れる。

 先程の戦闘の余韻が、未だに残っている。

 ここの主である異形の武者は、俺もアイナと共に攻略したことがある。

 だからこそ、先程の戦闘の異常さが、否が応でも理解させられたのだ。

 奴の速度を上回るのは至難の業だが、決して出来ないことではない。しかし、それに加えて、パワーまで上回るのは、もはや怪物以外の何者でもない。

 俺が戦っても勝てるのだろうか。

 正直に言って、嚙み殺される未来しか想像できない。

 ならば、ここからどうにかして逃げるのが吉なのだろうか。


 先程の戦闘の勝者はというと、敗者の亡骸の上に座っている。

 そして、その武者の下には円形の影が出現し、徐々に亡骸がその中へと飲み込まれていく。

 なるほどそれなら死体は残らないだろう。

 このダンジョンで魔物を狩りつくしていたのは、やはり此奴だったのだ。

 

 やはりどう見ても、影が強く、かろうじて狼形をしていること以外何もわからない。

 影を纏った狼というより、影が狼の形をしているといった方が正しいだろうか。

 そして、その影から覗く深紅の瞳は、真っ直ぐに此方を見据えていた。


「しまった! ――――間に合わない! 」


 気づいたときには、最早どうしようもなかった。

 逃げるには、何もかも手遅れだった。

 今まで見逃されていたのは、まだ作業が残っていたからで、それ以上でもそれ以下でもなかったのだ。

 もはや武者の形骸は、キレイさっぱり消え去っている。

 ならば、次の獲物を襲わない理由はない。

 逃げるには、あの戦闘中にここから脱出するしかなかったのだ。


 その巨大な牙が、目の前へと迫る。

 だが、俺はここで旅の終わりを迎える気はない。


「俺はお前を倒して前に進む! ――――〝身体強化ブースト″」


 起動するのは、身体強化の魔術。

 俺の装備の内側には、いつでも即座に起動できるように、幾つもの魔法陣が刻まれている。

 その中でも、『ディフェンス』『パワー』『スピード』を起動する。


 そして、強化された剣を引き抜き、牙を受け止めた。


「これなら――戦える! 」


 突進、噛み付き、切り裂き。

 その全てを、剣一本で捌き切る。

 

 だが、対峙することで、明確になったこともある。

 

「剣は、まだ間に合う。でも、このままじゃいつか押し切られる」

 

 速さの上では、まだ捌き切れる。

 しかし、膂力では圧倒的に向こうの方が上手だった。

 今は上手く受け流して誤魔化しているが、それも長くは持たないだろう。

 その証拠に、今の一瞬の攻防だけで、既に手が痺れてきている。


 そして、何よりも厳しいのが、精神だった。

 目の前の敵から向けられる純粋な殺意が、俺の胸に突き刺さる。

 自然の生存競争を通り越した、純粋な感情。

 憎悪も憐憫も執着も嫉妬もそこにはない。

 眼に映る全てを殺すこと、ただそれだけの感情によって構成されたのが、目の前の敵だった。


 元居た世界では勿論、ゲームの中ですら、ここまでの感情を向けられたことはない。

 だからこそ、打ち合う度、確実に精神が摩耗していた。


「流石にキツイな……。でも、まだ耐えられる! 」


 迫りくる重圧に負けそうになるも、まだ心は折れていなかった。

 だが依然として攻略法が見えてこない。

 何かしら突破口を見つけ出す必要があるが、それを考える余裕もない。

 しかし、刻一刻とベストな状態から離れているのは確かである。

 ならば、一か八かの賭けに出るしかなかろうか。


「…………いいだろう――――魔法剣士の意地を見せてやる! 」


 やることは、決まっている。

 敵を拘束して、最大の一撃を叩き込む。

 まずは、そのための準備をするとしよう。


 相手の出方は突進、それに合わせて全力で右に跳ぶ。

 そして、着地地点に魔法陣を設置する。

 あとはこの地点に、怪物を誘導するだけ。


「よし! いつでも来い! ――――〝拘束バインド″」


 またもや迫りくる敵、それを剣で受け止め、魔法陣を起動する。

 光束を帯びたそれは、鎖を模って相手を拘束する。

 作戦の第一段階は、何とか成功した。後は全力の一撃を与えるだけ。

 剣を鞘へと納め、刻印されている魔法陣全てに魔力を込めていく。


「〝属性付与エンチャント″『炎』『雷』『聖』『斬』起動! ――――行くぞ、覚悟しろ! 」


 足に絡みついた鎖は、既に解けつつある。

 この一撃が、最後のチャンスだろう。

 

 構えは居合。

 定めるは首。

 今持てる全ての力を乗せて。


 雷鳴が迸る。

 剣身は緋色に輝く。

 

――――放つ一閃。


 閃光のような一撃が、巨大な影を切断した。





 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ