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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第一章 剣と魔法の世界
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世界へ落ちる


 誰かの声が聞こえる。

 それは、囁くように。それでいて、詠うように。

 生まれたばかりの赤子に、子守歌を聞かせるような。

 そんな、心地よい声がして目が覚める。


「おや、目が覚めたのかい? そうだとしたら、困ったなあ。君が起きるには、まだ早いというものだ。もう少しだけ目を閉じているといい。そうすれば、次に起きたときは、無事私の世界だからね」


 意識が明確になったからだろうか。今まで、意味の分からなかった声が、今度ははっきりと聞き取れた。

 どうやら、この声は、俺にもう一度眠ってほしいみたいだ。

 だが、生憎と目覚めたばかりで眠気はなかった。


「その様子は、どうやら眠れないといった感じな? なら私の話でも聞いていくかい? 聞いている間に眠くなるかもだ」


 そう言って、その声は、また詠うように話し始めたのだった。


「とはいっても、大した話ではないのだけどね。これから、君が歩む世界の話だ」


 唯一無二の存在感を放つ、鳥のような声は、遠く彼方まで響き渡る。

 それは、摩訶不思議で何処か懐かしい御伽噺

 それは、心躍る英雄達の冒険の逸話

 それは、教科書の記述のような正しい歴史

 

 そうして、数多の昔話が語られた。

 だが、そのほとんどは知らない話。剣と魔法で彩られた世界の話だ。

 全ては、泡沫に消える夢のように。




「――といったように…………って、眠ってしまったかな。ここからが面白いところだったのに。まあ、話のオチなんてどうでもいいのだけどね。今聞いた話は、ここだけの記憶だ。起きたときには、キレイさっぱり忘れているはずさ」


 先程まで居た訪問者は眠りにつき、またもや独りへと戻ったこの場所の主は、それでも語り続ける。


「君達が此方の世界へと来たのは、奇跡のような偶然か、あるいは誰かに定められた運命か。どちらにせよ、私は君達を歓迎するとも。思う存分楽しんでほしい」


 別れの言葉はこのように。

 若者たちの新たな門出を祝福する。

 

「少し喋りすぎてしまったかな。どうやら、久しぶりの来客で浮かれていたみたいだ。気を付けないとだね」


 つぶやいた言葉は、誰に届くこともなく彼方へと消えていった。











 何処からか光が差している。

 それは、無慈悲に。それでいて、寄り添うように。

 生まれたばかりの赤子が入れられる揺り篭のような。

 そんな、心地よい光によって目が覚める。


「――眩しいな」


 目を開けると、青白い月が欠けることなく此方を覗いていた。

 天井の崩落した空間に、差し込む月明かり。それは、俺が今まで見てきたものと、何かが違った。


「あんな蒼い月、見たことない。ここは何処だ? 」


 そんな疑問を言葉にするも、答えるものは存在しない。

 少しの寂しさを感じながら、辺りを見渡した。

 目に映るのは、風化した石の壁ばかり。

 しかし、それらが何を形作っているのかは、今でもはっきりと残っている。


「――大聖堂。それもこれは……『瓦礫の大聖堂』か! 」


 それは、どれもこれも記憶に新しい光景だった。

――瓦礫の大聖堂。『フェアリーテイル・ファンタジー』において、ダンジョン『古代の神殿』の最奥にあるフィールドで、ラスボス『黒の魔女』が鎮座する物語の最終到達地点である。

 そして、同時に、俺とアイナの最終到達地点でもある。

 俺達にとっては、因縁深い場所であるため、忘れるわけがないのだ。


 状況を整理する。

 まず、事の始まりは、俺の前に『黒の魔女』の姿をした女が現れたことだ。

 そして、魔女の話は俺を『フェアリーテイル・ファンタジー』の世界に送ることで。

 それに承諾した俺は、転生の対価として、魔女に殺されたはずだ。

 だが、俺は今、『瓦礫の大聖堂』で目を覚ました。

 

「つまり、俺は、転生できたのか! 」


 確認することで、事実に感情が追いつく。

 喜び、安堵、感動が、一気に胸の中へと流れ込んだ。

 そして、それらは胸中で抑えられなくなり、小さく外に漏れだした。


「やった! ついに来たんだ、この世界に! 」


 そう大きく声を上げ、拳を握ったのだった。




 そうして、しばらくの間余韻に浸り、地面に寝転がっていた。

 そろそろ動いても良い頃であろう、そう思い立ち、ゆっくりと立ち上がる。


「よいしょ! ……っと、そういえばあれを回収しないとな」


 先程ぐるりと見渡した時に、その存在を確認したものがあった。

 あれこそが、俺達がこの場所までやってきた唯一の証拠だ。

 だから、あれを手に取るまでは、俺の旅は始まらない。


 見つめる先は、黒と白の両剣。

 その前まで辿り着くと、黒の方を握る。

 久々に握るその柄は、懐かしさを覚えるほどに手に馴染む。


「俺達の旅はここまでだったけど、俺の旅はここから再スタートだ。行ってくるよ、アイナ」


 そう白剣に投げ掛け、俺は手に握った黒剣を勢い良く引き抜いたのだった。




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