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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第二章 螺旋の再生
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星を墜とす(6)


 「俺に一つ作戦がある。一か八かの作戦だが、やってみる価値はあると思う」


 とてもシンプルで簡単な作戦。

 しかし、失敗すれば少なくともシオンの損失は計り知れない。


「何をするつもりですか? 」


 アイナは知っている。

 シオンの一か八かは本当に出たとこ勝負で、まさに危険な賭けなことを。

 だからこそ、彼のその言葉には細心の注意を払う必要がある。


「そりゃあ俺に出来る物理的攻撃なんて、これしかないだろう? 」


 シオンの目線の先にあるのは、此処まで旅を共にしてきたもう一つの相棒。

 その様子からアイナは察する。

 と言うよりも、シオンの考えがわかってしまう。


「全く貴方という人は……本当に覚悟してますか? 最悪、それを失うことになるんですよ? 」

「わかってるって! 心配してくれてありがとう。でも、上手くいく方法を思い付いたんだから仕方がない! 」


 なんて暴論なのだろう。

 わかっていたつもりなのに、やはりアイナは呆れてしまう。

 結局、面白いことを思い付いたから試したいだけなのだ。

 何処までも子供のようで、如何にも彼らしい。


「――そうですか。それなら私から言うことはありません。あの魔導士は貴方に任せます」

「ああ、任せろ! アイナにはその後のことを任せた」


 お互いに役割を確認し合うシオンとアイナ。

 そこにあるのはやはり、長年旅を続けてきたからこそのコミュニケーションで。

 ならばこそ、つい先日出会ったばかりのリンには、二人の会話を理解することは出来なかった。


「シオンさんが何をしようとしているのかはわかりませんが、私に手伝えることがあれば言ってください! 」

「ありがとうリン。そうだな……じゃあ、カトレアさんが魔法で攻撃するタイミングを教えて欲しい」


 シオンの提案をリンが快諾する。

 自分に出来ることがあるだけで、今のリンには喜ばしい。


 これで条件は全て揃った。

 あとは敵を討ち果たすのみ。


「待ってろ魔導士エレア! 今度はこっちの番だ! 」


 シオンは彼方に向けて、そう宣言したのだった。





 「さて、そろそろ気づいたかな? それじゃあ、私もそれに合わせるとしよう」


 カトレアは飛来する魔術の大胆な変化に気付いていた。

 先程まで飛来していたシオンの魔術、それは魔力を矢の形に整えただけの代物だった。

 それが今は火、水、土、風、無、の五属性それぞれの魔力で固められた剣になっている。

 こればかりはシオンの魔術の幅に驚くしかあるまい。


「それにしても――『剣』ね。てっきり手持ちのナイフでも使うかと思ったのだけど、面白いことを企むじゃない」


 そう悪戯で蠱惑的な笑顔を浮かべるカトレア。

 彼女としても、その滑稽さは嫌いじゃない。


「ふんふん……どうやって彼らに花を持たせるかなー」


 この局面に至って、彼女の頭の中はそのことで一杯なのであった。





 「〝五つの剣ソード・オブ・ファイブ"」


 シオンは上空に五属性それぞれの剣を生成し続ける。

 その速度は十五秒に一回。

 体内の魔力全てを使い潰す勢いである。


 今、シオンがやっているのは敵の位置の特定。

 少しずつ飛ばす位置を変更することで、正確な位置を把握しようとしている。

 チャンスは一度きり。

 そのため、持ちうる情報は正確であればあるほど望ましい。


 それにこの掃射は最後の一撃のための布石だったりもする。


「カトレアさんの魔法です! ……でも、先程までの魔法と違うようです」


 カトレアが繰り出す魔法は、花弁の刃でも、樹木の成長でもない。

 それは紛れもない木剣だった。中空に現れるは木剣三十本以上。

 どうやらシオンの魔術を真似ているらしいが、生成速度は段違い。

 魔法の幅、量ともに、驚愕と言わざるを得ない。


「こればかりは素直に感謝だな。お陰でカモフラージュにはバッチリだ」


 シオンの魔力も丁度良い感じに底をつきかけている。

 ならば、ここで仕掛けよう。


「〝五つの剣ソード・オブ・ファイブ"――複製、同時展開」


 シオンの中空に出現する魔術。

 五属性を纏う剣型の魔力。

 それは五つ、また五つと数を増やしていく。


 そして、その総数百二十五を数えたところで一斉に放射される。

 だが、勿論それだけでは終わらない。


「相棒、お前ならやれるって信じてる。よし! 行ってこい! 」


 シオンは己が剣を見つめてそう呟くと、右手を引き左脚を前へと突き出す。

 そして、ありったけの魔力を剣に込める。

 シオンの魔力が限界まで込められた剣は彼方へ向けられ。


――勢い良く投擲された。




 遥か上空で魔導士エレアは困惑する。

 彼女には自我が備わっていない。

 それ故、何かを思考することもないのだが。

 それでも、微かな感情くらいは備え付けられていた。


 意味のない聖剣の光、いくら消しても止まない魔術、当てることを諦めた魔法。

 その全てが不愉快だ。

 生前の彼女であれば何かがおかしいと感じる状況なのに、今の彼女ではその違和感すら気付けない。

 ただ困り眉を浮かべるだけ。


 飛来する木剣。

 ああ、また無意味に魔力が『消費』されていく。

 飛来する黒剣。

 それもまた、『消費』の理によって、ただ反射のように消されるだけ。




 「――でも、それじゃあ防げないぜ」


 その台詞はまるで忠告のように。

 しかし、その言葉は意中の相手には届かない。


 魔導士に迫る無数の黒剣。

 それは見えない壁に当たって消滅する。


 でも、その中には一つ『切り札ジョーカー』が混ざっていて。


 その本命が魔導士へと飛来する。

 シオンの魔術で生成された剣は、それこそ彼の黒剣を模していて。

 見ただけでは、どれが本物かはわからない。

 ましてやそれを、発射されてから到着するまでの刹那で見分けられるはずがない。


 それなのに、魔導士エレアはシオンの黒剣を()()だけで回避した。


 正確には、飛来物の魔力量、その多寡を己が直感だけで感じ取り、見事に回避したのだった。


「シオンさん! 投擲した剣、回避されましたよ! どうしましょう! 」


 慌てふためくリンを他所に、シオンは極めて冷静。


「そんなのは想定済みだ。対策は既に施してある」


 あくまで真剣なシオンにリンは落ち着きを取り戻す。

 そして、改めて見上げた蒼天に信じられない光景を見た。


 躱されたはずの黒剣は真逆の方向に転換し、背後から魔導士を貫く。


「よっしゃ! ヒット! 」

「魔導士エレア、墜落します! 」


 確かな手ごたえを感じて、シオンはガッツポーズを取る。

 そして、リンは彼の魔導士が撃ち落とされる瞬間を確認した。


 ならば、あとはあの星を撃ち落とすだけ。


「アイナ! 今だ! 」

「はい! 準備は出来てます! 」


 白銀の騎士、その手には聖剣の光を。

 今こそ赤き星を墜とすとき。


「聖剣最大解放! 星を穿て――デュランダル! 」


 蒼天を渡る極光。

 輝ける祈りの奔流。

 聖剣の一撃は、霧に潜む赤を貫いて破壊する。


 この日この瞬間を以て、星墜としは完遂されたのだった。







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