星を墜とす(5)
「お疲れ様、ダリア。後は私に任せなさい! 」
そう胸を張って宣言するカトレア。
きっとダリアには伝わっていないだろうけれど、労いの言葉くらいはあっても良いだろう。
賞賛に値する活躍をしたのだから。
そして、彼女の活躍を意味あるものにするのが、カトレアの仕事だ。
「とは言っても、私にできることなんて限られているのだけれどね」
それは謙虚でもなく卑下でもない、虚飾無しの事実。
カトレアの魔法では彼の魔導士には届かない。
と言うよりも、現代の魔法、魔術では魔導士の魔法と相性が悪いのだ。
だから、カトレアは倒せるものに期待を寄せる。
彼女に出来るのはその手助けをすることだけ。
「〝花よ、舞い散れ"」
そう唱えるや否や、カトレアの周囲には花達が咲き誇る。
だが、その花弁一枚一枚が風に舞い上がり、敵を傷つける刃となる。
しかし、それは彼女の魔法によって消滅。
一枚たりとも魔導士のローブに触れることはない。
「……まあ、そうでしょうね。次よ、次。〝樹木よ、聳え立て"」
続くカトレアの攻撃。
彼女が周囲の樹木に『命令』を下す。
すると、『命令』を聞いた木から急激な成長を遂げ、その枝葉は魔導士へと突撃していく。
今度は森の木々を利用した物量作戦。
生憎と場所の都合で資源は山ほどある。使えるだけ使ってしまおう、とでも思っているのか、カトレアの周囲にある樹木から順番に急成長し、魔導士を圧殺せんとする。
しかし、魔導士は迫りくる樹木を何の迷いもなく魔術で焼き尽くす。
「ふんふん……反応としては上々ね。さて、これで気づいてくれると良いのだけど……」
花の魔法使いは、そう呟きながら二つの魔法を交互に使い続ける。
きっと、この様子もあの子には見えていると信じて。
「カトレアさんが交戦に入りました! でも、攻撃は届いてません……」
先程から此方への攻撃が減っている原因は、まさにそれだろう。
そして、カトレアの魔法すら届かないとは、どんな手品を使っているのか。
結局の所、それがわからなければ状況は変わらない。
「ああ……カトレアさんの魔法、あんなに凄いのに……樹木全て燃やされるなんて……」
少しショック気味に呟くリン。
だが、リンはそこで何かに引っ掛かる。
自分でも無意識の内に覚えた正体不明の違和感。
それは意識し始めた途端、リンの思考全体を支配する。
何が引っ掛かっている?
何処に違和感がある?
これ以上ない程思考しろ。
納得いくまで観察しろ。
今、自分に出来ることを全てするんだ!
「〝弓撃"」
こうしている間も、シオンは魔術を行使している。
カトレアも魔法を使い続けている。
ヒントは今もずっと示され続けている。
三十門にも及ぶ矢が魔導士を襲う。
その内十二本は虚空に消え、十八本は目標直前で消滅。
だが、そこに鋭利に強化された花弁が飛来するも、ついでのように消滅する。
続いて迫る大樹。
それも同じことの繰り返し。
魔導士の炎で焼き尽くされる。
それはもう一本一本丁寧に土中の根まで含めて燃やされた。
でも、それは何のため?
樹木の攻撃だって枝ごと消滅させれば良いのに。
カトレアが森に居る限り、一本一本焼却するのでは意味が薄い。
それでも、わざわざ燃やすのは何故なのか。
観察するリンの瞳はオパールのように。
「――――あれは物体を消せないんだ」
違和感はついに確信へと至る。
だが、それは確証というには少し足りない思いつき。
それでも、リンの瞳はそれが真実だと訴えている。
「たぶん魔法や魔術では届かなくて、質量を伴った攻撃じゃないといけないんです! 」
そう。
質量を持つ物理的な攻撃でしか届かない。
あれには魔力で出来たものは通じない。
言い方を変えるならば、エネルギーだけで構築されたものは通じない。
あの魔法は『消滅』ではない。
その本質は――
「あの魔法の正体は――『消費』です! 」
明かされる魔法の正体。
彼の魔導士へ到達したエネルギー体は、その魔法の維持のため消費される。
対魔法、対魔術における絶対防御。
それがあの消滅の絡繰りだ。
「……なるほど。俺の魔術に込められた魔力を消費することで、俺の魔術を消していると……なんてインチキ魔法! 」
絡繰りは理解した。
状況は好転まで行かなくとも、先程よりは良い方向に流れている。
しかし、問題は変わっていない。
「それではこの位置からの攻撃手段がありません」
聖剣の解放、シオンの魔術が通じないとわかっただけで、攻撃手段がなければ状況は変わらない。
そう嘆くアイナの顔は分かり難いが悲観的。
でも、シオンはまだ、諦めていなかった。
「……俺に一つ作戦がある。一か八かの作戦だが、やってみる価値はあると思う」