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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第二章 螺旋の再生
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星を墜とす(5)


 「お疲れ様、ダリア。後は私に任せなさい! 」


 そう胸を張って宣言するカトレア。

 きっとダリアには伝わっていないだろうけれど、労いの言葉くらいはあっても良いだろう。

 賞賛に値する活躍をしたのだから。

 そして、彼女の活躍を意味あるものにするのが、カトレアの仕事だ。


「とは言っても、私にできることなんて限られているのだけれどね」


 それは謙虚でもなく卑下でもない、虚飾無しの事実。

 カトレアの魔法では彼の魔導士には届かない。

 と言うよりも、現代の魔法、魔術では魔導士の魔法と相性が悪いのだ。


 だから、カトレアは倒せるものに期待を寄せる。

 彼女に出来るのはその手助けをすることだけ。


「〝花よ、舞い散れ"」


 そう唱えるや否や、カトレアの周囲には花達が咲き誇る。

 だが、その花弁一枚一枚が風に舞い上がり、敵を傷つける刃となる。


 しかし、それは彼女の魔法によって消滅。

 一枚たりとも魔導士のローブに触れることはない。


「……まあ、そうでしょうね。次よ、次。〝樹木よ、聳え立て"」


 続くカトレアの攻撃。

 彼女が周囲の樹木に『命令』を下す。

 すると、『命令』を聞いた木から急激な成長を遂げ、その枝葉は魔導士へと突撃していく。


 今度は森の木々を利用した物量作戦。

 生憎と場所の都合で資源は山ほどある。使えるだけ使ってしまおう、とでも思っているのか、カトレアの周囲にある樹木から順番に急成長し、魔導士を圧殺せんとする。


 しかし、魔導士は迫りくる樹木を何の迷いもなく魔術で焼き尽くす。


「ふんふん……反応としては上々ね。さて、これで気づいてくれると良いのだけど……」


 花の魔法使いは、そう呟きながら二つの魔法を交互に使い続ける。

 きっと、この様子もあの子には見えていると信じて。





 「カトレアさんが交戦に入りました! でも、攻撃は届いてません……」


 先程から此方への攻撃が減っている原因は、まさにそれだろう。

 そして、カトレアの魔法すら届かないとは、どんな手品を使っているのか。

 結局の所、それがわからなければ状況は変わらない。


「ああ……カトレアさんの魔法、あんなに凄いのに……樹木全て燃やされるなんて……」


 少しショック気味に呟くリン。

 だが、リンはそこで何かに引っ掛かる。

 自分でも無意識の内に覚えた正体不明の違和感。

 それは意識し始めた途端、リンの思考全体を支配する。


 何が引っ掛かっている?

 何処に違和感がある?

 これ以上ない程思考しろ。

 納得いくまで観察しろ。

 今、自分に出来ることを全てするんだ!


「〝弓撃アロー"」


 こうしている間も、シオンは魔術を行使している。

 カトレアも魔法を使い続けている。

 ヒントは今もずっと示され続けている。


 三十門にも及ぶ矢が魔導士を襲う。

 その内十二本は虚空に消え、十八本は目標直前で消滅。

 だが、そこに鋭利に強化された花弁が飛来するも、ついでのように消滅する。


 続いて迫る大樹。

 それも同じことの繰り返し。

 魔導士の炎で焼き尽くされる。

 それはもう一本一本丁寧に土中の根まで含めて燃やされた。


 でも、それは何のため?


 樹木の攻撃だって枝ごと消滅させれば良いのに。

 カトレアが森に居る限り、一本一本焼却するのでは意味が薄い。

 それでも、わざわざ燃やすのは何故なのか。


 観察するリンの瞳はオパールのように。


「――――あれは物体を消せないんだ」


 違和感はついに確信へと至る。

 だが、それは確証というには少し足りない思いつき。

 それでも、リンの瞳はそれが真実だと訴えている。


「たぶん魔法や魔術では届かなくて、質量を伴った攻撃じゃないといけないんです! 」


 そう。

 質量を持つ物理的な攻撃でしか届かない。

 あれには魔力で出来たものは通じない。

 言い方を変えるならば、エネルギーだけで構築されたものは通じない。


 あの魔法は『消滅』ではない。

 その本質は――


「あの魔法の正体は――『消費』です! 」


 明かされる魔法の正体。

 彼の魔導士へ到達したエネルギー体は、その魔法の維持のため消費される。

 対魔法、対魔術における絶対防御。

 それがあの消滅の絡繰りだ。


「……なるほど。俺の魔術に込められた魔力を消費することで、俺の魔術を消していると……なんてインチキ魔法! 」


 絡繰りは理解した。

 状況は好転まで行かなくとも、先程よりは良い方向に流れている。

 しかし、問題は変わっていない。


「それではこの位置からの攻撃手段がありません」


 聖剣の解放、シオンの魔術が通じないとわかっただけで、攻撃手段がなければ状況は変わらない。

 そう嘆くアイナの顔は分かり難いが悲観的。

 でも、シオンはまだ、諦めていなかった。


「……俺に一つ作戦がある。一か八かの作戦だが、やってみる価値はあると思う」






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