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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第二章 螺旋の再生
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星を墜とす(3)


 「これも防衛機能の一部かしら? それにしても、随分と古い記憶を呼び起こしたものね」


 英雄レオニダス。

 それはファイストの伝承に登場する英雄だ。

 曰く、英雄レオニダスは相棒の魔法使いと共に、黒龍の厄災から街を救ったという。

 その伝承が本当かはわからないが、今目の前で守護兵ガーディアンとして顕現しているのだから、信じるしかない。

 そして、伝承通りなら、その実力は黒龍以上。厄介なことこの上ない。


「どうする、ダリア。一旦引いて、皆と合流した方が良いんじゃない? 」

「いや、いつ魔道具が姿を消すかわからない以上、壊す機会は今しかないわ」


 カトレアの提案は堅実だった。

 しかし、ダリアにはこの機会を見逃すことが出来なかった。

 それに――


「たとえ相手が英雄だとしても、私が負けることはないわ」


 それは、ダリアの曇ることなき自信に裏打ちされた、彼女にとって最も最適な行動だった。


 お互いに剣は抜いている。

 ならば、後はどちらが仕掛けるか。

 だが、そんなものは悩むまでもない。


「魔剣解放! 全てを喰らえ――エーデルロッデローゼ! 」


 ダリアの家名――エーデルロッドの名を冠した魔剣、それが満を持して此処に。

 解放されたそれは、周囲の魔力に留まらず、己が魔力さえ呑み込んで妖しく輝いていた。

 戦闘を長引かせるつもりはなく、端から全力。


 ついに、ダリアが仕掛ける。

 縮地による突き。

 それすらも魔剣の身体強化によって、神速すら超える必殺の一撃と化している。


 迫る切っ先。

 必殺の突き。

 それを戦士はいとも容易く振り払った。


「――なっ! 」


 敵のデタラメさに驚愕の声を上げるが、ダリアにそんな時間は許されない。

 戦士は既に次の一撃を放っている。

 横に一閃する薙ぎ払い、その脅威がダリアを襲う。


「〝花よ、草よ、守護せよ"」


 カトレアの魔法。草木の守り。

 赤いドレスと狂剣の間に顕現するは、緑の障壁。

 だが、障壁では勢いを殺しきれず、ダリアは後方に吹き飛ばされる。


「――油断した。貴方が居なかったら死んでたわ」

「気をつけなさい。彼、再生体にしては自我が薄いけど、肉体と技能だけは一流よ」


 なるほど、魔力リソースのせいで自我までは複製できなかったらしい。思ったよりも魔道具本体がダメージを負っているのだろう。

 それでも、肉体とその肉体に染み付いた技能だけあれば本体の守護には十分すぎるくらい。


「でも、それなら私が勝つ」


 それは確信にも似た自信の表れだった。

 どれほど相手が強かろうと、どれほど相手が上手かろうと。

 それを上回る技量を以て捻じ伏せる。これこそ、ダリアが辿り着いたダリアの剣である。

 筋力は魔剣により互角。

 技量は恐らくダリアが上。

 そして、あの戦士は駆け引きが出来ないと来れば、ダリアに負ける道理はない。


「いいわ! 気が変わった! じっくりと確実に殺してあげる! 」


 もはやダリアの視界には伝説の英雄しか映らない。

 知らず知らずのうちに、ダリアは戦場の高揚感に煽られていたのだった。






 「もう一度攻撃しよう。今度は俺も補助に回る」


 そうアイナに語り掛け、シオンは補助魔術の詠唱に入る。

 彼女もそれに合わせて聖剣にエネルギーを溜めていく。


 森に掛かっていた霧は、赤い星に回収された。

 これにより、突然魔物が現れることもなく、シオンは補助に専念できる。

 使用するのは強化魔術。しかも、単純に威力を引き上げるだけのもの。

 それでも、聖剣の一撃を対象とするならば、その魔力消費量は半端じゃない。


「聖剣――装填完了しました。いつでも打てます! 」


 その言葉を待っていたシオンは術式を展開する。


「よし! 行くぞ――〝威力強化リインフォース"」

「聖剣最大解放! 敵を打ち砕け――デュランダル! 」


 今再び、その閃光が空を駆ける。

 しかし、侮ることなかれ、その破壊力は一度目を遥かに超えている。

 今度こそ霧の壁を物ともせず、閃光は魔道具に直撃。その一撃によって破壊する。


――――はずだった。


「攻撃が当たってません! 赤い星の直前で何かに防がれました! 」


 リンの観測、告げられたそれは純然たる事実だった。

 魔道具に聖剣を当てた手ごたえがない。というより、魔道具に当たる直前に消失した。


「何が起きた! 霧にあれを防げる程の能力はないはずなのに」


 どれほど霧が重なろうと多少威力が減衰する程度、消滅することは有り得ない。

 シオンとアイナは状況を理解できずにいた。

 そこにリンの観測結果が舞い込んでくる。


「赤い星の前に誰かいます! 魔法使いみたいな恰好で箒に乗って飛んでる。あれは――」


 そこでリンの報告は止まってしまう。

 彼女が見たのは、それほどの衝撃だった。

 それはファイストの民なら誰もが知る伝承。

 魔法使いのローブに箒で飛行するその姿は、子供のころに言い聞かせられた英雄の姿そのもので。


「――魔導士エレア! この街で伝承として語られる英雄、その一人です! 」


 戦士レオニダスが顕現したのであれば、魔導士エレアが顕現するのも当然のこと。

 そうして、此処には英雄二人が並び立つ。

 まさしく神代の再現、伝承の再生が今、この場所に成立したのであった。






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