星を墜とす(1)
「さあ行くわよ! 今日こそは全部解決して大団円で終わるんだから! 」
早朝、ハイテンションの魔法使いが此処に一人。
この人はいつでも変わらないのだろうな、とシオンは思うが、その感想自体、昨日も思考していたような。
このような不思議な気分を味わっているのも、きっと昨日と同じ状況だからであろう。
例えば、早朝。
例えば、森の前。
違うことと言えば、二つだけ。
一つは、仲間。今日は新しく加わった仲間がいる。それはこの街の領主にして、今まで戦闘してきた中で最強の剣士、ダリアである。
戦闘を行ったシオンとアイナからすると頼もしい限りである。
もう一つは、目的。昨日の目的は、リンの母親探しを手助けすること。でも、今日のそれは違う。
今日やるべきことは、魔道具を破壊して、森の異常を正すことだ。
「――よし! 気合入った! こっちはいつでも大丈夫だ」
頬を叩いて目を覚ますと共に気合を入れるシオン。
その言葉に続くようにアイナとリンは宣言する。
「こちらも準備万端です! いつでも作戦開始できます! 」
「わ、わたしも大丈夫です! 」
これで四人。
そして、最後の一人に視線が集まる。
「……私も大丈夫よ。睡眠も取ったから体調もバッチリだわ」
その言葉にカトレアは満足げに頷くと、昨日夜に練り上げた作戦を確認する。
この場に居る全員が自分の役割を再確認したところで、カトレアが森に向かって大きな声で宣言した。
「見てなさい霧の森! 今日こそは絶対に攻略してやるわ! ――それじゃあ、作戦開始よ! 」
そうして、五人は霧の中へ突き進むのだった。
暫くして。
霧中に蠢く影が三つ。
一つは黒衣の剣士、改め魔術師。その黒は真っ白の世界で一際存在感を放っていて。
一つは白銀の騎士。その白はどれだけ周りが白くあろうと一層輝く純白で。
そして、一つは茶髪の魔導士見習い。その色は今にも消えそうなほどに弱弱しく、それでいて確かにそこに在る。
「二人とも体力は大丈夫か? 結構走ったから、少しだけ休憩しよう」
シオンがそのように声を掛け、二人の方を見る。
アイナは汗の一つも浮かべず、涼しい顔でついてきている。
しかし、リンは少し厳しそう。今にも倒れそうな勢いだ。
「リンさんのペースを考えずに走ってしまいました。申し訳ありません! 五分だけでも休んでください」
「ごめんなさい……私、足手纏いだ」
珍しくリンから出た弱音。
それだけ、彼女が追い詰められているということだろうか。
「そんなことないさ。むしろ、この作戦はリンが居なきゃ成り立たない。だから、もっと自信を持って」
「そうです! 今は劣っていると感じるかもしれませんが、ここは私達の役割です。貴方の役割は別にあります。そのときは貴方の力で私達を支えてください! 」
リンを目的の場所へと送り届ける。
これは確かにシオンとアイナが果たすべき役割だ。リンにはリンの役割が別にある。
そもそも、この作戦は誰かが欠けたら成立しないもの。
足手纏いなど端から存在しないのである。
暫しの休憩を取り、三人はまた走り出す。
霧の中で互いを見失わないよう手を取って。
出来るだけ高い場所を目指す。
三人が条件を満たす場所に届いたのは、それから数回転移をしたときだった。
「――確かに。言われてみれば魔力が何処かに流れてるわ」
そう呟いたのは花の魔法使いだった。
彼女は今、真っ赤なドレスの令嬢と共に行動している。
二人の役割は、出来るだけ多くの再生体を殺すこと。
その役割に則って、森に侵入してからというもの、再生体を見かけた端から倒していく。
だが、肝心なのはダリアの魔剣で倒すこと。
なので、カトレアはその補助だが、ダリアは危なげなく倒していくため、彼女が無双する様子を見ているしかない。
というわけで、先程の呟きも、その結果である。
ダリアが魔剣で魔獣を倒す度、霧に流れて魔力が何処かに消えている。
具体的な場所が何処かはっきりしないが、それは確かだった。
「でも、私にはここまでしかわからないわね」
「そこから先は彼女の仕事よ。私達は私達のやることをやるだけ」
ダリアの言葉に、それもそうね、と納得して二人は進み出す。
そんな彼女たちの前に現れたのは、巨大な魔物だった。
皮膚には鱗を纏い、背には巨大な翼、そして、強靭な二本の足。
その姿はまさに。
「ワイバーンよ! まさかこんなものまで現れるなんて――ダリア、どうする? 」
「どうするも何も殺すに決まってる。貴方がアイツを墜として。私が斬る」
言葉にしたのはそれだけ。
だが、彼女らにはそれで十分だった。
「――――〝花よ、舞い散れ"」
カトレアが魔法を行使する。
それは彼女が自然に対して発揮する絶対的な『命令』だ。
その『命令』によって地面に咲き乱れた花たちが、ひらりと舞い上がる。
舞い上がった花びらが魔力を纏い、鋭利な刃となってワイバーンの翼を傷つける。
ワイバーンも翼で風を起こし抵抗するが、花びらの勢いは止まらない。
十数秒の抵抗空しく、ワイバーンは墜落する。
瞬間、神速の赤が駆ける。
色に違わぬ鮮烈な軌跡を以て、ワイバーンを斬り伏せた。
まさに一刀両断。
今度は抵抗すら出来ず、ワイバーンは消滅する。
「これだけの大物を倒せば十分よ。――来るわ! 早くこっちに! 」
カトレアが目標の達成を宣言する。
それと共に彼女が展開したのは、四方に聳える樹木の壁で。
二人がその内側へと避難する。
瞬間、空には極光の軌跡が走る。
そして、軌跡は二人の上空にて何かに衝突し、爆発した。