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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第二章 螺旋の再生
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作戦会議


 作戦会議。

 あの魔境と化した森をどうやって攻略するかを話し合う。


「私が森を探索していたのは、ただ再生体を殺すためだけじゃない。霧の発生源である魔道具を探していたの。それさえ破壊できれば霧は晴れるから」


 ダリアの語りを真剣に聞いている。

 先程の談笑と打って変わって、場の空気が一気に引き締まったものに。


「でも、これが一切見つからなかった。もう何日探索したかは覚えていないけれど、一日二日なんてものじゃないのは確かだわ」


 魔道具自体が見つかるなら話は早かったのだが。

 霧の性質上、目的のものに出会うには運が絡んでくる。

 しかし、それも数日掛かって見つからないのなら、偶然ではない可能性がある。


「つまり、必然的に見つからないようになっている、ということでしょうか? 霧による空間のねじれで、どの道も中心部に繋がっていないとか? 」


 アイナがある可能性を示す。

 そうなると地道に魔力を削ることでしか霧を晴らすことができなくなってしまう。


 しかし、それを聞いた魔法使いがすぐさま否定する。


「んー……それはないと思うけどなあ」

「それは一体どうしてですか? 」


 カトレアの言葉にアイナが興味津々に食いつく。

 反応したのはアイナだったが、この場に居る全員が次の言葉を待っていた。 

 そして、まるで教師のような口調で、彼女は言葉を続ける。


「それでは、魔道具には絶対に近づけない、というルールが出来てしまう。無秩序の霧の中にそんなルールを設けようなんて、本末転倒も良いところだわ」


 魔法使いの進言は的確だ。

 意図的に魔道具へ辿り着けないようにしている、ということは、それ自体が規則であり、法則だ。

 魔道具が土地に眠る記憶を再生するため、霧の中に無秩序を強制しているのであれば、魔道具に続く道を閉ざすというルールは、前提条件から成り立たない。

 確かにそれは、霧の性質に反している。


「それじゃあ、たまたま見つからなかったってことですか? それこそ考え難いような……」


 シオンは思い浮かんだ疑問を口に出す。

 それに対して、カトレアが強く肯定する。


「勿論、その可能性は低い。ダリアだけじゃなく私達だって、魔道具の欠片も見ていないでしょう? 」


 それはそうだ。

 早朝から夕方まで霧中を駆けたはずだが、少なくともシオンは見ていない。


「それじゃあ――」

「だから、魔道具自体が特殊なんじゃないのかな。例えば、そこに在るのに見ることができないとか、もっと単純に、そこに在ることに気付けていないとか。そっちの方が有り得そうじゃないかな? 」


 シオンの言葉と被せるように、カトレアは言う。

 なるほど発想の転換というやつだ。

 霧に隠蔽の効果を持たせることが出来ないのなら、魔道具自体にその要素を加えれば良い。

 確かにその通りだが、そうなると魔道具の形状が分からなければ発見できない。


「そうですね……せめて、どういう形状なのかだけでもわかると良いのですが……」

「それこそ、この屋敷には何か残されていないの? 君の先代が持ってたものなら、何かしらの形で記録に残ってたりするかもだ」


 そう聞かれるもダリアは素っ気なく。


「そんなのもう調べたわ。見つかったのは魔道具の仕組みについてだけ。貴方達に話した以上のことは何も無かった。期待に沿えなくてごめんなさい」


 そうなると手がかりはゼロ。

 振り出しに戻るといった感じ。

 さて、どうしたものか。


「んー! 情報が足りないな。今日走り回った中で、何か変わったものは見なかったかな? ほら、リンも何かない? 」

「私ですか!?」


 唐突に話題を振られたからか、慌てた様子で返事をする。


「そう、君だ。いや何、緊張してそうだったから話題を振ってあげようと思って。それに君にはもしかしたら――いや、これは言うまい。気軽に答えてくれれば良いよ」


 どうやら、気を遣っての言葉だったようだが、それが逆にリンを緊張させる。

 とりあえず何かを答えないと、そんなプレッシャーに気圧されながら、必死に考える。


 自分が今日見たモノは何だろうか。

 リンは自分の記憶を探る。

 しかし、一番に出てくるのは、やはりあの光景と言葉。


 『愛してるわ、リン』


 そう残して消えてゆく母親。

 鮮やかな剣の軌跡を以て胸を貫く、赤い赤いドレスの令嬢。

 そして、その赤よりも深く濃い赤に輝く星。


「……赤い星? 」

「星がどうかしたのかい? 」


 どうやら意図せず声が漏れていたのだろう。

 カトレアの声によってリンは深い思考の中から浮上し、慌てた様子で弁明する。


「え? 出てました!?……いや、大した事じゃないんです。赤い星を見たんですけど、この辺でそんな星あったかなあ……なんて」


 リンが疑問に思うのも無理はない。

 いつからはもう彼女でも忘れたが、毎晩塔の上に登っては魔術の練習をしてきた。

 だから、彼女にとって星はとても身近な代物で。

 しかし、赤い星なんてものは、この街で生きてきた十五年間見たことがない。


「ふむ、赤い星か……それはいつ見たんだい? 出来るだけ詳しく教えてくれるかな? 」


 要請を受けてリンは詳細を語る。

 その間、ダリアだけは自責の念に駆られていたが、三人は真剣に聞いていた。


 リンの話を聞き終えた魔法使いは呆れたように。


「本当にダリアには言いたいことが山ほどあるけど、今は置いておくわ。そのおかげと言っては浮かばれないけど、打開の切り口は見つかったしね」


 そうして、彼女の作戦が採用され、今晩の作戦会議は終了したのだった。






 

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