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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第二章 螺旋の再生
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魔法使いと魔導士と冒険者と


 霧のかかる森。

 それを聞いたとき、ダリアはすぐにそれが父親の魔道具であることに思い至った。

 それと共に、この件を解決することは彼女の義務になった。


 でも、ダリアにはそうするしかなかったし、そうするのが正しいと本気で思っていたのだ。

 人を殺す、という行為は一生モノの傷になる。

 そんな傷を誰かに背負わせるくらいなら自分が全てを背負えばいい。

 元から貴族として何千何万の命を背負うべきなのだ。今更、背負うものが増えようとも、その全てを抱え込んで毅然と在り続けるくらいでなければ、貴族として誇れない。


 だから、全て背負うと決めたのに。


「私が、全て背負うと決めたのに……そんなことを言われたら……頼りたくなるじゃない……」


 その頬には涙が伝う。

 それは相対する二人、どちらのものか。

 やっと吐き出したダリアの弱音。彼女の武装が目に見えて剥がれてしまう。

 そして、現れた剥き身の彼女を、カトレアは肯定する。


「そんなのいくらでも頼みなさい! まったく、いつまで経っても、貴方は頑固で意地っ張りなんだから」


 そうして、言葉にならない嗚咽だけが場を支配する中、時は過ぎて。

 皆が夕食へ招待される頃まで、静寂は続いたのだった。






 皆で夕食を頂いた後、各々がそれぞれ客間へと戻る。

 最後に夕食を食べ終わったシオンがアイナ共に部屋に戻ると、リンとカトレアの二人だけだった。


「――――――すること! 結局のところ、それが一番大事なんだから! 」

「……難しいです。でも、少しだけわかった気がします」


 どうやらリンは、カトレアから何かを教わっていたようだ。

 タイミング的に話の内容は掴めなかったが、かなりの魔法使いと思われるカトレアの助言なら、きっと彼女の役に立つことなのだろう。

 少し気になったシオンは、素直に聞いてみる。


「何の話をしてたんですか? 」

「ん? 魔法の話をちょっとね。それ以上は乙女の秘密さ! 」


 結局、内容は教えてくれなかったが、乙女の秘密を強引に聞き出すと痛い目を見そうなので、大人しく引き下がることにする。

 その代わりに今度はアイナが質問をした。


「森の中で使用した魔法も素晴らしいものでした。カトレアさんはとても高名な魔法使いの方なのでしょうか? 」


 確かにそれは気になるところだ。

 そもそも魔法が使えること自体、稀有な才能である。

 ゲームとして遊んでいた頃でさえシオンには魔法が使えなかったし、プレイヤーの中でも一割に満たないくらいしか使える者は居なかった。


 だが、魔法使いの返答は芳しくはなかった。


「そんなに立派なものじゃないわ。魔術師や魔導士と違って、魔法使いなんて大した学位があるわけでもないし。どうしたって、ちょっと魔法が使える程度のお姉さんだ」


 そう言い切った後、思い出したかのように付け加える。


「あ、でも冒険者ランクの方は金剛ダイヤモンドよ。ほら! 」


 そう言って、カトレアは懐から冒険者プレートを取り出して見せる。

 すると、そこには確かにダイヤモンドで彩られたカードがあった。

 冒険者ランク金剛は、到達するのに条件がある。それは、災害級のモンスターの討伐である。

 今でこそシオン達はゴールドだが、ゲーム時代のランクは同じく金剛で、それは国家滅亡級の災害モンスターであるドラゴンの討伐を果たしたからだ。

 つまり、この魔法使いにも、それに匹敵する功績が存在するということであろう。


「やはりとても素晴らしい方でした! まさか金剛ダイヤモンドランクの方に会うことができるとは思わぬ幸運です! 」

「本当に大したことないんだってば! そんなことより、私は貴方達の話が聞きたいな」


 あまり褒められるのが得意じゃないのか、露骨に話題を逸らされてしまった。

 だが、相手のことを聞いておいて、自分たちのことは話さないというわけにもいかない。

 なので、シオンとアイナはこれまでの旅について断片的に話すことにした。




 そんなこんなで四人の親睦が深まった頃、客間の扉が開かれる。

 この館の主が、ようやく戻ってきたのだ。

 そして、告げる。


「皆に改めてお願いしても良いかしら。……あの霧は私一人で解決できる代物ではありませんでした。だから、貴方達の力を借りても良いですか? 」


 その表情は憑き物が落ちたかのように柔らかく穏やかで。


「勿論! さあ、早く作戦会議をしましょう! 」


 カトレアが答える。

 そもそも、この場に居る全員が無理やりにでも助ける気満々なのだ。

 今更断るものは誰もいない。


「ありがとう。……本当にありがとう」


 そこには毅然と振舞う冷徹な令嬢はもう居ない。あるのは年相応の優しい令嬢の姿なのだった。






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