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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第二章 螺旋の再生
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一人で背負うと決めたのに


 「だから、私は彼らを殺すの。それは霧を晴らすためでもあり、彼らのためでもあるわ」


 それは深く重い覚悟の言葉だった。

 そう、殺すのだ。獣も、人も。

 霧によって現れた再生体なら何であろうとそうしてきた。


「ただ殺しただけの記憶は、オルゴールに還元されて何度でも再生されてしまう。でも、私の魔剣は魔力を喰らうもの。だから、魔剣で殺したものはオルゴールに還元されない」


 力強く、それでいて淡々と。

 その言葉達は紡がれた。


「まあ、これ以上は関係の無い話ね。そういうわけで、私は貴方達をオルゴールの再生体と勘違いした。許してくれ、なんて甘いことは言わないわ。貴方達を傷つけたのは事実で、それは私の罪だから」


 人を傷つけた。

 それは紛れもない罪である。

 ならば、恨まれることも、罵られることも、報復されることも、当然の罰だ。

 これがダリアの生き方。


「でも、そうね。お詫びとして、私ができることなら何でもする。何か希望はあるかしら? 」


 その提案はシオン達にとって嬉しいものだ。

 元々この街に寄ったのは装備を作るためで、そのための素材が手に入るのならば願ってもないことなのは間違いない。

 それでも、この提案は飲むことはできない。


「いえ、殺そうとしたのは俺達だって同じです。だから、何かしてもらう必要はありません」

「はい。私も恥ずかしながら、怒りに身を任せてしまいました。それに謝罪というなら先程の言葉で十分です。もうそれ以上は必要ありません」


 二人の意見は概ね一致。

 リンの方は緊張しているのか、遠慮しているのか、先程から何故か元気がない。

 そして、こちらも要求はなし。

 まあ、この流れでは自分だけ要求することはできないだろう。

 貴族相手に何かをしてもらえる貴重な機会を逃してしまったのなら申し訳ない。


 あたかも丸く収まりかけたところで、魔法使いが口を出す。


「まさか、それで終わりなんて言わないわよね? まだ肝心なところを聞けてない! 」


 先程より怒気が強まっているのは、その声から明らかである。

 カトレアはダリアを睨むように見つめる。

 そして、問いを投げ掛ける。


「答えて、ダリア。――何故、貴方は一人で解決しようとしていたの? 」


 責め立てるようにダリアを問い詰める。

 その言葉は冷たく、重い。

 それでもダリアの答えは変わらない。


「霧を晴らすのは、魔剣を使える私のやるべきことだから。領主として、私が解決すべき問題なのよ」


 問いかけにダリアが答える。

 しかし、そんなことはカトレアが求める答えではなくて。


「そんな魔剣使いなんか、私がいくらでも連れてきてあげたわよ。言い方を変えるわ。何で私を頼ってくれなかったの? 」


 魔法使いが畳みかけるように問いかける。

 今彼女は、触れたら爆発しそうなほどに怒っていた。

 だが、それでもダリアは毅然とした態度で応じる。


「頼る必要がなかったからよ。あの程度なら貴方の助けがなくとも、私一人で十分解決できるわ」


「何が私一人で十分よ! 生者と死者の区別すら付かなくなってるくせに。その様子じゃあ、どうせ何日もまともに睡眠も取ってないんでしょ。そんなんじゃあ、いつ死んでもおかしくないじゃない! 」


 ついにカトレアの怒りが爆発した。

 これには流石のダリアも反論のしようがないのか、彼女から目を逸らしている。

 そして、カトレアは立ち上がると、ダリアの目の前まで詰め寄った。


「どうせ貴方のことだから、他人に人殺しなんてさせられない、とでも思ってるんでしょ。でも、だからって貴方一人が全て背負う必要もないじゃない! 」


 その言葉によって、ダリアの表情が変化する。

 どうやら図星のようである。

 長年の付き合いからか、カトレアにはダリアが考えそうなことが分かってしまうだ。

 いくら再生体とはいえ、肉体と記憶という自我を持って行動するならば、それは生き物と何も変わらない。

 そして、それを殺すならば、それだけの重みを背負うことになる。

 誰かにその重みを背負わせるということが、ダリアには許容できなかった。

 ならば、自分が背負うとそう決めたのだ。


「私だってその罪を一緒に背負うことぐらいはできる。そのぐらいさせてくれたって良いじゃない。――友達なんだから」


 もはや押し倒す勢いで語りかけている。

 そして、その声は震えていて。


「貴方がこんなことになってるのよ。助けてあげられないなんて、そっちの方が辛いじゃない……」


 カトレアが絞り出した心からの言葉。

 それはダリアの奥底にまで響き渡る、暖かな音色をしていたのだった。






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