孤独な世界
なんて無力なのだろう。
それが、この光景を見せられた素直な感想だった。
赤いドレスの剣士は、卓越した剣技による圧倒的な強さを誇っている。
その様はまるで芸術のよう。それこそ格好も相まって、貴族の舞踏会のように優雅で、華麗で。
母親を殺した相手だというのに、こんなものを見せられたら憎しみなんて湧いてこない。
美しき天災。
彼女の剣技には、それだけの強さがあった。
かと言って黒衣の騎士も負けてはいない。
派手さや美しさこそないけれど、その剣技はとても自由だ。
だからこそ、剣での戦闘中に魔術なんて折り込むことができるのだろうか。
彼女は彼のことを魔術使いと評価したけれど、私からしたらとんでもない。彼は、立派な魔術師であり剣士である。
それこそ、彼の強さは既に証明出来ていると言って良い。
だって、彼女相手に勝るとも劣らない戦いを繰り広げているのだから。
「…………わたしには、無理」
思わず出た独り言。
数歩引いた位置からのそれは、この戦場に居る誰にも届かない。
まるで遠い世界の出来事のよう。
自分と彼らには、それだけの断絶がある。
魔術を使えるようになった。
知識もそれなりにある。
わたしが生きてきた十五年はきっと誰かの役に立てる。
なんて、最近やっと、そう思うことができるようになったのに。
それなのに、これはない。
わたしの拙い魔術では援護どころか彼の邪魔をしてしまう。
この戦闘には私が何かをできる余地は微塵もない。
まるで、わたしを否定されたよう。
今のわたしには土台無理。
ならば、あと何年努力すれば、あの場所まで行けるのだろう。それとも何十年だろうか。
そもそも、わたしの道はあの場所へ繋がっているのだろうか。
もし、繋がっていないなら。
そう思考した瞬間、誰に言われたわけでもない言葉達が頭を過る。
お前の頑張りは無駄だった。お前がどれだけ努力しようが結局は才能が全て。だから、お前の十五年間には意味なんてなかった。
「ああ、そうなんだ……これが――――」
どうしようもなく理解してしまう。
誰かに言われるなら、どんな悪口だろうと我慢できるし気に留めることはない。
今までだってそう生きてきたし、これからだってそう生きていくつもりだった。
でも、自分がそう思ってしまったのだからしようがない。
自分の中の何かが崩れていく。
ああ、きっとこういう気持ちのことを言うのだろうか。
――絶望って。
目の前で黒衣の彼が圧されている。
このままでは彼が負ける。それは素人から見ても明らかだ。
「……だめ……このままじゃ……」
助けなきゃ、と手をかざす。
震える声で詠唱する。
しかし、その掌からは何も出てはくれない。
「――――なんで――なんで出てくれないの? 」
何度試しても発現しない。
わたしにも何かできるかも、なんて希望のような願望すらも形を成さず霧散して。
また、目の前で人が死ぬ。
わたしに力が無いばかりに。
――――――デュランダル! 解放!
何処からともなく聞こえたそれは、閃光と共に。
その奔流は相対する二人を分かつ。
そして、現れたのは聖剣を携えし白銀の騎士。
ああ本当に良かった。これで彼が死ぬことはない。
その奇跡的な登場にわたしは心底安堵する。
でも、そっかあ。あなたもそっち側なんだ。
わかってたけど実際に目にすると実感しちゃうなあ。
遠い世界にいるのはわたしだけ。
ああ、わたしは孤独だったんだ。




