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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第二章 螺旋の再生
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霧中を駆ける


 分断された。

 深い霧に当てられた逸れたわけではない。

 これは明確に分断された。

 シオンがそう思うほど、現状は不可解だった。


「数歩進んだだけで皆の気配が消えるなんて有り得ない! 」


 森の入り口、霧の始まりから数歩歩いただけ。

 それだけでシオンは一人となった。

 シオンだけが隔離されたのか、それとも四人がバラバラにされたのかはわからない。

 だけれども今の自分の状況が良くないことは理解できる。


 とりあえず、合流するために手元の魔道具を確認する。


「そんな……針が完全に狂ってる」


 手に握られた方位磁針は、グルグルと回転していた。

 『双子のミチシルベ』はその名の通り、両者を結ぶ道標となる魔道具だ。

 その針が示すのは単なる魔石の方向ではなく、魔石に辿り着くための道のりまで含めたものである。しかも、その精度は凄まじく、障害物があろうと辿り着く。

 そして、それが狂っているということはつまり。


「空間自体が繋がっていない。道のり自体が不安定になんだ! 」


 これでは合流する手段としては使えない。

 しかも問題はそれだけではない。


 グルルゥ、という獣の唸り声。

 先程までは影も形も存在しなかった魔獣、それが唐突に現れる。

 そして、その魔獣はシオンを視界に捉えると、勢いよく襲い掛かる。


「――あぶねぇ! さっきまで居なかっただろ、何処から出てきた! 」


 シオンは間一髪でそれを回避すると、その魔獣を居合で切り裂く。

 真っ二つになった獣は、そのまま霧に消えていった。

 だが、それだけでは終わらない。

 確認できるだけでも、シオンの回りには数体の魔物がその喉を鳴らしていた。


「まずはここから移動しよう。何とか皆と合流しないと」


 現れるのは、トラ、ヘビ、オオカミ。

 いつかどこかで目にしたことのある獣達。

 これならば倒し方を知っている。

 シオンは立ち塞がる魔獣、魔物を薙ぎ払いながら走り出す。


 アイナは一人でも大丈夫。カトレアもたぶん何とかなる。でも、リンが一人になるのだけは非常に良くない。

 三人の誰かがリンの傍に居ることを祈るしかない。


「頼む、間に合ってくれ! 」


 シオンは魔性の森を駆け抜ける。

 胸に嫌な予感を携えながら、それを否定するようにがむしゃらに。






 少しだけ時を戻して。

 リンには今起きた出来事が理解できず、立ち尽くしていた。


「みんな……消えた……? 」


 一体何が起こったというのか。

 今リンが視認できる光景は、前後左右が木々に囲まれた森と薄っすらとかかる白い霧だけ。

 でも、それは決して有り得ない。

 なぜなら、リンはまだ数歩しか森を歩いていないから。なのに先程まで後ろに見えていた平原と街の姿まで見えないのは有り得ない。


「みんな……何処……? 」


 リンには霧の中の様子が薄っすらと見えている。

 本人は気付いていないが、それは他の三人には見えていないものである。

 だから、リンは数歩先に進む、それだけで何が起こったかその一端が理解できた。

 いや、見えてしまったという方が正しいか。


「さっきまでと場所と全く違う……? どういうこと? 」


 そう、数歩先の景色が数歩前の景色と異なっている。

 と言っても、視界に入るものは相変わらずの大森林と霧。

 しかし、樹木の位置、草の大きさ、花の色、その全てが先程の景色と重ならない。


 そして、リンはその奇妙さに気を引かれて、気付いていなかった。

 此処が既に人外魔境の真っ只中ということに。


「……――――えっ……」


 リンが後ろを振り向くと、そこには巨大な獣。

 それは牙をむき出しにしていて。


 あ、死んだかも、なんてリンが思うほどにはどうしようもない。

 何しろリンにとっては何もかも遅すぎる。

 それはもう致命的なほど。




 だというのに、その瞬間は訪れない。


 単純に見逃されたのか、それとも獲物前に舌舐めずりでもしているのだろうか。


 どちらにせよ、リンは恐怖で閉じたままの眼を開くことができない。

 そんな小さな少女に優しい声が掛けられる。


「もう怖くないよ。ほら、その顔を見せて」


 その声はとても懐かしくて。

 リンは自然と顔を上げてしまう。


 そこに広がるのは幻想的で美しい光景と極光の槍に貫かれた獣。

 だけれどそんなものはリンの目に映らなくて。


 その瞳を占めるのは、ただ一つ。

 少女は今にも泣きだしそうなのを我慢して声を出す。


「……――お母さん! 」


 そう呼ばれた魔女姿の女性は微笑む。

 その柔らかな笑顔はとても懐かしくて。


「大きくなったわね、リン」


 こうして、小さな少女は母親との再会を果たした。






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