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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第二章 螺旋の再生
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白のカーテン


 早朝、生れたばかりの太陽に照らされた英雄像を目前に、四つの人影が集結する。


「みんな集まったわね! それじゃあ行くわよ。領主の安否を確認、もといリンの母親の捜索。さあ、霧がかかる噂の森へ! 」


 まだパン屋も起き始めたばかりという時間に、無駄にテンションが高い魔法使いが一人。

 寝起きのシオンにとっては、とてもじゃないがついていけない。

 だが、これこそが彼女の魅力なのかもしれない、と昨日を通して感じていた。


「ちょっと待ってカトレアさん、これを差し上げます」

「何これ? 」


 カトレアに手渡されたそれは、手のひらに収まるくらいの方位磁針だった。

 無論ただの方位磁針ではない。

 これはシオンが夜遅くまで起きて作った魔道具。

 その名も『双子のミチシルベ』である。


「これは霧で離ればなれになった時用の魔道具です。この針は常に魔道具に記録された魔石の方角を指し示します。だから、逸れてしまった時はその魔道具を頼りに合流しましょう」

「なるほど、とても良い魔道具ね。それで肝心の魔石は誰が持つの? 貴方? 」

「いいえ。これはリンに持ってもらいます」


 カトレアの問いに答えるシオン。

 魔石をリンに持ってもらうのは、この中で一番自衛能力が無いからである。

 この魔道具において一番安全なのは、魔石を持つものだ。

 なぜなら、方位磁針を持つものと違って、魔石を持つものは三人全員から探してもらうことができるのだ。


 宣言通り、魔石のペンダントがリンへ手渡される。

 少々戸惑いながらリンはそれを身に着けた。


「うん! とても似合ってるじゃない! 」

「そ、そうですか? ……ありがとうございます」


 リンは褒められ慣れていないのか、語尾に向けて言葉がどんどん小さくなる。

 その様子が気に入ったのか、なんて可愛いのかしら、とカトレアはリンに抱き着いていた。

 そんなこんなで準備は整った。

 四人は北門に向かって歩き始めたのだった。






 そして、場所は北の森の入り口。

 北門の門番は、凶暴な魔法使いがゴリ押し。

 彼らも朝方で疲れていたのか、それとも彼女のテンションについていけなかったのか。

 たぶんその両方なのだろう。お陰で想定していたよりも簡単に門を通ることが出来た。


「これは凄いわね。この中でみんなお互いのこと確認できるのかしら? 」

「そうですね。いざ目の当たりすると凄まじい霧です……。皆さん逸れないよう注意しましょう! 」


 四人は霧がかかる森の入り口に辿り着く。

 そこにあったのは深い白。

 もはや霧と呼べるのかすらわからないほど。

 大森林という絵画に真っ白な絵の具を塗り重ねたような、視界に映るのはそんな光景だった。


「さあ、捜索を開始するわよ。ついでにアイツも見つけて文句でも言ってやろうかしら! 」


 この霧を前にいつも通りのカトレア。

 そんな魔法使いとは対称的に、俯き出すリン。


「大丈夫か? 」


 シオンは声をかける。

 その言葉に反応して顔を上げるリン。

 何やら怯えた表情をしている。


「……はい。私は大丈夫です」


 明らかな作り笑い。

 それは無理やり自分を鼓舞するようで。

 次第にその表情は変わっていく。


「私が弱ってたらダメですよね。今覚悟を決めました。行きましょう! 」


 今の彼女を怯えさせるもの、それは。

 この霧の森へ入ることか、それとも別の何かなのか。

 シオンにはその正体がわからなかったが、それでも言えることはある。


「俺たちは何があってもリンの味方だから。いつでも頼ってくれ」

「はい! ありがとうございます」


 もう十分頼りにしていますよ。

 そう誰にも聞こえないようにリンは呟く。

 これは単なる独り言。胸中に仕舞いきれなくて静かに流れ出しただけのものだ。

 でも、今はそれで満足だった。


 先頭を歩く魔法使いからの催促が聞こえる。


「おーい! 早くしないと逸れるわよー! 」

「はい! 今行きます! 」


 リンは全力でそれに答えると、カトレアの後をついていく。






 そして、四人は霧の中へ足を踏み入れる。

 目の前が真っ白になるほどの霧のカーテンは、それだけで前後が不覚となる。

 それに加えて、一歩踏み出すたびに感じる違和感は、踏み入れた者の感覚を鈍らせて余りある。


「皆、近くに居るか! 居たら返事をしてくれ! 」


 その言葉に答えは無く、ただ深い霧の中に消えていく。

 

 前も後ろも存在しない霧。

 その中を蠢く魔獣。

 もはや此処は、この世で最も新しい人外魔境。


 そのような状況の中、四人は見事に分断されてしまったのだった。






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