少女の憧れ
私の両親は魔導士だった。
ただ魔術を研鑽するだけの魔術師ではなく。
魔法を行使するだけの魔法使いでもない。
その両方を極める魔導士だった。
今でもその光景を思い出せる。
父の行使する鮮烈で繊細な魔術を。
それに折り重なる母の美しく幻想的な魔法を。
幼い私には、それがとても綺麗なものに映ったのだ。
だから、魔導士になろうと思った。
いつか私にも、あんな風に魔術や魔法が使える時が来ると信じて。
その魔導士達に憧れたのだった。
それからは必死で魔導を修めようと努力した。
父には魔術の基礎を教わり、母には魔法とは何かを伝えられた。
魔力の動かし方から魔導士としての理想まで、ありとあらゆることを教わった。
でも、私にはどうやら才能が無かったらしい。
どれだけ魔術を教わっても。
どれだけ魔法を知っていても。
それが発現することは一度も無かった。
父は、まだ習いたてなのだから焦ることはない、って言ってくれたけれども。
幼い私には、それがとてもショックだった。
だからと言って、そこで習得を諦めることはなかった。
むしろ、以前に増して努力したくらい。
二人から教わったことを何度も復習して。
早く使えるようになるために何度も練習した。
それは二人が亡くなってからも一緒。
もう教えてくれる人が居なくても、書物を頼りに勉強した。
どうやったら魔術を使えるようになるか、必死で模索した。
一人では管理仕切れなくなった屋敷を手放すとき、二人との思い出はほとんど手放してしまったけれど、魔導の本だけは持ち出した。
だから、今の私の部屋には本が壁一面に埋まっている。
それを見ると、何だか見守られているようで少しだけ嬉しくなる。
私が魔術を使えるようになったのは、つい最近のことだ。
それはいつも通りの塔の上。
私の掌からとても小さな炎が発現したのだ。
それはもう歓喜したし、感激した。
感極まってその場で泣き出したくらい。
十五でようやく魔術を初めて習得した。
それは魔導士を目指すものとして、とても遅いとしても。
発現した炎がとても魔術と呼べる代物ではなかったとしても。
私にも魔術が使えるのだ、という事実がわかっただけでこれ以上ない程嬉しかったのだ。
だって、それなら、私もいつかは立派な魔導士になることができるのだから。
たとえそれが、数十年の研鑽の果てであろうとも。誰に認められるわけではなかろうとも。
私は魔導士を目指し続ける。
この道に進むと決めたのだから。
分不相応にも、あの思い出たちに憧れてしまったのだから。
この選択に後悔なんてありはしない。
――――――ああでも一つだけやり残したことがあるとするなら




