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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第二章 螺旋の再生
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小さな少女は探したい


「――――それで、なんでまたそんなとこに? 」


 日時と場所を変えて再集合。

 その場所は二人が最初にその少女と邂逅した場所。

 ファイストの中心に聳え立つ巨塔に話し合いの場を設けた。

 理由としては単純で、人気がない場所というのがシオンにはここ以外思いつかなかっただけである。


「ええと、そうですね。何処から話しましょうか」


 一晩経って冷静になったのか、今は非常に落ち着いている。

 昨夜の錯乱振りがまるで嘘ようである。


「私、幼い頃に両親を亡くしているんです。ああ、何か特別なことがあったわけではなくてですね。病で

倒れたんです。よくある話ですよね。なので今は叔父の家に住まわせてもらっています」


 始まりはこのように。

 彼女の過去のお話から。

 シオンとアイナは思わぬ話の方向に姿勢を正した。


「私の服からもわかるかもしれませんが、私の家は魔導士の家系なんです。と言っても、お偉い貴族様というわけではありませんが。それでも立派な魔導士だったんですよ」


 少しだけ自慢げで、それでいて恥じらうように。

 少女は自分の身分を明らかにする。

 きっと自慢の両親だったのだろう。


「それで私も成ろうと思ったんです、あのカッコよくて優しい魔導士に。だから、家でたくさん勉強して、夜にはこの場所で実践なんかしたりして! どうやら私には才能は無かったみたいですけどね……」


 ほら、と少女は手のひらに火の粉を発現させる。

 しかし、それは刹那の勢いで消え去った。

 それが予想通りだったのか、その表情は苦笑という言葉が当てはまるだろう。


 でも、ここからは少し表情が変わって。


「昨日もいつも通り魔術の練習をしていました。でも昨日は何故か集中できなくて……。しょうがないから森を見ていたんです」


 それは昨晩の話。

 恐らく語られるのは、少女が行動を起こした理由。

 シオンとアイナは固唾を飲む。


「そうしたらそれが見えてしまって。幻かなとも思ったのですが、それでも無視はできなかったんです」


 リンは森にかかった霧の中に何を見たのか。

 そして、何故そこに行かなければならなかったのか。

 言うなれば昨夜の事件の核心部分。


 言葉を紡ぐリンの口が緊張している。

 どうやら未だに話すのを躊躇っているように見える。

 でも、ここで終わりは許されない。

 だからこそ、シオンは先を促すように、一言だけ尋ねる。


「何を見たんだ? 」


 観念したようにリンの口が開く。


「それは……母を……私の母を見たんです! 」


 話を聞き終えた二人は絶句する。

 昨夜リンを森へ駆り立てたもの、その正体は彼女の母親だった。


「でもそれは――」


 あり得ない。

 なぜなら、リンの両親は既にこの世には居ないから。


「私だって自分がおかしなことを言っているのはわかっています。でも、シオンさんは霧の噂話をご存じですか? 」


 それはつい先日の記憶に新しい噂話。

 曰く、霧のかかる森の中では死者に会う。

 そんなこの街に住む者なら誰もが一度は耳にしたことのある話だ。


「それはあくまで噂話です。本当のこととは限りません」

「はい、わかっています。それでも私は行きたいんです! 例えそれが私の見た幻であったとしても、本物である可能性が少しでもあるならば」


 そして、リンの張り詰めた表情が少し和らぐ。


「だって、母には伝えたいことがたくさんありますから! 」


 それは希望に満ちた少女の気持ち。

 先程までの諦念も無念もそこにはない。

 その真っ直ぐな思いがシオンとアイナの胸に響いた。


 シオンはアイナに目線を送る。

 アイナもどうやら同じらしい。


「リン、君の想いは確かに聞き届けた! だから、君が望むのなら俺たちは君に手を貸そう! 」


 そんなシオンの宣言。

 少女は心底驚いていた。


「……え? 本当に良いの? 」

「はい、勿論です! こんな話を聞いて放っておくことなんて出来ません。出来る限りのことはさせてください! 」


 アイナによる力強い肯定。

 それは茶髪の少女にとっては、とてもとても心強くて。

 何なら涙が出てしまうほどに。


「あ、ありがとうございます! 本当に……ありがとうございます」


 溢れるものを堪えながら、小さな少女は繰り返しお礼の言葉を口にする。


 茶色の少女が始めて得た協力者。

 それはこれまで少女が望むも手に入らなかった奇跡。

 あらゆる問題、あらゆる負債を先送りにしてもなお、今この瞬間だけはこの気持ちに浸っていたい。


 二人にとっては当然の帰結だとしても。

 それ以上の価値が彼女にはあったのだ。


 きっと今日のことを忘れることはないだろう、少女はそう確信していたのだった。






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