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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第二章 螺旋の再生
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夜の見張り番


「アイナ! そっちに行ったの頼む」

「任せて下さい! 」


 夜、月明かりの降り注ぐ頃。

 何処までも続く外壁を背負って、二つの人影が躍動する。

 そして、その二つに迫る複数の影。

 

 切る。焼く。撃ち抜く。


 ひとつずつ丁寧に。

 それでいて大胆に。


 迫りくる獣を片っ端から破壊する。


 相手は四足歩行の魔獣。

 暗くて判別は出来ないが、大型の怪猫キャスパリーグの類だろう。

 凶暴なだけで厄介ではない。


「なんかトラっぽいのまで出てきたぞ!」


 トラは大きく跳躍。

 シオンを噛み砕かんとする牙が上空から襲い掛かる。

 それを己が剣で受け止めたシオン。

 そして、その背後から銀髪の少女がトラに切りかかる。


「ナイス! 助かった! 」

「いえ、それが私の役割ですので」


 トラ模様の魔獣は聖剣によって絶命する。

 アイナは己が仕留めた獲物から魔石を取り出した。

 

 魔石とは、魔物にとっての心臓と言えるものだ。

 魔物はその身体の中で魔力を循環させることで生命活動を維持している。

 それが、普通の生き物と魔物の違い。

 生物としての構造が根本から異なっている。


「今ので最後みたいだな。それじゃあ一旦休憩にしよう」

「了解しました! 」


 二人は今、クエストで北門の見張りをしている。

 といってもやることは単純。

 街に寄ってくる魔物の侵入を防ぐことだけ。  

 人の出入りは元々そこに居る門番の方がやってくれる。

 つまりは用心棒だ。


「門番さーん! ただいま戻りました! 」

「おう、お疲れ様。また随分派手にやったなあ! こっちは夜明けまで戦う覚悟をしてたってのに、この短時間で追っ払うなんてやるじゃないか! 」

「それほどでも。私達は冒険者ですので、このくらいは当然です」


 そう平然と何でもないことのように返答するアイナ。

 しかし、満更でもない顔をしているので内心嬉しいのだろう。

 シオンも素直に褒められて悪い気はしない。


「それにしても、毎晩この数の魔物と戦ってるんですか? 」

「いやいや、こんなの毎日なんかやってらんないよ。最近どんどん数が増えてるんで困ってるんだ。今日のは特に酷いな」


 これも森の封鎖に何かしら関係しているのだろうか。

 二人にとっては、クエスト報酬に加えて魔石まで手に入るので嬉しい限りだが、門番にとっては悩みの種と言えるだろう。


 そんな雑談を交えたちょっとした休憩。

 そこに伝令役が現れる。


「蛇型の魔獣がこちらに向かっています。数にして三十前後です」


 その場にいる全員が立ち上がる。


「大して休ませてあげられなくて悪いが、仕事の時間だ」

「任せてください! 殲滅してきます! 」


 そうして、二つの影がまたもや月明かりの下に放たれた。




 しばらくして。

 最後と思しき蛇にシオンが止めを刺す。


「ふう……流石に疲れたなあ」

「はい。蛇は毒に注意しなければならないので、厄介でしたね」


 蛇の魔物は、他の魔物と比較して毒を持つ種類が多い。

 四足歩行型の魔物と違い凶暴では無い分、神経質にならなければいけない。

 殺し方を間違えれば、返り血で毒をもらうことだってあり得る。

 つまり、凶暴ではないが厄介な魔物と言える。


 そして、それが三十体、ここで地に伏している。

 それも全て血塗れで。


「これでは素材を取ることは難しいですね……」

「素材のことまで考える余裕なんて無かった。これは仕方ない」


 蛇は厄介な分、その皮や牙は高価に取引される。

 だからこそ、二人は素材を集めておきたかったが、これでは近寄ることもできない。

 仕方ない、そう無理やり己を納得させて宝の山から身を引くことにした。

 勿論そのままにもできないのでちゃんと火葬して。


「……戻ろうか」

「はい……戻りましょう」


 二人は名残惜しそうに燃える亡骸達に背を向けたのだった。




 休憩所に戻ると、そこには何やら賑やかさがあった。

 と言っても談笑という雰囲気ではない。

 どちらかと言えば怒鳴り合い、いや口論中と言ったところだろうか。


「戻りました……何やら賑やかですけど何かありました?」


 そう言ってシオンが顔を室内に覗かせる。

 そこには門番達と見知った顔が一人。


「おう、お疲れ。今この子が森に行くって聞かなくてな。必死に止めてるところだ」


 そう言って親指の先を向けられた先には。

 茶色の髪に、ローブ風の服。

 最近行く先々で出会う少女がそこに居た。


「あれ、リンじゃん」

「リンさんですね」


 その声で少女はこちらを認識する。


「シオンさん! アイナさん! 私を連れてって下さい! あの霧の中に! 」


 精一杯の訴えが部屋中に反響して消えていったのだった。






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