冒険者ギルドと噂
「予定外の時間ができてしまいました。これからどうしますか? 」
「うーん、どうしようか? 」
今日はそもそも鍛冶屋選びから注文や採寸で一日を費やす予定だった。
それが図らずも正午過ぎ。
太陽はこれでもか、と力を示している。
この半日をどのように過ごすか、予定の立て直しだ。
昨日と同じように観光しても良いのだが、何をするにも中途半端な時間である。
「それではギルドの方に顔を出しますか? ここから近い場所にあったと思いますが」
「それだ! 」
銀髪の少女の提案はその場で採用。
二人の半日はこのようにして決定された。
冒険者ギルドに到着。
それは街の外れというほど遠くはなく、中心からは少し離れた、そんな場所に建てられていた。
その外観はとても立派で、周囲の建物と比較すると桁違いの存在感である。
「ファイストの冒険者ギルドは立派だなあ……」
「やはり大きい街ではギルドも大きくなるのでしょうか」
二人がここに来るまで通ってきた街はそれほどのところではなく、冒険者ギルドもそれなりの大きさに止まっていた。
しかし、ファイストは大都市に分類されるような街だ。
冒険者ギルドの規模も他の街とは大違いである。
「よし! 入るか! 」
「入りましょう! 」
二人は覚悟を決めて扉を開けた。
中に入るとそこは見慣れたギルドだった。
入口横に受付、その隣にクエスト掲示板、そして奥には酒場。
安心感を覚えるほどにそれは変わらなくて。
「外が立派だから中もそれなりなのかと思ったけど、いつも通りのギルドって感じだな。なんか安心」
「そうですね! 逆に貴族屋敷のような内装というのも見てみたかったですけど」
二人は受付に行き、この街で活動するための手続きをする。
と言ってもそれほど煩雑なものではない。
ギルドカードの登録と簡単な注意事項くらいである。
そして、この街においての注意事項が付嬢から語られる。
「ではこの街で活動するに当たっての注意事項ですが、基本的に他の街と変わりません。ギルド規則を守っていれば自由に依頼を受けられます。それと今は街の北側の森が封鎖されているので、立ち入らないようにお願いします」
ここでも封鎖の話が登場する。
封鎖について詳しく聞くと、街の北側のほとんどが領主によって封鎖されているらしい。
その理由は領主から語られておらず、ある日突然封鎖の連絡を受けたという。
いつ頃解除されるかもわからないようだ。
「以上で注意事項は全てとなります。クエストは毎朝更新されるので確認してください」
「わかりました。ありがとうございます」
そうして二人はクエストボードへと移動する。
今残っているクエストは数少ない。
それも夜の見張り番といった面倒なものしか残っていない。
人気な依頼は朝のうちに無くなってしまうのだろう。
「やっぱり朝じゃないと良いのがないなあ……。魔獣の討伐とか手っ取り早くて好きなんだけど」
「そうですね……。銀級相当のクエストはほとんどありません」
そんな会話する二人。
すると、近くにいたベテラン風の冒険者が陽気に話しかけてくる。
「お前らここに来たばっかなのか? 魔獣の討伐なんか今はほとんど回って来ないぞ」
「そうなんですか? 」
「おう! この辺で魔獣が出るのは北側の森だからな。森に入れないから依頼も出ない」
なるほど納得である。
森での討伐が出来ないのでそもそも掲示板にも張り出されないらしい。
つまり、全ては領主次第。
大変な時期に訪れたものである。
間が悪いとはこういうのを言うのだろう。
「結局封鎖が解除されないと何も出来ないのか……」
「せめていつ頃解除されるかだけでもわかれば、予定も立てやすいですが……」
二人の呟きに冒険者が答える。
「森の霧が晴れるまではこのままだな。まあ待っていればそのうち解除されるだろうよ」
何か不思議なことを聞いた気がして、アイナが聞き返す。
「あの……森の霧と今回の封鎖にはどんな関係があるのですか? 」
すると冒険者はニヤリとした笑みを浮かべ、聞きたいか、と一言。
二人が了承すると、奥の酒場まで案内されたのだった。
「これは俺が親父から聞いた噂なんだけどな……。森に霧がかかるときは死者に会えるって言われてんだ。何でも霧の中で迷子になった奴は死者に麓まで導かれるってな」
ベテラン冒険者は口を開く。
それはなんとも噂話らしい噂話だった。
「何とも嘘くさい話だが、実際に死んだ母親に会ったって奴も居やがるから、ただの噂話じゃねえと俺は思ってる」
「なるほど……。それでこの話と北の森の封鎖はどんな関係があるんだ? 」
またしてもニヤリとした顔。
如何にもゴシップ好きと言った表情である。
「ここからが面白いところなんだよ。実はその噂の正体って奴にも色々な噂があるんだけどよ。俺が一番有力だと思ってるのが、領主の魔道具の効果なんじゃないかってやつさ! 」
どうだ凄いだろう、とでも言いたげな表情。
少し陰謀論じみたものを感じるが、それなら霧と封鎖の関係も理解できる。
と言ってもそんな魔道具が存在するならという限定的なものであるが。
話は続く。
「親父が言うにはな、親父の子供の頃にはこの辺で霧がかかることはなかったらしいんだ。それが本当ならあの霧は人口的に作り出されたものってことになる。そして、今北の森には霧がかかっていて領主が封鎖している。きっと何やら怪しい事業に手を出しているに違いない! 」
男の力説が終わる。
喉が渇いたのかビールを注文している。
「もしそれが本当ならとても面白い話ですね! そのようなものを持ち出して何をするのか気になるところですが」
「うーん、イタコとか? 」
「そりゃあアレだろ。ほらアレアレ」
そこまでは考えていなかったようである。
詰めが甘いとはこのようなことを言うのだろう。
「そんなことよりまだまだ面白い話はたくさんあるんだ。勿論聞いてくよな。真夜中の正体不明殺人鬼の話はどう――」
「そんなしょうもない話するくらいなら働きに行きな。ほらそこの新顔も散った散った。こうなると夜明けまで付き合うことになるよ! 」
ビールと共に運ばれたのはそんな小言だった。
何とも絶妙なタイミング。
日も暮れてきて時間も良い感じだ。
「それじゃあ俺たちはこの辺で失礼します」
「お話面白かったです! ありがとうございました」
結局わかったことは、二人にはどうしようもないということだけ。
今は少しだけ余分があるが、このままでは資金が底をついてしまう。
「明日の朝にでも何かクエスト探さないとなあ……」
シオンはそう呟きながらも帰り道で串焼きを買ってしまうのであった。