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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第一章 剣と魔法の世界
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幕間:少女と白


 これは少年と少女が運命の再会を遂げる、その少し前の話。

 少女が世界に降り立つ前まで、時は遡る。


「やあ。君も目を覚ましたのかい?」


 辺り一面真っ白な空間。

 何処に終わりがあるかも、もしくは終わりがあるかもわからない、そんな無限大に広がる空間の中に少女は立っていた。


 少女は辺りに見渡すが声の主は見つからない。

 代わりに見つけたのは、背後に居座る巨大な門だけである。


「門……? 」


 またもや声が聞こえる。


「君にはこの場所がはっきりと見えているんだね。それならもう少し、僕という存在に目を凝らしてみて欲しい」


 少女は言われるがまま、周囲をもう一度見渡す。

 今度は声の主にだけ焦点を当てて、眼鏡のピントを合わせるように。


 すると目前には、人型が現れる。

 それは少年とも少女とも見て取れる容姿だ。先程の声にしても中性的で、性別は読み取れない。

 確かなことは自分よりは幼い容姿であることだけ。


「僕が見えるようになった? それはよかった。しかし、こんな助言だけで見えるようになるなんて、君は随分と物覚えが良いんだね」


 とにかく褒められていることは理解できた。

 それを否定する必要もないので、素直に受け取る。


 それはともかく、少女には聞きたいことがたくさんあった。

 しかしここまでくると、もはや何から尋ねたらいいか迷ってしまう。

 少女は口に手を当てて考え込んでいたが、それが目前の存在には微笑ましい光景であったらしい。


「何か聞きたいことはあるかい? なんでもとはいかないけれど、ある程度なら答えてあげられるよ」


 それなら、と少女は切り出した。


「ここは何処なのでしょうか? 」


 まずは自分の置かれている状況を確認するところから始めることにした。


「ここはそうだなぁ……宇宙の端、世界の狭間、いろんな言い方があるけれど、今は『何処でもない場所』というのが最適かな。キャンバスの余白とか、物語の行間とか、そんな感じの場所だと思って欲しい」

 

 そうして締めくくった後に、ああそうだ、今はあの扉があるから世界を区切る場所ではあるかな、と取りこぼしたものを拾い上げる。


「……よくわからないです」

「そうだね。でも許してほしい。言葉にするのは難しいんだ」


 わかるようでわからない、そんな要領を得ない説明である。

 とりあえず自分の理解できるような場所ではないことが理解できただけ。

 この質問にはあまり意味はなかったようだ。


 ならば次の質問。


「あなたは誰ですか? 」


 相手が答える。


「僕は、無数の願いの結晶体だ。つま先から髪の毛に至るまで、誰かの『想い』によって出来ている。そうだね、簡単に言うなら『願いを叶える神様』ってところかな」


 目前には自慢げにそう唱える子供がいた。

 今度のは理解できる。要するに目前の子供は『神様』であるらしい。


「神様にお会いするのは初めてなので、嬉しいです」

「ふふっ、僕も君に会えて嬉しいよ」


 ここでそのような言葉が出てくるあたり、豪胆というか大胆というか、少女は少しばかりズレているようだ。

 思わず神様の方が笑みを浮かべてしまう。もっとも、目前の子供は終始笑顔であるが。


 挨拶済まし、少女は追加の質問をする。


「あなたはここで何をしているのですか? 」


 これには少しだけ唸った後、解答する。


「普段は特に仕事は無いんだよね、僕。強いて言うのなら此処に存在することが仕事かな。僕は、僕の存在を媒介として他者の『願い』に応える触媒シンボルだ。そうあれと人々に望まれ形作られた世界の法則システムなんだ」

 

 少女には理解しきれず、難しい顔になる。

 口に手を当てて考えていると、目前から声がかかる。


「ゴメンね。やっぱり言葉で伝えるのは難しいんだ。気を取り直して、次の質問に行こう」


 次の質問。


「私はこれからどうなるのですか? 」


 ニヤリと笑う。


「君は今からある世界に転生する! 」


 そう胸を張って宣言した。

 少女は驚きもせず、その言葉の続きを聞く。


「場所は君達が過ごした、科学よりも魔術、魔法が発展した世界。黒の魔女によって科学世界に示された、未知と神秘で満ちたユートピアだ! 」


 それはつまり、『フェアリーテイル・ファンタジー』の世界に転生するということだろうか。

 少女にとっては馴染み深い、なんて言葉では言い表せないほどの場所である。

 なんてことだろう。まさかもう一度あの世界を駆けることが出来るなんて。


 でも、それならば必ず聞かなければならないことが一つある。


「あの……その世界にはいらっしゃいますか? 」


 一呼吸置いて少女が吐き出す。


 少し遠慮がちに、されど覚悟を決めて。


「――シオンさん。シオンさんはいるのでしょうか?!」


 応答者は笑みを共に答える。


「勿論居るとも! 僕が請け負った仕事は君達二人の転生だ。彼には何も問題がなかったからね、君より先に送り出したのさ」


 その返答に少女は喜びの表情を浮かべるが、言葉にする前に遮られてしまった。


「でも少しだけ待って欲しい。彼と違って君の肉体の構築には時間が掛かるんだ。あとちょっとで終わるから」


 そうして、申し訳なさそうな顔をする。

 彼女もなんだって肝心の情報を圧縮するかなー、一人分の容量しかないのはわかるけどさー、なんてことを呟いていたが、少女には意味がわからなかった。


 今度は神様の方から。


「じゃあ暇つぶしに、僕の質問にも答えてよ」


 そんな軽い調子で問いかけられる。


「君は今度こそ自由な人生を送ることが出来る。それはプログラムなんかでは縛られない、本物の人生だ」


 真っ直ぐに少女の目を見据える。


「それでも君は――あの子と共に生きるのかい? 」


 少女があの世界でシオンと共に行動していたのは、言うなればそういうプログラムだったからだ。だからこそ、目前の存在はそれを聞いておきたかった。無理に付き合う必要はないと。


 しかし、少女は即答する。


「はい。それが私の生きる理由ですので」


 それは決意か、それとも。


「……まあ及第点かな。本当はもっと……。いや責めるつもりも見定めるつもりもなかったんだけど、そう見えたならごめんね。転生後どう生きるかは僕には関係のないことだ。何も言うつもりはないよ」


 それは少しだけ憐れみを含んでいて。


「でもね、こう生きなければいけないなんて義務りゆうは存在しないんだ。君には少しだけで良いから、自分がどう生きたいか考えてみて欲しいな」


 それは今までの少女の人生には存在しなかったもの。機械仕掛けの人生では終ぞ得ることが出来なかったもの。

 いつか少女にそれが理解できるときが来るのなら、その答えはどのようなものになるのだろう。

 質問者として楽しみに見守ろうと、その存在は胸にする。


 そうこうしているうちに、お別れの時間が来てしまった。

 口に手を当て真剣に思案している愛らしい姿に声をかける。


「さあ、君もあの世界に送り出す時が来た。心の準備は出来ているかい? 」

「はい。いつでも行けます! 」

 

 すると少女の足元に円形の魔法陣が現れる。

 どうやら転移魔術らしい。


 どうやら本当にお別れが近づいていると悟って、少女は精一杯の感謝を伝える。


「あの……本当にありがとうございます! こんな言葉では伝えきれないほど感謝の気持ちでいっぱいです! 」

「こちらこそ、そこまで喜んでくれるなら嬉しいな。是非、楽しい人生を送って欲しい」


 少女は精一杯の返事を返し、光の中に飲み込まれていく。

 そんな最中。


「ああそうだ、早く彼のもとに向かった方が良い。彼、今死にかけているからね」


 というとても衝撃的な言葉を聞いた気がした。






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