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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第一章 剣と魔法の世界
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花びらが舞う


――――――暗転する。


 視界から情報は失われ、感じるのは溶けそうなほどの熱と爆発音。そして、全身を襲う衝撃波。

 それは防御魔術など意味を為さないほどの魔力爆発だった。


 時間にして、たった数秒の蹂躙。

 しかし、耐えられる限界を優に超えていた。

 意識の断絶。

 シオンは、死の奔流に身体を投げ出した。




「…………シオンさん……生きて、ますか…………」


 今にも消えそうな声がシオンを呼ぶ。

 目を開けるとアイナの顔。そして、その顔が微笑む。


「……よかっ、たあ…………」


 そうして、アイナはシオンの身体にもたれかかった。シオンはアイナを抱きしめるように受け止める。

 そして、背に当てたシオンの手は真っ赤に染まる。白銀の騎士の半身は、その鎧ごと焼け落ちていたのだ。



「アイナ……? 」


 気づく。己の胸に当てられた聖剣を見て。

 理解する。自分が何故あの攻撃から生き残ることが出来たのか。

 それは、防御魔術も身体強化も無く魔力の暴流の前に身をさらしたシオンが、今も息を繋いでいられるのは、アイナが守ったから。

 それも己を顧みず、聖剣の力を全てシオンに移して。


「また……守られたのか…………」


 なんて無力なのだろう。

 敵を打ち倒すこともできず、守りたいはずの少女に二度も助けてもらった。

 その少女は傷つき倒れているというのに。

 シオンは自身の弱さを痛感する。己を呪い殺したいほど。


 幸いにもアイナはまだ死んでいない。気を失っているだけのようだ。

 もしかしたら、聖剣が主の命を繋いでいるのかもしれない。

 シオンはアイナに聖剣を抱かせて寝かせると、徐に立ち上がった。


 そして、黒いドレスの少女は、驚くように声を上げる。


「まあ……まだ生きているなんて気持ち悪いわね。まるで油虫のよう」


 そんな言葉を投げかけられるが、返す余裕がシオンにはなかった。

 だからこそ、その紅の瞳を睨む。


「そんなに恐い顔しなくてもいいじゃない。もっと殺したくなるでしょう」


 そうして、その少女は此方へゆっくりと距離を詰める。

 この歩みが止められたとき、今度こそ二人が殺されるときである。

 何か生き残る方法は無いのか。

 シオンは思考を巡らせる。

 自分の持てる全ての武器と可能性。だが、それら全てが打開には至らない。


「……こんなときすら独りじゃ何もできないのかよ…………クソ! 」


 あと五歩。それだけで彼女の剣が己に届く。

 シオンは魔力を編んで黒剣に込めていく。

 決して勝てぬほどの差があろうとも、必ずアイナだけは守り抜く。


 あと三歩。己が死が目の前に迫る。

 恐怖で身体が震えるのが分かる。心臓の鼓動が早く感じる。

 それでも、両手だけは正確に。


 あと一歩。それで全てが終わる。


――――――花びらが舞う。

 そんな不思議な感覚がシオンを襲う。

 刹那ほど前の殺伐とした緊張感など、もはや忘れ去ってしまうような。

 何が起きたのか一瞬では理解できなかった。


 黒いドレスの少女は足を止める。

 二人の間には、灰色の髪の女。まるで最初からそこにあったかのように、そこに佇んでいる。

 黒い外套に巨大な鎌、その姿はまるで死神のようで。しかし、怖ろしい印象は何処にもない。まさに夜に咲き誇る月下美人のようであった。


「急いでよかった。ギリギリセーフ」


 そのような緊張感のないセリフを吐くと、シオンとアイナを交互に確認して言葉を続ける。


「あなたたちを迎えに来た。外にもう一人男がいる。そいつならその子の治療もできる。だから、あなたはその子を抱えて出口へ走って。私はこの物騒な奴の相手をする」


 女の言葉は矢継ぎ早で、伝えたいことだけを確実に伝えた。

 その言葉を聞き、シオンは呆然とした思考を現実に引き戻す。

 そして、すぐに行動へ移し、アイナを抱えてシオンは大きな門をくぐり抜け、走り出す。

 もちろん紅の瞳の少女が、後を追ってくることはなかった。






 二人が退出するのを確認して、女は少女と向き合う。

 お互いに武器を構える様子もなく、悠然としていた。

 そして、少女が沈黙を破る。


「……十年ぶりに見たわ、その顔。陰気な墓守さんがこんなところに何の用かしら? 」

「私のこと知っているの? 私は知らない、あなたのこと」


 その天真爛漫な受け答えに少女は、心底嫌そうな顔をした。

 灰髪の女はそれを見て、何がいけなかったのか不思議そうに首を傾げている。そして、自分が質問に答えていないことに思い至り、納得した。

 勿論、少女の顔が曇ったのはそんな理由ではないのだが。


「さっきも言ったけど、私がここに来たのはあの二人を迎えに来たから。彼らは世界の懸け橋になる存在。こんなところで死なせるわけにはいかない」


 少女は気だるげにそれを聞いていたが、聞き終わった途端、まるで狂ったような笑顔をして口を開く。


「あらあらあら、そういうこと! それは良いことを聞いたわ。これで色々先に進めそう。こんなに嬉しいのは、いつ振りかしら! 」


 そうして少女は、目の前で此方を観察している女に背を向け、細剣で空間を切り裂く。すると人一人分の大きな裂け目が出現したのである。


「私、やることが出来ましたので、これで失礼します。本当は今すぐにでも確保したいのだけど、今あなたと事を構えるつもりはないわ。それに――――生き埋めにはなりたくないので」


 二人に間に残骸が降り注ぐ。

 天井が少しずつ崩落しているのである。この神殿は今まさに崩壊を始めていた。

 元々崩壊寸前であったのにも関わらず、少女の攻撃によって大規模な衝撃を与えたのである。止めを刺したといっても過言ではない。


「それでは――――御機嫌よう」


 そうして、少女は空間の裂け目の中へ消えていったのであった。






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