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Sirius~黒鉄と白銀の旅人~  作者: めらんこりぃ
第一章 剣と魔法の世界
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終わる世界に、二人は想う


――今日、この世界は終わりを迎える。

 だからこそ、俺は急いでこの場所を目指していた。

 そして、今目の前に立ちはだかるのは、巨大で禍々しい扉である。


「ついに、俺たちはここまで来たぞ! アイナ」


 感極まった俺は、傍らにいる少女に話しかける。

 銀色の綺麗な髪を靡かせ、白銀の鎧を身に纏い、手には水晶のように透き通る大型の剣を持つ少女。

 しかし、返事はなかった。勿論、ただ無視されたわけではない。彼女はこの世界のNPCであり、返事をする機能を持ち合わせていないだけ。

 当然の結果だが、俺にとっては少しだけ寂しいことだった。


 俺達がたどり着いたのは、『古代の神殿』の最奥にあるボス部屋である。この扉の先には、ラスボス『黒の魔女』がいるのだ。

 実装から数か月、討伐回数は、大規模レイドを組んで挑んだ一回だけ。そのような、この世界最強の存在に、今から二人で挑戦しようというのだ。無謀にも程がある。

 

 だが、俺はどうしても最後にこの二人で挑みたかった。

 この世界最奥の地に、二人で到達した証を残したい。理由なんてそんなもので、無いに等しい。

 だとしても、俺達はこの先に、剣を突き立てるのだ。


「残りはあと一時間、これだけあれば十分だ。行こう、アイナ。これが正真正銘この世界最後の戦いだ! 」


 扉を開けて中へと進む。

 これは証明だ。俺とアイナ、この二人なら何処までも進んで行けるという証明。






――今日、この世界は終わりを迎える。

 だから、私はこの瞬きの間に想いを馳せる。

 今までの冒険のことを。もう此処にいない少年のことを。


 出会いは、冒険者ギルドのパーティー募集制度でした。

 運営がソロでも攻略できるように用意した救済システムで、NPCわたしたちをパーティーに加えられる制度です。

 なので私も、いつものようにギルドでパーティーを募集していたのです。

 そこに現れたのが、黒髪の少年でした。

 如何にも冒険者成り立てといった服装で、鍛冶屋で投げ売りでもされていたかのような短剣を、腰に下げていました。

 そうはいっても、私だって似たような恰好でしたが。

 そして、その少年はシオンと名乗り、パーティー申請をしてきたのでした。


 そうして、私達は出会いました。

 それからというもの、この世界の様々な場所を二人で冒険したのです。

 とても高い山を登ったり、巨大な船で海へ出たり。時には砂漠の国なんてこともありました。

 今となっては、そのどれもが輝かしい日々の思い出です。


 そんなこんなで今、私達はこの世界の最奥まで到達しました。

 出会った頃からは、とても考えられません。

 駆け出し冒険者の恰好をしていたシオンさんが、今では黒鉄の衣装に身を包んでいます。もうあの頃とは違う、一流の冒険者なのでした。

 それでも、性格は今も変わらず、好奇心旺盛で少しだけ子供じみていて。

 今日だって、突然私を連れだしたかと思えば、こんな場所までやってきて。いきなり、ラスボスを倒すぞ! なんて、無茶苦茶にも程があると思うのです。

 いつだって、私はあなたに振り回されてばっかりでした。それはそれで、楽しかったというのは、私だけの秘密ですが。

 

 さて、そろそろこの場所も崩壊する頃でしょうか。

 これは、世界の終わりから世界の解体までの、瞬きの夢のようなもの。

 ボタン一つで、私はこの世界と共にデータの海に消えてしまう。

 だから、最後の時まで、私は『私』を保ち続ける。だって、この記憶は、この記録は、私だけの宝物なのですから。


 私は、この場所に刺さった蒼色の聖剣を見つめる。それは彼が残した、この世界に存在した証であり、この場所に到達した証。

 それはそこにあるだけで、私達の冒険の旅は確かに存在した肯定してくれるようでした。


「……そうだ。私にもまだ、やることがあったんだった」


 そう呟いて独り、その剣に向かって歩いていく。

 そして、そこに辿り着くと、私は自分の持つ剣を交差するように地面に突き立てた。


「――私達なら何処までも。そうですよね、シオンさん」


 この世界最奥の地に二つの剣が並んでいる。

 それは証明だった。何処までも進んで行けると信じた二人が、最後にこの場所まで到達したという証明。






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