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プロローグ

 俺の名前は拓也たくや! よろしくな!

 突然なんだけど、俺は、もうすぐ死にます。

 え? なんで死にそうなのかって? じゃあ、俺がこうなる前から話を進めよう。


 その日は嫌になるほど暑い日だった。

 お盆休みということもあり、家にいた俺はアイスを買いにコンビニに向かっていた。

 照りつける太陽から殺気を感じるほどに暑い。

 よく干からびたおたまじゃくしとか見るけど、こんな苦痛を死ぬまで浴びせられていると思うと、不思議と手を合わせたくなった。 お前らの分も俺は生きるよ。

 それからコンビニにつき、アイスを買う。

 コンビニを出る際、フードを深く被った男とすれ違う。

 うへぇ、こんな暑いのにあいつ正気かよ。

 と、思ったのもつかの間、すぐに店員の悲鳴が聞こえてくる。

 とっさに振り返ると、男はナイフを店員に向けていた。


 「金を出せ! 早くしろ!」


 震えて声も出ない店員に男はあくしろよと脅すばかり。


 「あー、お兄さん? その格好暑くないっすか?」


 そこに誰かが声をかける。

 そう、俺である。


 「なんだてめぇ、殺されたいのか!?」


 そう言って男はナイフをこちらに向ける。


 「やだなぁ、今日猛暑日更新してるのに、お兄さん脱水症状で倒れるんじゃないかって心配してるだけですよ」

 「てめえには関係ねぇ! とっとと消え失せろ! じゃないとてめえもぶっ殺すぞ!」

 「殺されたくはないですけど、このまま回れ右で帰ることもできないんですよ」

 「じゃあ死ねクソガキが!」


 そう言って男はナイフを振りかざしながらこっちに向かってくる。

 やっばい、タイプの店員さんだったからなんとかしようとしたけど、無策という名の愚策しか持ち合わせてなかった。

 なおも迫ってくる男、死が急激に近づいてくる。

 瞬間、すべてがスローモーションになっていく。

 これが走馬灯……。 あれ、走馬灯って記憶がフラッシュバックするんじゃなかったっけ?

 そして完全に静止した世界になる。


 「まったく、不本意だけど君を助けてあげよう」


 誰かの言葉が耳に届く。 が、俺自身も止まっているので振り向くことも出来ず、その声の主を探すことも出来ない。


 「本来魂の結び付けにはそれ相応の時間がかかるんだ。 君みたいにすぐ生まれ変われる人は多くはいないんだよ。 もっとも、そういう人たちはある使命によってすぐに生まれ変われるんだけどね。 魔王討伐や幼馴染みを助ける、世界平和とか魔王になったり、そういう使命。 だけど君にはそんなの荷が重いでしょ? だから特別中の特別、君はなにをしてもいいし、なにもしなくてもいい、そんな世界を用意した」


 声の主は俺の背中になにかを書くように指を走らせていた。


 「だから少しぐらい、痛いのは我慢できるだろ?」


 声の主がそう言って背中から指を離した瞬間、世界は突然動き出す。


 「え?」

 「死ねぇ!」


 鈍いなにかを突き刺すような音とともに、俺の意識は深い闇へと堕ちていった。

 最後、まぶたが閉じていく目の端に、こちらを見て笑っている女の子がいた。

 視界が薄くてはっきりとじゃないが、少しだけ悲しそうな顔をしながら、女の子は呟く。


 「ばいばい。 拓也」


 そして、今に至るということで。

 待てど暮らせど未だにこの暗闇を彷徨っています!

 なんか生まれ変わりとか新しい世界とか言ってた気がするけどどういうことなんだろうなぁ。

 買ったアイスもないし、一寸先は闇だし、俺本当に死んだのか?

 嫌だなぁ、まだあの漫画とか未完だし来月には新作ゲームも出るのに。

 早く俺をここから出せぇ! ゲームさせろ! 漫画読ませろ! アイス食わせろ!!

 そうして暴れていると、奥の方から光が射す。

 なぜかわからないが、俺はそこに向かわないと行けない気がした。

 優しく俺を包み込んでくれるような、そんな光に誘われて、俺は出口へと向かっていく。


 そして、俺は新しい世界で産まれた。

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