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疎遠になった幼馴染に好きな人ができたらしい

作者: 井村吉定

 メッセージアプリでの僕と彼女の会話履歴は、連絡先を交換した時の『テスト』の文字のみ。


 それから後にやり取りはない。


 これだけ見れば、連絡先は交換したものの、結局親しくはなれなかった知人のようにも思える。されど、僕と彼女の関係性は些か異なる。


 彼女――野中綾菜(のなかあやな)は、僕の幼馴染だ。


 家も近所で同い年。幼稚園も、小中学校も同じで、僕は毎日のように綾菜と遊んでいた。


 互いの両親も知り合いということもあり、一緒に海に行ったこともある。


 しかし、年を重ねるに連れて、顔を合わせることが少なくなった。


 別に喧嘩をしたという訳じゃない。遊び相手が幼馴染から別の友人に変化しただけだ。


 単純に男女の差というものだろう。基本的に異性よりは同性の方が話も合うし、余計な気配りもしなくて済む。

 

 だからここ最近――いや、中学くらいから僕は幼馴染とほとんど会話がなかった。


 そんな彼女からついさっき、こんなメッセージが僕のスマホに届いた。



『好きなひとできた』



 さて、どうしたものか――。


 正直反応に困る。届いたのはこの一文だけ。


 恋愛相談をしたいのだろうか、そうであれば他を当たってほしい。


 僕にそういう経験はない。フラれたこともフったこともない草食系男子だ。アドバイスできることなど皆無に等しい。


 もしかして、綾菜は僕に、自分のことを好きな人に紹介して欲しいとか?

 でも、僕の知り合いにそんな人いたっけ?


 わからない……。


 頭を捻って考えてみても、思い当たる節はない。


 確かに学校にはモテる男子は何人かいる。だからと言って、女性を紹介するほど僕と仲のいいイケメンの友人はいない。


 別にイケメンではなくても、女性が男性を好きになるきっかけはある。ただその場合、ある程度親しくないとそんなことにはならないはずだ。


 彼女の友人は僕と友達ではない。また、僕の友人は綾菜と友達ではない。


 僕の友人かつ、幼馴染と親しい男。この条件に該当する人物は存在しなかった。


「…………」


 あり得ない話だけど、綾菜は僕の気を引くためにこんなメッセージを送ってきたとか?


 好きな人に構ってもらいたくて、敢えて真逆のことをする。押してダメなら引いてみろの理論。


 はは……まさかね……。


 実際綾菜は僕のことをどう思っているんだろう?


 高校に入ってからは彼女に会ってない。心情を推し量るための材料は、中学までの思い出。


 ――――――。


 まず最初に思い浮かんだのは、幼馴染と一緒に行った海。


 綾菜は変なものが好きだった。砂浜で探すのは綺麗な貝殻なんかじゃなく、ヒトデ。


 僕もヒトデを探すのに付き合わされた。よく親とはぐれてしまい、二人でワンワン泣いたのは今となってはいい思い出だ。


 うん? ヒトデ?


 幼馴染のメッセージが「()()()()()()()」以外にも読み取れることに気付く。


 たった八文字に悶々としていた僕であったが、考え過ぎていたのかもしれない。


 件のメッセージが送られてから数分、今度は写真が送られてきた。


 写っていたのは星形のぬいぐるみ。幼馴染の言葉のその意味は――。


『好きなヒトデ来た』


 ということだったのだ。つまり、単なる報告であり、深い意味はない。


 平仮名で書かれていたから勘違いをしてしまった。ちょっと恥ずかしい……。


 そう言えば、綾菜と僕はこんなどうでもいいことを話して、笑っていた気がする。


 ああ、懐かしいな――。


 久しぶりに幼馴染と遊びたくなってきた。


 彼女に恋人がいるのなら、二人きりで会うのは難しいのかもしれないが、ものは試しだ。休みの日に会わないか誘ってみるとしよう。


『次の休み、遊ばない?』

『いいよ』


 思いの外あっさりと、了承する旨の返事が来た。


 僕たちは待ち合わせ場所を決め、今週の土曜に会うことになった。




 ★★★★★




「ふふふ、晃平(こうへい)は変わってないね」


 会って早々、綾菜の口から出たのは「久しぶり」なんて挨拶ではなかった。


 邂逅を果たすことのできた幼馴染は、僕の知る彼女の姿からかなり変わっていた。


 首の辺りまでしかなかった黒髪が、腰の辺りまで伸びていた。髪の毛の一本一本がサラサラとしていて、風に揺られると幻想的な雰囲気を醸し出す。


 睫毛も整えられていて、瞳はキラキラと光を反射させてまるで宝石だ


 近くにいると甘い香りが漂ってきて、僕を誘惑しているかのようだ。


 無邪気に遊んでいた頃と違い、今の彼女は落ち着いた雰囲気になっていた。


 もちろん変わっていない部分もある。ちょうど左目の下にあるホクロ。これはお化粧では消えなかったみたいだ。


 バッチリとメイクをしてきた彼女と対照的で、僕は普段通り。外出のため、最低限度の身だしなみは整えているけど、所詮はその程度。


「あ、あ、綾菜は綺麗になったね」


 何だかドキドキする。


 見方を変えればこれはデート。否が応でも幼馴染を異性として認識してしまう。


 軽い気持ちで誘ったはいいものの、もっと服に気を使えば良かったと後悔した。


「え? もしかして緊張してる?」


 してない訳がない。今の僕は、何というか……綾菜とは不釣り合いだ。


 彼氏彼女の関係ではないけれど、横に並んで歩くと明らかに不自然だ。


 さっきは驚きのあまり幼馴染を綺麗になったなんて言ったけど、綾菜からしたら口説いているようにも見える。


 そのことに思い至り、顔が熱くなるのを感じた。


「私と晃平の仲でしょ。前みたいに、なにも考えないで今日は気楽に遊びましょ」


 うっ!


 綾菜に手を引かれる。汗でびっしょりなのを気にせず、彼女は僕の手を握ってくれた。


 童貞丸出し。小さい頃は綾菜と何の気なしに手を繋くことができた。しかし、今は手を触れられると心臓が高鳴る。


「行こっ!」


 二人で向かったのは、レジャー施設やショッピングモールなんかじゃなく、昔よく行っていた駄菓子屋。


 そこで駄菓子を買って、これもまた昔よく遊んでいた公園のベンチで駄弁った。


 僕たちは思い出話に花を咲かせた。


 楽しかった。時間が過ぎるのがあっという間で、気付いたらお天道様が一日の役目を終えていた。


 いい時間になったということもあり、今日はもう解散となったその間際――


「晃平、私やっぱり晃平のこと好きみたい。私の彼氏になってくれないかな?」


 どうやら、あのメッセージは「好きな人できた」という意味でも間違いではなかったらしい。


 僕はその日から綾菜の恋人になった。

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日本語トリックが面白かったです!! 「好きな ひと できた」 「好きな ヒトデ きた」 相性よさそうだし二人で爆破しろー ヾ(≧▽≦)ノ
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