転生斡旋所#3
生まれてきた時代を間違った。その様に評される人物が存在する。
今回の件は、その一例である。
「日本の幕末、前職は暗殺者ですか」
和室にて、目前の人物の経歴を確認しながら、お茶の用意をしている。
「日本語の資料は読めますか?」
「申し訳ない。勉学とは無縁の生活を送ってきたもので」
特徴が全く無く、どこにでも居そうな顔をした着物姿の男が返答する。
それを受けて、湯飲みのお茶を渡しながら次の言葉を放つ。
「では、資料では無く口頭で説明させていただきます。輪廻転生はわかりますか?」
「閻魔様に生前の行動を元に評価され、次の行き先が決まるってやつですかい?そうすると、あんた、いやあなた様が閻魔様で?」
思っていた以上に博識なようで、話が早そうだと安心しながら、説明を続ける。
「閻魔様では無いです。正しくは無いですが、まぁその程度の認識で充分です。ここは、次の行き先について希望を伺い、可能な限り希望に沿った世界に送り出す所です」
「希望通りに?悪人でもですかい?」
自身が悪人だと認識しており、地獄行きを覚悟していたのであろう。驚いた顔で確認する。
「そうです。善人悪人問わず、ご希望を伺っております。理由についてはお答えできませんので悪しからず」
返答後、お茶を飲み一息入れた後、希望を言うように促した。
「正直、希望と言っても何も思いつきやせん。平凡な人生を送ることができれば満足でさぁ。全てお任せしやす」
「平凡な人生ですか。それだけではこちらとしても決め手に欠けますね。せめて一つだけでも無いですか?」
珍しく少し困った顔で追加の要望を言うように促す。
「でしたら、生きた時代の先、は?」
「んー、了解しました。では、未来の日本の平凡な家庭で、記憶の引き継ぎはどうしますか?」
「記憶の引き継ぎ?そんな事が?引き継いでどんな風に変わったか比較してみるのも楽しそうでやすね」
その一言を元に、転生は実行された。
いつも通り、趣味と言っても良い転生後を覗き見してみる。
・西暦2000年代、平凡とは言えない比較的裕福な家庭に生まれる。
(上流と下流しかなく、中流と言える家庭が存在しなかった為)
・歴史を学び、自身の前世の記憶との差に興味を持ち、歴史学者への道を歩む。
・気の合う女性と家庭を持ち、子、孫を可愛がり、天寿を全うする。
「暗殺者と言っても一人も殺した事がない、学が無いのも時代の問題であり、元の頭は良い方でしたので、
こんなものでしょう。満足していただけたでしょうか。もうお会いする事が無さそうで、何よりです」
そう呟き、いつもの仕事に戻って行った。