ー 35 ー ポルフィディオ盗賊団編⑨
地面を滑るように、月燈流星(*リリアン)とヘルメスが互いの間合いを詰めていく!
「つあっ!」
流星が三日月刀を振りかぶり、体重を乗せて斬りかかった!
「……ふん」
ヘルメスは体を逸らし、流星の斬撃を悠々と躱す。
相変わらず手にしたスマホに目を落としたまま――それでいて、驚異的なスピードで動き回っている!
そして、流星に向けて手首を静かに差し出した。
ビシュっ!
手首から糸の塊が弾丸のように飛び出した!!!
「ー!!!」
流星が大きくジャンプする!
糸の塊は野外ステージの柱に命中すると、ヘビのように一瞬で巻きついた!
「あっ!オレたち、ああやって捕まえられたんだな!」
クロロが、ミイラのように縛られた体を揺らしながら、糸を睨みつける。
「あ、あれは!!!」
コン太の額を冷や汗が伝う。
あの特徴的な糸の飛ばし方ー!完全に蜘蛛糸男じゃないか!
どういうことだ!?
リリアンさんの能力と同じく、映画やアニメ、コミックキャラの能力を使えるのか!?
しかも、ヘルメスは戦闘中だというのに、ずっとスマホを見たままだ……まさか――!
「お、おい!クロロっ!目がいいんだろ?あいつ、スマホで何を見てるか分かるか!?」
「おう!ちょっと待ってろ!」
クロロが目を凝らす。
……
「……お、いいね」
ヘルメスが画面に向かって呟く。
「これ、使えそうじゃん」
そう言って流星に腕を向けた瞬間!
手首から、マシンガンのように糸の塊が乱射された!
ズドドドドドー!
「ー!」
流星が背後を一瞬だけ振り返る。
多くの一般人が、ギャラリーのように2人を囲んでいる!
「ちっ!」
流星は剣を立て、糸の弾幕を刀身で受け止める!
あっという間に、三日月刀が糸で絡め取られ巻き尽くされていく!
まるで縁日の綿菓子のようだ!
……
「く、クロロ!どうだ?わかったか!?」
「ああ。なんだか、全身赤いヤツが、ヘビみてーなのと戦ってる!なんだありゃ!?」
「!や、やっぱり!」
2作前のゴッサマー・マンの映画だ!
スネーク系ヴィランとの一戦!
マシンガンのように糸を乱射するのは、予告編にも出てくるような、象徴的な戦闘シーンだー!
つまり…!
「り、リリアンさん!そいつ!スマホで見たキャラの能力が使えるみたいです!」
コン太が叫ぶ!
「…」
しかし、返事がない。
広場がシーンとした静寂に包まれる。
「え!?り、リリアンさん!」
流星は背を向けたまま、微動だにしない。
「…り、リリア…いや、りゅ、流星さん…?」
「!なんだ!」
流星が、ばっと振り向いた。
「…あ、あはは」
(リ、リリアンさん、役に入り込みすぎだろ……!)
「と、とにかく!あいつは映像で見たキャラの能力を使えます!
「なるほどな…」
流星の視線が、鋭く研ぎ澄まされる。
「ー新月」
ふっと、鍔の先の刀身が消えた!
鍔と束を残して、その先が霞のように消えて無くなったのだ!
絡みついていた糸が、どさりと地面に落ちた。
「これはオーラの剣だ。――そのことを忘れるな」
ブン…!
再び、鍔の先から青白く輝く三日月刀が出現した!
「…ここはギャラリーが多い。続きは空でやろう」
そう言うと、流星は刃を天へと振り上げた!
「半月斬!」
ズオオっ!!!!!
ヘルメスの足元から、半円状の巨大な刃先がせり上がる!
「ー!うん?」
バシュッ!
たまらずヘルメスが、上空へと跳び上がった!
それを追い、流星も空高く舞い上がる!
……
ぽかーん……。
広場の群衆は目をまんまるにし、空を見上げている…。
だが、2人はあっという間に小さな点となっていく。
「ど、どーなってんだ!?」
「さ、最新のVRじゃない!?裸眼でもすごい映像が見れる、みたいな…」
「流星様が美しすぎて、もはやなんでもいい…」
……
ドドン!
流星とヘルメスは、瞬く間に遥か上空へ。
先ほどの広場は、すでに拳ほどの大きさだ。
「…ギャラリーはいない。これで思いっきりやれるな」
流星のエメラルド色の瞳が、キラリと光る。
「…私は、早く終われば何でも」
ヘルメスがつまらなさそうに呟く。
「いいね。すぐに終わらせよう」
流星の三日月刀が青白い炎のようなオーラを宿す!
「三日月斬!!!」
横一文字に刀を振り抜いた!!!
ボッー!!!
空間を切り裂くような斬撃が、波動となって放たれる!
「…ふん」
ヘルメスは高度を一気に上げ、斬撃を回避する!
「まだまだっ!」
残像が残るほどのスピードで、流星が刀を縦横無尽に振り抜いていく!
グオオっ!!!!!
無数の斬撃が網の目を成し、唸りを上げてヘルメスに迫る!!!
「だるぅ…」
ヘルメスが、諦めたように天を仰いだ。
――その瞬間!
フッー!!!
煙のように、ヘルメスの姿が掻き消えた!
「ーはつ!」
流星が即座に振り向く!!!
すぐ背後に、ヘルメスの手首が迫っていた!
バシュッ!!!
糸の塊が、流星の全身を包み込む――!
捕らえられた!
しかしー!
「それ、効かないにゃーん!」
一瞬で『三日月にゃにゃん』に変身した流星が、素早く糸から逃れ、すぐまた月燈流星へと姿を変える!
「…ふ」
流星が、真冬の三日月のような笑みを浮かべる。
「…うん。やっぱ、だるっ」
……
「あいつ、消えたな。どうなってる?」
ベネットが上空の戦いを見上げながら呟く。
「あ、あの消えるの!クリアさんを攫ったときに使った技だ…!で、でも…ゴッサマー・マンにあんな能力はないぞ!」
コン太が目を細める。
コン太はゴッサマー・マンの全シリーズを視聴しているが、
シリーズを通し、敵を含めても、姿が消えるシーンなんて無かったはずだ!
「…そ、そういえば!あのヤローのスマホ、隅っこに小ちゃい画面で別の映像があったぞ!」
先ほどの広場でクロロが捉えたスマホの映像――。
横長の画面いっぱいに、赤い男とヘビの化け物の戦いが映っていた。
だが同時に、まったく別の映像が、画面の隅で小さく再生されていたのだ。
「デュ、デュアルスクリーンか!」
あいつ……二画面にして、別々の作品を同時に観てるのか!?
そんなことが……!?
――いや、タイパ重視の世代なら、全然あり得るか!
「おそらく……二画面目は『インビジブル・ガール』だ!」
コン太が確信をもって言う。
煙のエフェクトで姿を消すのが特徴的なミステリー映画だ!
「ふ、複数の能力を……同時に使えるってことか!」
……
ヒュウウ…。
レイクバッグの上空を、生暖かい風が吹き抜ける。
「……ゴッサマー・マンは捕獲用、インビジブル・ガールは逃走用。
このままだと、押されっぱなしだね。うん」
ヘルメスは淡々とそう言い、素早くスマホを操作した。
「そろそろ、予約したチケットの上映回が始まっちゃうから、もう終わりにしたい。
今日の映画は私が一番大好きな映画だから、絶対に初日に観たいの」
ゴゴゴゴゴ…!
「ー!」
ヘルメスを取り巻く空気が、一変した。
制服姿という見た目は変わらないが、ビリビリと肌を指すような覇気がヘルメスから噴き出ている!
ヘルメスは、ゆっくりと人差し指と中指を立て、口元へ運んだ。
「……火遁」
ドンっ!!!!!
口から放たれたのは、火炎放射器のような炎の奔流!
「!!!」
流星が反射的に距離を取る!
――ただの炎じゃない!
異常な温度だ!
オーラでガードしても、ダメージが残る……!
その回避を読んでいたかのように、ヘルメスの手元から影みたいな刃が三方向に飛び出した!
ーー手裏剣だ!
生き物のようにうねりながら、手裏剣が空を裂く!
ビシュッ!!!
一本が、流星の肩口を深く斬り裂いた!
「ちっ!」
先ほどとは、まるで別人だ。
完全な超攻撃型!
一撃一撃が、重い……!
「しゅっ!」
ヘルメスが、さらに手裏剣を放つ!
無数の刃が宙を右往左往しながら、流星に襲いかかる!
「しゃらくさい!」
流星が三日月刀を巧みに操り、手裏剣を打ち落としていく!
がー!
「…雷槌!」
ヘルメスがそう呟いた瞬間!
巨大な電気の塊が、流星の眼前に出現した!
「ーっ!!!」
バジジジジジ!!!!!
電撃が、打ち落とされた手裏剣を伝い、流星の全身へと流れ込む!
「ぐはぁ!!!!!」
……
「あ、あれは!喰らってはまずいレベルの電圧だ!」
ベネットの額から冷や汗が流れ落ちる。
いかにオーラ・ドライブでガードしようとも、深いダメージは必至だ!!!
「あ、あいつ!今度は忍者の映画を観てるみてえだ!」
クロロが目を細める。
「に、忍者!やっぱり!」
あれは…!
『史上最強の忍者』を謳い文句にした映画、『クナイ』!
その主人公、ヤエの能力だ!
映画自体は、くノ一・ヤエが兵器並みの火力で敵をひたすら蹂躙していくという、スカッと系アクション…!
だが――この力を現実世界に持ち込まれたら、ヤバい!!!
特に、決め技の『クナイ』だ!
ボクは映画を観たから知ってるが、最強奥義の『クナイ』を使われると…!
って!
げーっ!早速使おうとしてる!!!
……
「……リリアン。うちのメンバー、ハウスと戦うのを楽しみにしてるみたいだった」
ヘルメスが、片腕を天に掲げながら呟く。
「…な、なんの話だ!?」
流星が叫ぶ。
電撃を直に受けたせいで、全身が痺れている。
今、攻撃を喰らうのはまずい。
だが――奴は、完全に追撃動作に入っている……!
「私は、そんなのくだらないって思ってたけど、訂正するよ」
ゴゴゴゴゴ…!
「ー!」
体の芯を震わせるような悪寒が、流星を貫いた。
ヘルメスの姿に変化はない。しかし、何かとてつもなくまずいことが起きようとしている!
「思いっきり戦うのも……たまには悪くないね」
ヘルメスが掲げた腕を振り下ろしながら叫ぶっ!!!
「クナイ!」
ドンっ!!!
流星の眼前に、菱形の巨大な金属塊が出現した!
一軒家ほどはあるだろうか。見上げるほどの大きさだ!
(く、クナイ……!?)
姿形はクナイそのものだ!
しかしー!
ズズズズズズ…
クナイの鋒が、シールを剥がすように持ち上がっていく。
「なっ…!!!!!?」
捲れ上がった内部には、夥しい数の歯が鈍く光っていた。
こ、これはー?
巨大な蝮のような化け物が、口を大きく開いて浮かんでいる!!!
「クナイ。食料だ。いいよ」
ー!!!
バクン!!!
化け物が、流星を一口で飲み込んだ!
……
「う、うそっ!り、リリアンさんが食べられた!?」
地上からでも、その様子ははっきり見えた。
頭だけのヘビのようなモンスターが、瞬きすら許さない速さで、流星を丸呑みにしたのだ。
映画『クナイ』におけるクナイとは、金属製の武器ではない。
クナイのような姿をした召喚モンスターだったのだ!
「く、くそっ!は、はやく助けに行かねえと!!!そ、そうだ!」
クロロが上空を睨みつける!
「瞬間移動だ!オレはあっちにいる!!!」
ズズ…!
クロロの意識が、上空へ引き上げられていく――
しかし!
グアンッ!
糸で縛られた体が、強く引き戻された。
「だ、ダメだ!か、体が固定されてるからか!移動ができねえ!」
く、くそっ!このままじゃリリアンがー!
「おい!お前たち取り乱すな!」
ベネットが叫ぶ。
「落ち着いて、リリアンのオーラを探るんだ!」
「え……?」「オーラを……!?」
「……リリアンのオーラは、全く衰えていないぞ!」
……
ザシュ…!
刃物で肉を裂くような音が響いた。
ザシュザシュザシュ!!!
「!?」
ヘルメスが、クナイから後ずさる…!
「…そんなの、だるすぎん?」
ザンっ…!!!
クナイの体内から、湾曲した剣が突き出した!
紫色の血が噴き上がる!
「はああっ!!!」
ボンっ!!!
剣を突き上げながら、月燈流星が化け物の体内から飛び出す!!!
「…ふん。何なんだ、これは。気持ち悪いな」
流星はモンスターを見下ろし、静かに掌を向けた。
「消えてろ!!!」
ドンッ!!!
オーラの光弾が放たれる!
カッー!!!
衝撃波と共に、化け物は一瞬で塵と化した!
「…くっ」
ヘルメスのこめかみに、冷や汗が浮かぶ。
これまで感情を見せてこなかったヘルメスが、初めて見せる焦りだった。
「……お前は、様々なキャラの能力を使えるという点では、俺と似ている。だがな、決定的な違いがある…」
流星が、三日月刀を突きつける。
「推しへの愛だ!」
バギンっ!!!
三日月刀の斬撃が、ヘルメスのスマホを貫いた!
真っ二つに割れたスマホが、光を反射しながら宙を舞う。
「サブスクで作品を流し見するのもいいだろう。否定はしない」
流星が続ける。
「だが、広く浅くじゃ…オーラの強さには繋がらない!」
三日月刀が青白く輝き、凄まじいオーラが刃先に凝縮されていく……!
「次に生まれ変わったら――
一心にのめり込めるキャラを見つけな……!」
ゴゴゴゴゴ…!
「くらえっ!!!超必殺!メテオレイン!!!」
ズドドドドド…!!!
青白いオーラを纏った無数の突きが、一瞬でヘルメスを飲み込む。
まるで降り注ぐ隕石の雨だ!
ヘルメスの全身に、月面のクレーターみたいな穴が次々と刻まれていく!
「これで……お終いだ!!!」
最後に振りかぶった剣先から、巨大隕石のようなオーラの塊が放たれる!
ズドォンッッ!!!!!
青白い奔流がヘルメスに直撃し、爆炎が空を塗り替えるように一気に広がった!!
……
ゴゴゴゴゴ…
黒い煙を噴き上げながら、ヘルメスがゆっくりと地上へと落下していく…
……
「か、勝った!」
クロロが声を上げる!!!
「つ、強すぎますね!!!
「待て…」
ベネットが低く言う。
「喜ぶのは、まだ早いかもしれんぞ」
ベネットが体を揺する。
「――この糸、まだ切れていない。
能力者は……まだ生きている!」
……
カッ――!!!
地上から、一面を焼き尽くすような爆炎が噴き上がる。
そして、その炎の奥から――!!!
「そ、そんな……!!!」
………
……
…
時は、少し遡る――。
…
……
………
流星の怒涛の攻撃を受け、ヘルメスは途切れ途切れの意識のまま、地表へと落下していった。
ヒュウウ――――ッ
ドガガガン!!!
背中に、二度の衝撃が走った。
どうやら建物の窓を突き破り、そのまま地面に叩きつけられたらしい。
(し……死ぬ……。もう……終わりか……)
ハウスは、リリアンは――
私には、強すぎる相手だった。
かろうじて、薄目を開ける。
――!
諦めかけた脳裏に、閃光が走った。
目の前にあったのは、本日公開初日の映画…
私が、今日一番楽しみにしていた映画最新作の――巨大な屋外広告だった。
震える体を、無理やり起こす。
「……そうだ。まだ、死ねないね。うん」
(あいつは言った。推しへの愛が足りない、だっけ)
……確かに、今までの映画はそうだったのかもしれない。
だけど、この映画ーー
『スペース・ジュラシック・ウォーズ7』。
紛れもなく、“推しシリーズ”の第7作目。
1作目から、何度も何度も繰り返し観てきた。
セリフは全部、空で言える。
宇宙恐竜たちの動きも、鳴き声も、すべて――脳裏に焼き付いている。
スマホは壊された。
でも……この映画を観るために、負けるわけにはいかない。
……
画面なんて、いらない。
私の脳内で再生すればいい。
最強最悪の宇宙恐竜――
スペース・ティラノを。
………
……
…
ドカンッ!!!!!!!
レイクバッグの繁華街に、巨大な爆炎が立ち上がる!
炎の向こうから、巨大な青いティラノサウルスが姿を現した!!!
「ど、どうなってやがる!」
流星が身構える。
スマホは壊したはずだ……!
それなのに――!
地上から、禍々しいオーラの渦が立ち上っている。
「オーラの質も、量も……さっきまでとは段違いだ……!これが、盗賊団の本領か……!」
ゴゴゴゴゴ…
突然現れた巨大恐竜に、街は一瞬でパニックに陥った!
恐竜が立っているのは、レイクバッグ中心部――
ムーンライト通りのど真ん中。
その全高は約30メートル。
10階建てのビルに匹敵する巨体だ――!
ズシン……!
一歩踏み出すたび、アスファルトが砕け、
通り沿いの店舗のガラスが次々と粉々に割れていく!
……
(とんでもないものを目覚めさせてしまったー!!!
このままじゃ、一般の人たちにも大きな被害が出るぞ…!
すぐに片を付けなければ…)
流星が三日月刀にありったけのオーラを込める!
その瞬間ー!
恐竜が大きく口を開き、上空の流星へ向かって、
巨大なオーラ弾を吐き出した!
「なにっ!!!」
ズオオオオオっ!!!
寸前で回避する!
「こいつ……単なる恐竜じゃないな……!」
青いティラノが体を震わせると、
背中から巨大な翼が飛び出した!
!!!
まるで、ドラゴンだ――!
翼を二、三度はためかせると、
恐竜は流星を目掛けて上空へと舞い上がった!
ゴゴゴゴゴ…!
『ふふふ。びっくりしているようだね。と、言っても私自身もびっくりしているんだけども』
恐竜の口から、ヘルメスの声が響き渡る。
「……まさか、そんな奥の手があるとはな」
流星が唾を飲み込む。
(近づかれると、圧巻だ…!
図体の大きさだけじゃない…オーラ量も、その禍々しさも、今の俺を完全に上回っている……!
このままじゃ、勝てない……!)
流星は、背後を振り返る。
(ベネット、クロロ、コン太……
3人は噴水公園の野外ステージだ。
しかも吊るされたままで、移動はできない……
俺の姿を見ることはできないだろう…)
――逆に、チャンスだ。
パァァ……
流星の体が光に包まれ、
元のリリアンの姿へと戻る。
流星への変身が解かれたのだ!
「ふう…」
『!?
なんで? せっかく、これから楽しめると思ったのに。
……まさか、諦めたわけじゃないよね』
青いティラノと化したヘルメスが、首を傾げる。
「諦める? まさか」
リリアンが、少しだけ視線を逸らす。
「……ただ、嫌なだけよ。
だって……恥ずかしいんだもの」
『……は?』
「そう。絶対に見られたくないの。
特に……仲間には」
リリアンは顔を赤くし、両頬に手を当てる。
『何を言ってる? 一体、何の話だ!?』
ティラノが苛立ったように翼を打ち鳴らす。
「ほんとは私……クリエイターになりたいの。
でも、まだ……人に見せられるものじゃない。
だから……助かったわ。
あなたが、仲間たちを広場に縛り付けてくれて」
ギュゥゥゥゥン……!!!
リリアンの体から、眩い光が溢れ出す!
太陽のように熱いオーラが、空間を満たしていく――!
『…!こいつ!』
ティラノのヘルメスが瞬時に攻撃体勢に入る!!!
ー!このオーラの質!!!普通じゃない!!!
ーーー!最後の切り札を出す気だ!!!
……
ー最後の切り札ー
その名の通り、決着のための一手だ!
オーラ・ドライブの戦闘において、
イマジネット・オーラは、戦えば戦うほど敵に開示されていく。
戦闘の過程で分析され、
やがて対策されるのは避けられない。
だが――
オーラ・ドライブを極める者ほど、
その先に“隠した一手”を持っている。
それが、最後の切り札。
イマジネット・オーラの延長線上にある能力かもしれない。
あるいは、まったく異なる方向性の力かもしれない。
形は能力者次第で千差万別。
だからこそ――
その一手だけで、戦局が180度ひっくり返ることもある。
……
シュウウ…
リリアンの体を包んでいた光が、静かに消えた。
現れたのは、魔女のような衣装をまとった女性だ。
その衣装は一見真っ白に見えるが、見る角度によって、
プリズムのような虹色の波紋が表面を走っていく。
透き通る白い肌。
心の奥まで見通すような黄金の瞳。
その佇まいは、女神のように神々しい。
「……鏡の魔女よ」
リリアンがうっすらと微笑む。
「『プリ★プリ』って知ってるかな?アニメ『サンシャイン・ビート!プリンセス★プリティ』の略よ。私が大好きな魔法少女のアニメ」
ふふ、と小さく笑ってから、すぐに顔を赤らめる。
「この鏡の魔女は、原作には出てこない魔女なの。
…つまり、私の二次創作。
ああー!やだやだ!ほんと恥ずかしいっ!!!敵の前でも恥ずかしいっ!!!」
両手で顔を隠し、くねくねと身をよじる。
『……だったら、なんだっ!!!』
ティラノが口を大きく開いたと同時に、特大のオーラ弾が放たれた!!!
ズドーーーン!!!!!
至近距離で放たれたオーラ弾は、音速でリリアンを捉え、嵐のような爆風がレイクバッグの上空で弾けた!
『…ん?なんだ?普通に直撃したね』
ヘルメスが警戒態勢を取る。
今のオーラ弾は威嚇だった。
攻撃に対する反応を見るためのもの…。
なのに、あいつは避ける素振りすら見せなかった。
ゴゴゴゴゴ…
爆煙の中から、リリアンが姿を現す。
「いい不意打ちね!私じゃなかったら、死んでたかも!」
煌めく瞳でウインクをする。
『ばかなっ!』
「残念だったわね」
にっこりと笑みを浮かべ、両手をひらひらと掲げる。
「いいよ、攻撃して。私、このまま待ってるから」
『…!?』
ティラノのヘルメスが眉間に皺を寄せる。
(罠か?
何を狙ってる…?
先ほどのノーダメージも不可解だ…)
ヘルメスが両目にオーラを凝縮させる。
(あいつのオーラに変化はない…カウンターを狙っているわけではなさそうだが…
遠距離から叩いてやる!!!)
ヘルメスが翼をはためかせる。
『くらえええっ!!!』
ドドドドドドンッ!!!!!
咆哮と共に、
巨大なオーラ弾がマシンガンのように放たれる!!!
オーラ弾の嵐が、リリアンを飲み込み、
衝撃波がレイクバッグ上空を駆け抜けた!!!
「うわあー!」
「きゃーっ!何!?テロ!?」
「伏せろーっ!!」
衝撃波でビルのガラスが砕け散り、地上は阿鼻叫喚の地獄絵図だ!
ズドドドドドドドドドドー!!!!!
オーラ弾の乱撃が執拗に続くー!!!
…
『はあっ!はあっ!』
ヘルメスが、爆煙の先を睨む。
ー全力のオーラ弾を一つ残らずヒットさせた!
どんな能力でも、無事ではいまい。
ゴゴゴゴゴ…、
『……そ、そんな……』
煙の向こうから、
無傷のリリアンが手を振っている。
「はーい!まあ、頑張ったから教えてあげる! 私、無敵なの、今」
ヘルメスの目が見開かれる。
「ー鏡の魔女。私が創作したこのキャラは、全てのオーラ攻撃を無効化する。そして…」
リリアンが右手を天に掲げる!
「自分が受けたオーラ攻撃を反射する!」
ゴゴゴゴゴ!!!!!
手のひらに、ミラーボールのような輝く球体が現れた!
「…綺麗でしょ。この宝石のような光の中には、あなたが私にした攻撃の全てが詰まってるわ…」
ゴゴゴゴゴ…
「私が相手だった時点で、もうあなたは負けてたの。バイバイ」
リリアンが、ミラーボールを放つ!!!
『こ、こんなものっ!』
ヘルメスがオーラ弾をぶつけるが、ミラーボールに吸い込まれるように消えていく!
『なっ……!?吸収してる!?く、くそっ!』
バサっと翼を広げ、上空へと回避する!
しかし…!
グググ…!
ヘルメスの回避軌道にぴたりと合わせ、
ミラーボールが追尾する!
「…それはあなたのオーラなんだからね。どこまで逃げても追っていくわよ」
ギューン…!!!
ミラーボールがヘルメスの体の中心に向かって速度を上げる!!!
『くっ!し、しまった!今のスペース・ティラノの体は大きすぎる!よ、避けられない!!!』
ズドーーーン!!!!!
ミラーボールがヘルメスの体に着弾した瞬間、虹色の奔流が花火のように炸裂した!!!
巨大なドラゴンのようだったヘルメスの変身が解かれ、地上のシネコンへと落ちていった。
リリアンがふぅっと息をつく。
「さすが強敵だったわ。
…まあ、目を覚ますことができたら、そのまま映画を観ればいいわ」
最強の切り札で強敵ヘルメスを撃破したリリアン!
そしてクリアが囚われている場所は、もう目前だ!
しかし、更なる刺客が、ぶっ飛んだ能力で4人を待ち受ける!?




